poppy 第一章
「銀ちゃん!!ちょっと聞いて!!」
いつもの如く、目を輝かせてダイレクトアタックをしてきた雛菜に、銀時は飲んでいたいちご牛乳を吹き出した。
「んだよ、びっくりしてちょっとこぼしちゃったじゃねーか!!」
「昨日ね、面白い子に会ったの!」
「はァ?なんだそりゃ…」
銀時は着物の袖で口の周りを拭きながら怪訝な顔をした。
「うん!松陽先生みたいに髪の毛の長い男の子でね、色んなこと知ってて頭が良いの!!」
「なにィ!?男だと!?ちょっ、銀ちゃんそんなの許しませんよ!?」
「なんで銀ちゃんに許されなきゃいけないのかよく分かんないんだけど…」
ものすごい勢いで詰め寄ってくる銀時に、雛菜は頬を引きつらせた。
「で、どんな奴なんだ。俺にも会わせろ。雛菜に相応しいか俺が判断してやる」
「何か銀ちゃんうざいお兄ちゃんって感じだよね」
「まぁ実際俺のほうが年上だから…ってアレ?今うざいって言った?アレ?泣いてもいい?」
雛菜の唐突な悪口に銀時は撃沈した。ゴメンネ、嘘だよ。と言うと、すぐに機嫌を良くした。銀時は非常に現金なのだ。
「で、どんな奴なんだ?」
「整った顔した博識な銀ちゃんと同じぐらいの歳の人!」
「ほうほう、でそいつの名前は?」
「知らない」
銀時は雛菜の発言にズッコケた。
「名前も知らない奴と話したの!?」
「うん、お互い自己紹介とかしなかったから。この間の月食の話しをしただけだし…」
銀時は少し顔を引きつらせた。月食事件以来、幽霊とオカマが怖いのだ。
「そ、そっか〜。雛菜ちゃんは真面目だね〜」
銀時がそう言うと、雛菜は顔を少し曇らせた。
「…銀ちゃんは、私といて楽しくない?」
「は?何でそうなるの?」
思わず真顔になった銀時は、俯く雛菜を凝視した。
「だって、お前真面目すぎてつまんないって言われたし…銀ちゃんいつも寝てたりサボってたりするから、私といても楽しくないんじゃないかなって…」
「それ、誰かに言われたのか?」
銀時の発言に雛菜は少し狼狽え、目を泳がせた。
それが答えだった。
銀時は少し舌打ちをすると、雛菜の顔を両手ではさみ、無理矢理銀時と顔を合わせ、目を覗き込んだ。雛菜の目は、ゆらゆら揺れていたが、おずおずと銀時の目を覗き返した。
「雛菜、俺はお前といて、楽しくないなんて思ったことは一度もない。お前がいるだけで嬉しいし、お前が楽しそうに色んなことを教えてくれんのも嬉しい。誰に何言われたかは知らねーが、俺のこの気持ちは嘘じゃねーから」
雛菜は少し涙を浮かべて目を伏せ、嬉しそうに笑った。
「うん、うん、私も。私も銀ちゃんといるだけで楽しい!!」
「んじゃそろそろ暗くなるから帰ろーぜ」
雛菜はうん!と大きく頷くと、夕陽で赤く染まった道を銀時と共に駆け出した。
ちなみに銀時は、この時話していた長髪の男の子の存在はすっかりもう忘れていた。