坂田さん、坂田さん
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いつまでも実家で過ごしているわけにもいかないので、引っ越すことにした。
京ではそれなりにお金を稼いでいたので、売りに出されていたアパートを丸々買い取り、大家、兼管理人をする事にした。安定した不労所得、なんて素敵な響きなんだ。こうしたのはよく手紙のやり取りをしているタカさんの助言してくれたからだ。流石は物知りなタカさんだ。やっぱりタカさんはすごい。
そんなわけで管理人さんになった私はアパートへ赴いた。業者を呼んで荷物を管理人室に運び込んで貰い、部屋の片付けを終える。
住人のいない部屋の掃除を一つずつ丁寧に終えた後、アパートのご近所さんにも挨拶をせねばとアパートを出る。するとその瞬間に目の前に見えたのは『万事屋 銀ちゃん』の文字。
私は膝から崩れ落ちた。
嘘だろ、なんでだ。なんでよりによって坂田さんの家の前のアパートなんだ。くそ、きちんと確認すれば良かった。
「アンタそんなところでどうしたんだい」
絶望にうちひしがれていたところに声を掛けてきたのは強面のおばあさんだ。黒い着物を着こなしていて、『姐さん』という感じがする。
「あまりにも神様に嫌われていることに絶望しているんです」
のろのろと立ち上がりながらおばあさんに返事をする。おばあさんは私を見ると少し笑った。
「生きてれば良いことも悪いこともあるさ。それに悪いと思っていたことが実は良いことに繋がってたってこともあるしねェ。まぁ何にせよ、神様に嫌われているかどうかなんて私達には分かりっこないってことだね」
「確かにそう言われてみればそうですね」
やはりご年配の方が仰る言葉の重みというのは凄い。すとん、と胸の中に落ちてきて、納得してしまう。
「私はお登勢。ここのスナックのオーナーだよ」
お登勢さんが指さしたのは、坂田さんちの一つ下の階。ということは必然的にお登勢さんはお向かいさんということになる。
私は慌てて頭を下げた。
「今日、向かいに越してきた清水響子です。このアパートの管理人を務めております。ほんの気持ちですが、よろしかったらお召し上がり下さい」
そう言いながら手土産を渡す。お登勢さんは驚いた顔をした後で、可笑しそうに笑った。
「そうかい。実は私もこの建物の大家なんだ。何か困ったことがあったらうちにおいで。いつでも相談に乗るよ」
「お登勢さん…!!」
なんていい人なんだ。坂田さんはいるけど、いい人に巡り会えた。良かった。そう感動していたのも束の間、聞きたくなかった声が聞こえてきた。
「おい、バーさん。今月の家賃なんだけどさー…って、響ちゃんじゃん」
言うまでもなく坂田さんだ。私を響ちゃんと呼ぶのは、志村さんと坂田さんの他には居ない。志村さんだったらどんなに良かったことか…!!
「銀時。アンタこの子と知り合いなのかい?」
「それ俺のセリフなんだけど。バーさんなんで響ちゃんのこと知ってんの」
二人は一斉に私を見てくる。驚くから止めて欲しい。私はそっと目を逸らした。
坂田さんはお登勢さんが持っている私が渡した手土産を見ると、ニヤリと笑った。察しが良すぎて怖い。
「響ちゃん引っ越してきたんだ。しかも俺んちの前」
坂田さんは一方的に肩を組んで、さらに頬を突いてくる。だからそれ止めろっつーの!!なんでほっぺを触るんだ!!
「響ちゃん俺のことどんだけ好きなの?」
「ちょっと勘違いしないで下さい。全然そんなんじゃないですから。安いところを買ったら、たまたま坂田さんの家の前になっただけですから」
「あいっからわずのツンデレ具合だな。良いんだよ、ホントのこと言っても」
坂田さんはニヤニヤしているが、残念ながら全て本当のことを言っているので坂田さんが望んでいる、そのツンデレとやらではない。私は坂田さんの手をはたき落としながら答える。
「私ツンデレじゃないです」
「でもアンタのその言い方ってツンデレのそれだよねェ」
「バーさん分かってんじゃねェか」
お登勢さん余計なこと言わないで!!なんかややこしくなるじゃん!!坂田さんも完全に私がツンデレだと思い込んでるし。
「ツンデレって、素直になりたくてもなれなくてツンツンした態度をとっちゃう三千院○ギお嬢様みたいな人のことですよね」
そう言うと坂田さんに思いっきりため息をつかれた。なんだ、その分かってないな、とでも言いたげな表情は。
「響ちゃん全然分かってねーわ。ググッといた方が良いぜ、マジで」
なんで私がそんなことをせねばなるまい。面倒くさいし、時間の無駄だ。というか坂田さんの方こそ女性との距離の取り方をググった方が良いと思う。毎度毎度、近すぎる。ggrks。
「まぁ良いです。坂田さんもこれ、宜しかったらどうぞ。あとずっと言い忘れてましたけど、この前うちの店で食べたとき、お勘定百円足りませんでしたよ」
手土産を渡しながら言うと、坂田さんはヤベッという顔をした後で「じゃあ俺はここで」と言いながらそそくさと立ち去った。相変わらずよく分からない人だ。
「坂田さんって不思議な人ですよね」
お登勢さんにそう言うと、お登勢さんは豪快に笑った。
「アンタ、銀時のこと嫌ってるわけじゃないんだねェ」
私はその言葉に息を詰まらせた。確かに嫌ってはいない。金輪際会いたくないと思うレベルで苦手ではあるけども。
「…苦手ですけどね」
そう言うとお登勢さんはまたおかしそうに笑った。
「ま、そのうちアイツの良さが分かってくるさ」
「別に分からなくても良いです」
「アンタそういうこと言うからツンデレ呼ばわりされるんだよ」
お登勢さんは呆れたように言うと、手をひらひらとさせながら立ち去って行った。
何というか、みんな。
「キャラが濃いな…」
その後坂田さんの家の隣の花屋さんへ行ったときにさらにそれを痛感することになるのだった。