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「近藤さん、いくらアンタが賛成してたって俺ァ反対する。こんな訳の分からねぇ奴に背中預けられるわきゃねーだろ」
土方の言葉に近藤はぐっと押し黙って近藤の隣に立つ巌勝を見た。巌勝は土方の言葉に特に反応を示すことなく、己の相棒のカラスを撫で続けていた。その何も考えていなさそうな巌勝の様子に土方は腹を立てる。何だってこいつはこんなに他人事のような顔をしているのか。全く理解ができない。
「トシ、そうは言ってもだな。俺たちは先の動乱で大勢の隊士を亡くしている。新しく隊士を迎え入れる必要がある。巌勝は戦闘経験もあるし、実践慣れもしている。まさに即戦力となってくれるはずだ。なぁ、巌勝?」
「はい、近藤さん」
こくり、と近藤の言葉に巌勝は頷く。土方は巌勝の肩辺りで揃えられた紫紺の髪が揺れるのを苦い顔をしながら見つめる。どうして近藤はこんな怪しさ満点の奴を信用しようと思えるのか。近藤だから、と言えばそれまでなのだが、土方はどうにも納得できない。しかし近藤の言うように真選組は今、人手不足であることも確かであった。土方は眉間に寄る皺を左手の親指でぐっと押した。
「コイツが真選組に入隊できるかどうか、まずはその腕を見させてもらう。これから行われる真選組新隊士採用試験の結果にもよる」
巌勝はパチリと瞬きを一つする。銀郎はバサバサと巌勝から飛び上がって巌勝の頭上を円を描きながら飛んだ。
「最終試験、最終試験!!ミチカツ、突破デキル!!」
最終試験とは一体。土方と近藤が顔を見合わせて訝しる横で巌勝はあぁ、と納得したように頷いた。
「今回もあんな感じなら私でも突破できそうです」
「ソレハミチカツダケェ!!」
近藤は銀郎の言葉に戸惑いつつも、巌勝に一枚の紙を手渡す。巌勝はそれを受け取り、首を傾げた。
「近藤さん、これは何ですか?」
「何って、履歴書だけど」
「履歴書…、取り合えずここに書いてある通りに自分の情報を入力していけばいいのですか?」
「あ、あぁ…。そう。ここに筆と硯はあるから」
「ありがとうございます」
近藤に言われるままに巌勝は筆を取る。文机に向かい履歴書に書き込む巌勝から少し離れた所まで土方は近藤を引っ張る。
「おい近藤さん。やっぱアイツヤベェんじゃねーか。今時履歴書の書き方も知らないような世間知らず、うちに置いておけねぇよ」
「いやしかしなぁ…。巌勝はもともと俺たちとは違う星から来ているようだし、それは仕方無いんじゃないか?」
「でもさすがに常識も無い人間が警察なんて無理があるだろ」
真選組の常識人なんてそもそも殆ど居ないのだが、それを突っ込む人など誰も居なかった。近藤と土方が話し合っているうちに巌勝は履歴書を書き終えていたらしい。巌勝はくるり、と土方と近藤に向き直って履歴書を差し出してきた。
「書き終えました。これで大丈夫でしょうか」
「あ、あぁ…」
近藤は巌勝の履歴書を見て意外と情報量多いな、などと思う。継国巌勝、1月6日生、満21才、現住所…東京府…聞いたこと無いな。履歴は尋常小学校卒、高等小学校中退、鬼殺隊入隊。そこで止まっている。尋常小学校とやらは聞いたこと無いが、寺子屋のようなものだろうか。それならば近藤らよりも学があると言えるのではないだろうか。そんなことを考えながら、ううん、と唸った。土方も履歴書を見て、巌勝の話を嘘と言い切るには難しいと判断して眉間の皺を益々深くした。疑いたいのに疑うにはあまりに怪しすぎて逆に疑いにくい。そもそも巌勝が攘夷浪士の手先だというのであれば、こんな回りくどい真似などしないだろう。なぜなら自ら怪しまれに行く者などいないからだ。そのようなリスクを冒すより、一般人として紛れ込む方が余ほど楽だからだ。
「取り合えず巌勝、道場に行こう。そこで皆ウォーミングアップをしてるだろうから、巌勝もそれに倣うと良い」
「ウォーミングアップ…」
「準備体操みたいなものさ」
説明しながら近藤は妙な気分になった。まるで子供のようだ、と。近藤達が普段使っている言葉も、何もかも知らない事が多すぎる。小さい頃の沖田を思い出して、近藤は少し感慨深くなった。あの可愛らしい子供であった沖田も今や真選組を支える一番隊隊長だ。多少クソガキな部分は否めないし、性格もお世辞にも言いとは言えないが立派になったものである。じん、と泣きそうになった近藤を巌勝は首を傾げながら見ていた。巌勝はあまりしゃべる方ではないらしい。
近藤が道場まで巌勝を連れて行くと、もう新隊士候補者たちは集まっていたようだ。巌勝はあの真選組の制服とどこか似た隊服を纏っていたが、剣道をするのにそれではやりにくかろう、という事で道着を貸すことにした。裏の方で道着に着替えさせて、巌勝を最後の候補者として並ばせる。新隊士候補者たちに限らず、見学に来ていた真選組隊士達も巌勝を見て騒めく。巌勝の隣にいた男に至っては顔を赤らめていた。おいおい、そんなんで真選組隊士が務まるのか。近藤は自分の事を棚に上げつつそんなことを考えた。
「えー、それではこれより真選組新隊士採用試験を始める。真選組隊士を志す諸君らにはこれから剣道をしてもらう。試合形式は三分一本勝負で勝ち抜き戦とする。皆の剣の腕を試す場となる。実践だと思って心して掛かる様に!!」
近藤が挨拶の言葉を終えたと同時に土方が道場に足を踏み入れる。どうやら試験の様子を見に来たらしい。
「アイツ、一体どこまでやるんだか。あの細腕じゃたかが知れてるが」
「そうか?むしろ巌勝のあの成りは戦いの上で有利だと思うがな。あの屈強な男どもの中でおの小柄な体格だろ?やはり皆油断する。一度格下に見たらなかなか勝てまいて」
「まぁそれに見合う実力がありゃな」
土方は煙草をふかして胴垂を着ける巌勝を見ていたが、やがて近藤さん、と話しかけた。
「最初から巌勝を入れてくれ。アイツの体力面が気になる」
「特別扱いはいけないが…そうだな。俺も今回ばかりは同意だな。間違いなく巌勝は今回の新人の中で一番強い」
新人たちが緊張した面持ちの中、巌勝は一人特に緊張した様子も無く背筋をしゃんと伸ばして黙想していた。精神統一ができている。この時点で他の者たちよりも頭一つ分、いやもしかしたら並みの隊士よりも優れていた。
巌勝が名前を呼ばれた時も特に驚く様子も無く、巌勝は粛々と面をつけてコートの外に立った。審判の用意が整い、巌勝と壱番の隊士が互いに礼をする。壱番は少し礼のタイミングが早い。土方は冷静にこの時点で壱番は負けただろうな、と確信した。蹲踞をして、主審が始め、と合図をする。一瞬の事であった。壱番は場外に吹っ飛ばされた。巌勝の突き一つで。
「つ、突き在り!!勝負あり!!」
壱番の隊士はどうやら気を失ってしまったらしく、試合どころではないようだった。土方は冷や汗をかく。
どうやら近藤はとんでもない拾い物をしてしまったようである。
その後も巌勝の快進撃は止まらず、今回志望していた37人を全てを叩きのめしてしまった。巌勝はどうやら小柄な体格を生かした早い剣戟が特徴の様で、その速さは沖田にも劣らないのではないか、と思うほどであった。最初のような人を吹っ飛ばすほどの威力の技は一つも出さなかったのは、おそらく加減したためと思われる。流石に化け物を相手にしていたというだけあって、その実力も折り紙付き、というわけらしい。
「へぇ、アンタ中々やるねぇ。俺が相手してやるよ」
そこにやって来たのは沖田であった。どうやら巌勝の試合を見ていたらしい。竹刀を肩に担いだ沖田はにやりとあくどい笑みを浮かべた。土方ははぁ、とため息を吐いた。沖田は最近、こうして新人隊士を虐める事を楽しみにしているらしい。恐らく沖田自らがこうして扱くことで真選組の厳しさを教えようとしているのだろうが、それでもやり過ぎな面は否めない。
「総悟」
「良いじゃないですかィ、土方さん。調子乗ってる奴の鼻っ柱へし折ってやらないとこの先やっていけませんぜ」
「お前はただ甚振りたいだけだろ」
はぁ、とため息を吐いて土方は巌勝を見る。いつの間にか面を外していた巌勝は真っ直ぐに沖田を見ていた。竹刀を持って立ち上がる。沖田と巌勝は対峙し、そして両者共に動く。ばしいぃぃん、と竹刀がぶつかり合う音がする。早すぎて残像すら目で追えない。剣圧で新人隊士達が吹き飛ばされる。
「あの人たちが怪我を負っています。そろそろやめた方が良いんじゃないんですか」
「なら早くその手を止めたらどうでィ」
「怪我をするのは嫌なので。それにまだ怪我が完全に治っているわけではないので、貴方の竹刀を受けたら怪我が悪化します」
「はっ、そんなやわな奴は真選組にはいらねぇよ」
喧嘩をしながらも二人は竹刀をぶつけ合う。あの沖田とここまでやるとは。土方も近藤も感心しっぱなしだった。しかし、このままだと巌勝の言う通り隊士達が怪我を負ってしまう。土方は沖田と巌勝に声を掛ける。
「おい!!てめぇら!!そろそろやめろ!!」
「コイツが手を止めたら止めやすぜ」
「総悟!!巌勝!!お前も止めろ!!」
「すみませんが無理です」
ひょいひょい、と沖田の剣を避ける巌勝に土方はぶちキレる。こいつらには何を言っても無駄なのか。こめかみに青筋を立てる土方に近藤はうぅん、と唸ってから声を上げる。
「二人ともその辺にしておけ」
「はい、近藤さん」
「なんで近藤さんの話は素直に聞くんだァ!!喧嘩売ってんのかテメェ!」
パッと沖田との喧嘩を止めて近藤の傍に控えた巌勝に土方は吠える。しかし巌勝は土方の言葉にごく当たり前のような顔をして首を傾げた。
「長の言うことを聞くのは当然でしょう。近藤さんの命令は絶対です」
「近藤さん過激派かテメェは」
首を傾げて近藤を見る巌勝に沖田はグッと眉間に皺を寄せる。
「おい。テメェ、なに近藤さんに色目使ってんだ」
「お、おい、総悟。色目ってそんな…そもそも巌勝は男だぞ?」
近藤の言葉に巌勝、土方、沖田はパチクリと目を瞬かせた。近藤はそんな三人の反応に戸惑う。何か変な事言っただろうか。
「え、何その反応…」
「近藤さん、こいつ女ですぜ」
沖田がぐい、と巌勝の道着の胸元を左右に引っ張る。巌勝の胸元が皆の前に晒される。さらしの下には柔らかそうな女人のそれがあった。
「この無駄な脂肪、女にしかないでしょう?」
「何するんですか」
ばっと胸元を隠す巌勝に近藤はポカン、と目を点にして、そして巌勝の履歴書を見る。近藤は完全に見逃していたが、巌勝の性別のところには確かに女に丸されていた。近藤は土方を見る。土方はやや目を逸らしながら煙草をふかした。
「俺も手当てしたときから知ってた」
「土方さん、アンタこいつの裸見たんですかィ。こりゃ逮捕モンですぜ」
「俺は不可抗力だ!!テメェこそ女の胸元探ったんだ。逮捕されんのはテメェだろ」
土方と沖田が喧嘩する声を聴きながら近藤は白目をむいて、そして鼻血を出して気絶した。
土方の言葉に近藤はぐっと押し黙って近藤の隣に立つ巌勝を見た。巌勝は土方の言葉に特に反応を示すことなく、己の相棒のカラスを撫で続けていた。その何も考えていなさそうな巌勝の様子に土方は腹を立てる。何だってこいつはこんなに他人事のような顔をしているのか。全く理解ができない。
「トシ、そうは言ってもだな。俺たちは先の動乱で大勢の隊士を亡くしている。新しく隊士を迎え入れる必要がある。巌勝は戦闘経験もあるし、実践慣れもしている。まさに即戦力となってくれるはずだ。なぁ、巌勝?」
「はい、近藤さん」
こくり、と近藤の言葉に巌勝は頷く。土方は巌勝の肩辺りで揃えられた紫紺の髪が揺れるのを苦い顔をしながら見つめる。どうして近藤はこんな怪しさ満点の奴を信用しようと思えるのか。近藤だから、と言えばそれまでなのだが、土方はどうにも納得できない。しかし近藤の言うように真選組は今、人手不足であることも確かであった。土方は眉間に寄る皺を左手の親指でぐっと押した。
「コイツが真選組に入隊できるかどうか、まずはその腕を見させてもらう。これから行われる真選組新隊士採用試験の結果にもよる」
巌勝はパチリと瞬きを一つする。銀郎はバサバサと巌勝から飛び上がって巌勝の頭上を円を描きながら飛んだ。
「最終試験、最終試験!!ミチカツ、突破デキル!!」
最終試験とは一体。土方と近藤が顔を見合わせて訝しる横で巌勝はあぁ、と納得したように頷いた。
「今回もあんな感じなら私でも突破できそうです」
「ソレハミチカツダケェ!!」
近藤は銀郎の言葉に戸惑いつつも、巌勝に一枚の紙を手渡す。巌勝はそれを受け取り、首を傾げた。
「近藤さん、これは何ですか?」
「何って、履歴書だけど」
「履歴書…、取り合えずここに書いてある通りに自分の情報を入力していけばいいのですか?」
「あ、あぁ…。そう。ここに筆と硯はあるから」
「ありがとうございます」
近藤に言われるままに巌勝は筆を取る。文机に向かい履歴書に書き込む巌勝から少し離れた所まで土方は近藤を引っ張る。
「おい近藤さん。やっぱアイツヤベェんじゃねーか。今時履歴書の書き方も知らないような世間知らず、うちに置いておけねぇよ」
「いやしかしなぁ…。巌勝はもともと俺たちとは違う星から来ているようだし、それは仕方無いんじゃないか?」
「でもさすがに常識も無い人間が警察なんて無理があるだろ」
真選組の常識人なんてそもそも殆ど居ないのだが、それを突っ込む人など誰も居なかった。近藤と土方が話し合っているうちに巌勝は履歴書を書き終えていたらしい。巌勝はくるり、と土方と近藤に向き直って履歴書を差し出してきた。
「書き終えました。これで大丈夫でしょうか」
「あ、あぁ…」
近藤は巌勝の履歴書を見て意外と情報量多いな、などと思う。継国巌勝、1月6日生、満21才、現住所…東京府…聞いたこと無いな。履歴は尋常小学校卒、高等小学校中退、鬼殺隊入隊。そこで止まっている。尋常小学校とやらは聞いたこと無いが、寺子屋のようなものだろうか。それならば近藤らよりも学があると言えるのではないだろうか。そんなことを考えながら、ううん、と唸った。土方も履歴書を見て、巌勝の話を嘘と言い切るには難しいと判断して眉間の皺を益々深くした。疑いたいのに疑うにはあまりに怪しすぎて逆に疑いにくい。そもそも巌勝が攘夷浪士の手先だというのであれば、こんな回りくどい真似などしないだろう。なぜなら自ら怪しまれに行く者などいないからだ。そのようなリスクを冒すより、一般人として紛れ込む方が余ほど楽だからだ。
「取り合えず巌勝、道場に行こう。そこで皆ウォーミングアップをしてるだろうから、巌勝もそれに倣うと良い」
「ウォーミングアップ…」
「準備体操みたいなものさ」
説明しながら近藤は妙な気分になった。まるで子供のようだ、と。近藤達が普段使っている言葉も、何もかも知らない事が多すぎる。小さい頃の沖田を思い出して、近藤は少し感慨深くなった。あの可愛らしい子供であった沖田も今や真選組を支える一番隊隊長だ。多少クソガキな部分は否めないし、性格もお世辞にも言いとは言えないが立派になったものである。じん、と泣きそうになった近藤を巌勝は首を傾げながら見ていた。巌勝はあまりしゃべる方ではないらしい。
近藤が道場まで巌勝を連れて行くと、もう新隊士候補者たちは集まっていたようだ。巌勝はあの真選組の制服とどこか似た隊服を纏っていたが、剣道をするのにそれではやりにくかろう、という事で道着を貸すことにした。裏の方で道着に着替えさせて、巌勝を最後の候補者として並ばせる。新隊士候補者たちに限らず、見学に来ていた真選組隊士達も巌勝を見て騒めく。巌勝の隣にいた男に至っては顔を赤らめていた。おいおい、そんなんで真選組隊士が務まるのか。近藤は自分の事を棚に上げつつそんなことを考えた。
「えー、それではこれより真選組新隊士採用試験を始める。真選組隊士を志す諸君らにはこれから剣道をしてもらう。試合形式は三分一本勝負で勝ち抜き戦とする。皆の剣の腕を試す場となる。実践だと思って心して掛かる様に!!」
近藤が挨拶の言葉を終えたと同時に土方が道場に足を踏み入れる。どうやら試験の様子を見に来たらしい。
「アイツ、一体どこまでやるんだか。あの細腕じゃたかが知れてるが」
「そうか?むしろ巌勝のあの成りは戦いの上で有利だと思うがな。あの屈強な男どもの中でおの小柄な体格だろ?やはり皆油断する。一度格下に見たらなかなか勝てまいて」
「まぁそれに見合う実力がありゃな」
土方は煙草をふかして胴垂を着ける巌勝を見ていたが、やがて近藤さん、と話しかけた。
「最初から巌勝を入れてくれ。アイツの体力面が気になる」
「特別扱いはいけないが…そうだな。俺も今回ばかりは同意だな。間違いなく巌勝は今回の新人の中で一番強い」
新人たちが緊張した面持ちの中、巌勝は一人特に緊張した様子も無く背筋をしゃんと伸ばして黙想していた。精神統一ができている。この時点で他の者たちよりも頭一つ分、いやもしかしたら並みの隊士よりも優れていた。
巌勝が名前を呼ばれた時も特に驚く様子も無く、巌勝は粛々と面をつけてコートの外に立った。審判の用意が整い、巌勝と壱番の隊士が互いに礼をする。壱番は少し礼のタイミングが早い。土方は冷静にこの時点で壱番は負けただろうな、と確信した。蹲踞をして、主審が始め、と合図をする。一瞬の事であった。壱番は場外に吹っ飛ばされた。巌勝の突き一つで。
「つ、突き在り!!勝負あり!!」
壱番の隊士はどうやら気を失ってしまったらしく、試合どころではないようだった。土方は冷や汗をかく。
どうやら近藤はとんでもない拾い物をしてしまったようである。
その後も巌勝の快進撃は止まらず、今回志望していた37人を全てを叩きのめしてしまった。巌勝はどうやら小柄な体格を生かした早い剣戟が特徴の様で、その速さは沖田にも劣らないのではないか、と思うほどであった。最初のような人を吹っ飛ばすほどの威力の技は一つも出さなかったのは、おそらく加減したためと思われる。流石に化け物を相手にしていたというだけあって、その実力も折り紙付き、というわけらしい。
「へぇ、アンタ中々やるねぇ。俺が相手してやるよ」
そこにやって来たのは沖田であった。どうやら巌勝の試合を見ていたらしい。竹刀を肩に担いだ沖田はにやりとあくどい笑みを浮かべた。土方ははぁ、とため息を吐いた。沖田は最近、こうして新人隊士を虐める事を楽しみにしているらしい。恐らく沖田自らがこうして扱くことで真選組の厳しさを教えようとしているのだろうが、それでもやり過ぎな面は否めない。
「総悟」
「良いじゃないですかィ、土方さん。調子乗ってる奴の鼻っ柱へし折ってやらないとこの先やっていけませんぜ」
「お前はただ甚振りたいだけだろ」
はぁ、とため息を吐いて土方は巌勝を見る。いつの間にか面を外していた巌勝は真っ直ぐに沖田を見ていた。竹刀を持って立ち上がる。沖田と巌勝は対峙し、そして両者共に動く。ばしいぃぃん、と竹刀がぶつかり合う音がする。早すぎて残像すら目で追えない。剣圧で新人隊士達が吹き飛ばされる。
「あの人たちが怪我を負っています。そろそろやめた方が良いんじゃないんですか」
「なら早くその手を止めたらどうでィ」
「怪我をするのは嫌なので。それにまだ怪我が完全に治っているわけではないので、貴方の竹刀を受けたら怪我が悪化します」
「はっ、そんなやわな奴は真選組にはいらねぇよ」
喧嘩をしながらも二人は竹刀をぶつけ合う。あの沖田とここまでやるとは。土方も近藤も感心しっぱなしだった。しかし、このままだと巌勝の言う通り隊士達が怪我を負ってしまう。土方は沖田と巌勝に声を掛ける。
「おい!!てめぇら!!そろそろやめろ!!」
「コイツが手を止めたら止めやすぜ」
「総悟!!巌勝!!お前も止めろ!!」
「すみませんが無理です」
ひょいひょい、と沖田の剣を避ける巌勝に土方はぶちキレる。こいつらには何を言っても無駄なのか。こめかみに青筋を立てる土方に近藤はうぅん、と唸ってから声を上げる。
「二人ともその辺にしておけ」
「はい、近藤さん」
「なんで近藤さんの話は素直に聞くんだァ!!喧嘩売ってんのかテメェ!」
パッと沖田との喧嘩を止めて近藤の傍に控えた巌勝に土方は吠える。しかし巌勝は土方の言葉にごく当たり前のような顔をして首を傾げた。
「長の言うことを聞くのは当然でしょう。近藤さんの命令は絶対です」
「近藤さん過激派かテメェは」
首を傾げて近藤を見る巌勝に沖田はグッと眉間に皺を寄せる。
「おい。テメェ、なに近藤さんに色目使ってんだ」
「お、おい、総悟。色目ってそんな…そもそも巌勝は男だぞ?」
近藤の言葉に巌勝、土方、沖田はパチクリと目を瞬かせた。近藤はそんな三人の反応に戸惑う。何か変な事言っただろうか。
「え、何その反応…」
「近藤さん、こいつ女ですぜ」
沖田がぐい、と巌勝の道着の胸元を左右に引っ張る。巌勝の胸元が皆の前に晒される。さらしの下には柔らかそうな女人のそれがあった。
「この無駄な脂肪、女にしかないでしょう?」
「何するんですか」
ばっと胸元を隠す巌勝に近藤はポカン、と目を点にして、そして巌勝の履歴書を見る。近藤は完全に見逃していたが、巌勝の性別のところには確かに女に丸されていた。近藤は土方を見る。土方はやや目を逸らしながら煙草をふかした。
「俺も手当てしたときから知ってた」
「土方さん、アンタこいつの裸見たんですかィ。こりゃ逮捕モンですぜ」
「俺は不可抗力だ!!テメェこそ女の胸元探ったんだ。逮捕されんのはテメェだろ」
土方と沖田が喧嘩する声を聴きながら近藤は白目をむいて、そして鼻血を出して気絶した。
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