坂田さん、坂田さん
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建物と建物の間にある狭い通路の中で私と男性が向かい合っていた。前に進みたいが、狭すぎて進めないし、男性が退いてくれる様子もなかった。もっとも、それ以前に私は男性に掴まれて動くことが出来ないのだが。
「…」
「…」
顔を上げるとパチリ、と男性と目が合う。死んだ魚のような赤い目に銀色の髪。着物を着崩して中にジャージを着ている。おかしな出で立ちだ。
顔を顰めながら男性を睨みつける。男性は鼻から赤い物を垂らした。所謂鼻血、というやつだ。汚い。もし私の着物に付いたらどうしてくれるんだ。
男性は自身の手の中にある感触を確かめるように少し力を入れた。それと同時にたわむ私の胸。若干の痛みを伴う。
自分の眉間の皺が更に深くなるのを感じながら口を開いた。
「あの、離して下さい」
「…あ?」
男性は私の声に怪訝そうな顔をする。いや、あ?じゃない。それはこっちのセリフだバカヤロー。
「胸、触ってます。セクハラですよ」
男性は私の顔から胸に視線を落とした。すると物凄い勢いで私から離れて距離をとった。自身がセクハラしていることに漸く気がついたらしい。
にしても何だ、その反応は。被害者は私だというのに。何で男性がセクハラ受けたみたいになってんだ。なんか傷つく。
「いや、あの、ごちそうさま…なくて、ありが、じゃなくて…その、悪ぃ」
言葉の端々に本音が透けて見えている。何だこの人は。何だごちそうさまって。馬鹿じゃないのか、この人。
「わざとじゃないなら良いです。仕方ないですよ」
私は内心ブリザードの嵐だったが何でも無いような顔をして、落としてしまっていた買い物袋をしゃがんで拾い上げた。
あー…こりゃ駄目だ。卵が完全に潰れてる。
仕方が無い、もう一度買いに行くか、と来た道を戻ろうとすると、後ろから「待て待て待て」という声がかかった。一体何なんだ。
「え?なに?それだけ?ほかにもっと反応ないの?『キャーッ!触らないでよー』とか『銀さんのエッチ♡』とか。え?殴ったりしねーの?」
この人は一体何を言ってるんだろうか。頭可笑しいのか?いや、私のマネをしようとしているのかは知らないが、身体をクネクネさせたり、気色の悪い裏声を出している人が頭可笑しくないはずがない。あ、これ、もしかして反語ってやつかな。古文苦手だから良く分かんないけど、多分あってる、はず。
まぁ色々と良く分からないが、私がこの人に掛ける言葉はこれだけだろう。
「あの、SMプレイがしたいならそういうお店行って下さい。好きなだけ殴って貰えますよ」
では、と私は頭を下げて今度こそ立ち去る。本当にあの人が殴って欲しくてあんな事したんだったら、ガチでヤバい人だ。金輪際関わりたくない。というか関わる気も無い。
後ろで男性が「ハァァァ!?」と大声を上げていたが気にせずに私はスーパーに行くことにした。
全く、今日はとんだ厄日だ。結野アナのブラック星座占いは本当によく当たる。
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