黒バス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は小さい頃からバスケが大好きで、いつもボールを夢中で追いかけているお兄ちゃんが好きだった。
だからこそ、こうやって物凄く落ち込んでいるお兄ちゃんを見るのは辛かった。
「お兄ちゃん…」
「悪いな、優。少しそうっとしておいてくれないか」
お兄ちゃんの悲しそうな声に、表情に何も言えなかった。かけようと思っていた言葉は結局口から出てくることはなく、私はお兄ちゃんの部屋をそっと立ち去った。
私は今日、お兄ちゃんの試合の応援に行った。お兄ちゃんの通う誠凛高校バスケ部は、新設校でありながらインターハイ予選を順調に勝ち上がっていた。お兄ちゃんもPGとして活躍していた。相手の高校にもこのまま行けば間違いなく勝てるであろう点数で勝っていた。
結果から言えば、お兄ちゃん達は勝った。でもチームの要である木吉さんを失ったのだ。相手のラフプレーによって。
バスケのことにそこまで詳しくない私でも分かった。あれは間違いなくわざと木吉さんに怪我をさせたのだ、と。
お兄ちゃん達の努力をあんな風に踏みにじるなんて許せなかった。それに、あんなのスポーツマンシップに反する行いだ。あの麻呂眉ゲス男が出てきた瞬間、何かが変わった。上手くは説明できないけれど、ほぼほぼ勘だけど、あの男が関わっている。それだけは断言できる。
はぁ、とため息を吐いて椅子に座り、頭を机の上に乗っけて目を閉じる。あんなお兄ちゃんはもう、見たくなかった。3年間頑張って練習していたのに、勝てなかった中学時代。お兄ちゃんは何て事無いように振る舞っていたけど、明らかにバスケを心から楽しめていなかった。けど高校に入ってからは本当に楽しそうで、毎日キラキラしていたのに。
パチリ、と目を開けて頭を机の上に乗っけたまま右を向く。すると、『霧崎第一』と書かれたパンフレットがあった。なんでこんなものが、と思ったが、未だに志望校を決めあぐねている私に先生がオススメとして持ってきたのを思いだした。
都内有数の進学校で、レベル的にも申し分ないから。という理由だったはずだ。先生が私の成績なら推薦で入れる、とも言っていた。
私は良いことを思いついてニヤリと笑った。こんな顔をお兄ちゃんとお姉ちゃん、それから舞ちゃんに見つかったら、きっとビックリされちゃうくらい悪い顔だと思う。でもそんなことは気にならなかった。決めた。
「ここに行って、麻呂眉ゲス男に地味な復讐をしよう!!」
…はっ!!復讐でフックシュート!!キタコレ!!
* * *
無事霧崎第一高校に入学した私は、かなり楽しい毎日を送っていた。仲の良い友人もできて、勉強もまぁそれなりにやっているのでちゃんとついて行けるし。
それになによりバスケ部を観察できる。
あの麻呂眉ゲス男はかなり人気の生徒のようで、体育館はいつも女子生徒達が押しかけていた。まぁ押しかける、とは言っても体育館の中には入れて貰えないので二階の窓から応援しているだけだが。それでもしっかりとその姿を確認することができる。
ふっ、ふっ、ふっ…。これで麻呂眉ゲス男にバレることなく霧崎第一バスケ部の弱みを握れるぜ…!!
麻呂眉ゲス男だってこんなに大勢居る女子一人一人をきちんと見ているわけがないのだから。
私は鼻歌を歌いながら手に持ったいたボードにさらさらと情報を書き加えた。
* * *
「あれー?伊月ちゃん何してんのー?」
ゴソゴソとカバンを漁っていた私に、原君が話し掛けてくる。原君というのは、同じクラスのよく私に絡んでくる男の子だ。何を考えているのかさっぱり分からないので結構苦手だったりする。
「んー、ちょっと大切なものが見当たらなくて…」
「ふーん。どっかに忘れてきたんじゃねーの?例えば体育館とか」
「あ、そうかも!!ありがとう原君!ちょっと行ってくる!」
私はその時原君がニヤニヤと笑っていることに気がついていなかった。原君はいってらー、とチュッパチャプスを口に入れながら手を振ってきた。
超ダッシュで体育館の二階に着いた私は、目当てのものが床に置かれているのを見て、ほっと息をついた。
良かった~!!あった!
そう思ってバスケ部観察レポートが挟まってあるクリップボードを取り上げる。
「やぁ」
後ろから掛けられた声にぞっと鳥肌が立った。どこかねっとりしたような、あからさまな悪意が混ざっている声だった。しかもこの声、なんか聞いたことがある。
そうだ、これは在校生代表の声だ。そして在校生代表は、麻呂眉ゲス男だった。
つまり、私に話し掛けてきたのは私が今弱みを握ろうとしている麻呂眉ゲス男本人、ということになる。
私は後ろを振り返ることなく、クリップボードを胸に抱えると出口に向かってダッシュした。きっと過去最速だったと思う。
「行かせるかよバァカ」
足に何かを引っかけられた後、私は盛大に顔から床に突っ込んだ。ひ、酷い!!私が今ボードを持ってるせいで、手が使えないのを見越して足を引っかけたな!!
「逃げんなよクソ女」
ぐいっと髪の毛を引っ張られる。痛い痛い痛い!!お母さん譲りのキューティクルさらっさらの私の髪の毛を引っ張るなんて…!こいつ外道だ!知ってたけど!
しかも何を考えたのか、私の背中の上に思いっきり乗っかってやがる!!重たいんだけど!?
それでも私はクリップボードを見られまいと必死に腕の中に抱きしめた。
「隠しても無駄だぜ。もう見た後だからな」
殊勝に笑う麻呂眉ゲス男。だが私はそんな言葉に騙されたりするほど馬鹿じゃないんだ。麻呂眉ゲス男は私の後ろから声を掛けてきた。おそらく油断させて引ったくろうという寸法だろう。
「誰がその手に乗りますか!!絶対に見たと言いながら見てないパターンでしょう」
「…案外馬鹿じゃねーな」
麻呂眉ゲス男はそうぽつりと呟くとパッと私の髪の毛を離して、私の上から退いた。良かった、解放された、と片腕をついて立ち上がろうとした瞬間、クリップボードが腕の中から消えた。
ハッとして後ろを振り向くと、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべながらクリップボードを覗き込んでいる麻呂眉ゲス男が居た。
…これは三十六計逃げるに如かず。
ダッと再び走りだした私を、麻呂眉ゲス男は後ろ襟をぐっと掴んで引き留めた。苦しい首が絞まる!!
「離して下さい!!」
バタバタと暴れるが、麻呂眉ゲス男は全く意に介さずにマジマジと私の書いたバスケ部を事細かに記した紙を読んでいる。
「へぇ…悪くねぇな」
全然離してくれない麻呂眉ゲス男にイラッとした私は、グッと沈んだ後で麻呂眉ゲス男が伸ばしていた腕を逆手にとって投げ飛ばす。私は小さい頃からずっと合気道を習っているんだ!なめるなよ!
麻呂眉ゲス男は咄嗟に受け身はとったようだが、思わぬ反撃だったのか、ポカンとして見ていた。
「失礼します!!」
…はっ!!
「レイアップで失礼アップ!!キタコレ!」
良いダジャレを思いついた私は、教室にあるネタ帳に書き込むために一目散にその場を去った。思いっきり怪訝な顔をしている麻呂眉ゲス男、そしてバスケ部の弱みシートを残して。
* * *
「いーづきちゃん♪」
4時間目の授業が終わると、原君がひょっこりと顔を出してきた。
「原君。どうしたの?」
原君はいつものニヤニヤした笑みを浮かべながら何て事無いように喋る。
「良かったら一緒ご飯食べないかなーって。ねー、別に良いっしょ?」
原君はそう言っていつも私が一緒にお昼ご飯を食べている友達に尋ねた。友達は不良っぽい原君が恐いのか、コクコクと赤べこのように肯いていた。
「てことで、さぁいこー」
いや、と断ろうとしたが、するとばっきばきの目で「は?」とがんをつけられたので、仕方なく従うことにした。原君恐すぎるよ。
「はい、到着ー。兄貴ー。伊月ちゃん連れて来たよん」
原君はそう言って私を目の前に居る前髪の長すぎる男性に預けると、さっさと消えてしまった。原君の酷すぎる行動に思わず固まってしまう。…え?えっ!?今何が起こったの!?
てかこの人、バスケ部の人じゃん!!もう既に嫌な予感しかしないんだけど!
「俺原一哉。アイツの兄貴ね。君は伊月優ちゃんでしょ?」
は、原ぁぁぁ(弟)!!お前私になんか恨みでもあるの!?なんで私をこの人の所に連れて来たの!?どう考えてもこれもうリンチじゃない!ここに麻呂眉ゲス男が来て、リンチされるんでしょ!?分かるよ!!
私が一歩後ずさると、原先輩はいきなり私の両腕を掴んできた。か弱い女の子に力で対抗しようだなんて…なんて卑劣な奴なんだ。なんて思いつつも原先輩の両肘を下から上に押し上げる。するとあっさりと解放されたので、間合いから抜け出した。
「あり?」
原先輩はいつの間にか居なくなっていた私に、きょとりとしながら首を傾げる。とりあえず逃げて、原君を絞めようと決めた私はさっさと立ち去ろうとする。しかし、どこからともなく聞こえてきた指を鳴らした音に背筋が凍った。
あの音、確か木吉さんが怪我する前に聞こえた音だ。
「通さねぇよ」
そう言って現れたのは、霧崎第一のレギュラーメンバーだった。円になって私を囲んでいる。かごめか、かごめでもするのか。
これはもうリンチで確定だ。そう確信した私はいつ誰が来ても大丈夫なように戦闘態勢をとる。麻呂眉ゲス男が一歩前に出たので、いつ手を上げられても大丈夫なように構えた。
麻呂眉ゲス男はニヤリ、とゲスい笑みを浮かべた。嫌な予感しかしない。いや、さっきから嫌な予感以外してないんだけど!!
「おい、お前。バスケ部の
麻呂眉ゲス男の予想外の言葉にポカンとしてしまう。な、なんか今、マネージャーと書いて下僕って読まなかった??ねぇ??
「えっともし断った」
「君のくっだらないネタ帳をネットに晒して炎上させる」
言い終わる前にかぶせられた。この大仏ほくろ男、ムカつく…!いつも寝てるくせに何で今日起きてるの!?てかさりげなく炎上させるからいのネタだと馬鹿にされた?
え?殴っても良いかな?
内心イラッとしていると、死んだ魚のような目の先輩が一歩前に出た。
「お前の兄貴、確か伊月俊だったな。あいつ、今度俺達と試合することがあったら致命的な怪我するかもしれないな。それもバスケができないほどの」
この死んだ魚の…長いな。魚先輩でいいや。魚先輩は無言で圧を掛けてくる。真顔で能面のような顔をしているから余計に恐い。
脅しだとは分かっている。でもこの人達には前科がある。それもかなりの数の。もし私が入らなかったとしたら、見せしめとして本当に潰しそうだ。それだけは本当に嫌だ。
お兄ちゃんがバスケを手放さなきゃいけないなんて。
「…やれば良いんでしょう」
麻呂眉ゲス男を睨みながらそう言うと、麻呂眉ゲス男はふはっ、と変な笑い声を上げた。
「やっぱ良い子ちゃんは扱いやすくて楽だぜ」
この男、どこまでも舐め腐り寄って…。いつかこの男の鼻っ柱を折ってやる。
「おっと、あんまり悪いことは考えない方が良いぜ。もしなんかやったりしたら、社会的地位を失うことになるぜ。まぁ誰が、とは言わねぇが」
ほんとムカつく!!麻呂眉のクソヤロー。
こうして半ば無理矢理バスケ部に入部した私が、麻呂眉ゲス男に復讐できたかどうかは言うまでもないだろう。
3/3ページ