坂田さん、坂田さん
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いらっしゃい、土方さん」
その日、定食屋にやって来たのは帯刀した二枚目のお侍さんだった。廃刀令のご時世で帯刀しているのは専ら攘夷浪士か真選組のどちらかだ。例外として坂田さん(しかも真剣じゃなくて木刀)はいるけどそのくらいだ。
こちらの彼はどっちだろうか。生真面目そうな様子からして真選組かもしれない。
「おばちゃん、いつもの」
「はいよ」
土方さんはどうやら常連さんのようだ。テーブルを片付けながらお母さんの手元を見ようと覗き込む。すると土方さんは私が居ることに気がついたのか、声を掛けてきた。
「アンタ見ねェ顔だな。新しいバイトか?」
「この子は私の娘の響子だよ」
「へぇ、おばちゃんにも娘が居たんだな」
凄くデジャヴを感じる会話だ。何処かで聞いたことがあるような…。あ、そうか。
「坂田さんと同じような事言ってるのか」
ボソッと呟くと、土方さんは思いっきり顔を顰めた。嫌悪感を隠そうともしていないところが逆に凄い。
「あ?万事屋のヤローと一緒にすんじゃねェよ」
どうやら土方さんは坂田さんを嫌っているらしい。思考回路が似ているのに、と思ったがそれを言ったら怒られそうなのでやめておいた。
「土方スペシャル一丁!」
土方さんの目の前に出されたのは黄色い物体。未知の食べ物、そして漂ってくる酸っぱい匂いに思わず顔を顰める。味覚がおかしいところもやっぱり土方さんと坂田さんは似ている。
「そうだ、土方さん。うちの娘、どうだい?アンタ最近上からの見合いが煩くて敵わないって言ってたじゃないかい」
「ちょっとお母さん!?」
おい、なんでそうなる!!私は確かにちょっと婚期は逃してるけど、今結婚する気は毛頭無い。それに正直、ご飯にマヨネーズを掛けて食べるイカれた味覚の人と結婚としたいとは全く思えない。
土方さんは肩をくすめた。
「俺は結婚する気はねェからな。真選組の副長なんていつ死んでもおかしくはねェし」
「土方さんが鬼の副長さんだったんですか」
へぇ、と感心してしまう。タカさんが前に真選組には鬼の副長と呼ばれる男が居る、と話していた。確かに土方さんは目が鋭いので、怖く感じてしまうかも知れないな、と思った。
「お前俺の名前は知らねぇのにそのあだ名知ってんのか」
「はい、知り合いの方が話してました。真選組について詳しい人なのできっとファンなんでしょうね」
「へぇ、真選組にファンなんていたんだな」
土方さんは少し腑に落ちない表情をしながら土方スペシャルを掻き込んだ。というよりは、ご飯とマヨネーズの割合が明らかに釣り合っていないので、マヨネーズをそのまま吸い込んでる、と言った方が正しいかもしれないが。
「そうだ、響子。アンタアパートの方は良いのかい?バイトの方は?」
お母さんは心配性だ。京できちんと暮らしていたというのに、新生活を始めるとすぐこれだ。まぁ生活が安定したらきっと大丈夫だろう。
「バイトはお試し。本業にする気はないよ。人が足りなかったら入るって事になったよ。アパートの方は住人もちらほら入ってくれてるから大丈夫」
私の言葉に土方さんは驚いたように目を見開いた。
「あ、アンタ…!!」
何だ、と思いつつ首をかしげると土方さんはハッとした顔をした後で何でも無いと首を横に振った。絶対に何でも無いという顔じゃなかった。
「そうそう、アパートに来た住民さんで面白い方がいらっしゃるんですよ。牛乳とあんパンばっかり買う張り込み中の刑事みたいな方が」
そう言うと土方さんは思いっきりマヨネーズを吹き出した。きったな。
おしぼりを渡すと、土方さんは少し米神に青筋を浮かべながらそれを受け取った。
土方さんはとっとと土方スペシャルを食べ終えるとお勘定をして店を出て行った。流石真選組の副長さん、考えていることが似ている坂田さんとは違ってきちんとぴったり払っていた。
「山崎ィ!!!」
外で土方さんの怒鳴り声と男性の情けない悲鳴が聞こえてきた。すみません副長!と謝るその声がどこか聞き覚えのあるような気がしたが、まぁ良いかと自分を納得させることにした。