Case2
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皆でカラオケに繰り出すももう大分夜も遅い。この時間まで起きている事は殆どない私からしたら少し辛い、というかもう大分眠い。それに冷房が効いていて少し寒い。
「大丈夫か?眠ぃのか」
ちょこんと隣に腰かけるコナン君にあくびをしながら答える。
「うん、大丈夫…」
「どっからどう聞いても大丈夫じゃねぇよ」
「うん…」
ふぁ、と欠伸を右手で隠して浮かんできた涙を拭う。
「先輩と一緒に家の中で待ってれば良かったかもな」
「うん、そだね」
歌を歌ってる蘭と園子をオレンジジュースを飲みながらぼんやりと見ているコナン君をそっと盗み見る。その横顔を見ているとふと先ほどの疑問が頭を過ぎって、コナン君にそれを直接尋ねていた。
「新一君、レモンパイが好物だったんだね。知らなかった」
「まぁ、好きだけど…。何でそんな事聞くんだよ」
「それだったら、誕生日にレモンパイ作れば良かったなって…」
コナン君はきょとんとした顔で私を見上げてから、ふいと顔を逸らした。
「バーロー、俺はさくらが作ってくれるモンならフルーツタルトでも、レモンパイでもなんでも嬉しいんだよ。それに言ったろ…。オメェの作るフルーツタルトが一番うめぇって…」
去年の新一君の誕生日に言われた言葉だ。コナン君の耳はあの時みたいに赤くなっていて、コナン君照れてるなぁ、って笑ってしまった。新一君は照れ屋だなんて、私も人の事言えない。私も先ほどまで感じていた寒さを感じないくらい、体が熱くなっていた。
「何笑ってんだよ」
コナン君は顔を赤くしながら私のおでこをこずいてきた。それは全然痛くなかったけれど、私はいたっと言いながら溢れた涙をそっと拭く。あの時の、言いたいことも満足にいえないような中学生だった時の私も救われたような気がした。
中学の時、一度麻美先輩に呼び出された事があった。当時生徒会長だった麻美先輩と一般生徒だった私には関わりなんて無かった。麻美先輩は美人で、生徒会長を務める凄い人で、私からしたら雲の上のような存在だった。だからこそ何で麻美先輩が私を呼び出したりしたのか分からなかった。麻美先輩は追い詰められたような、悔しそうな顔をしていた。
『なんで私が…こんな一人じゃ何もできないような子に負けなきゃいけないの!!!』
全身に冷水を浴びせられたみたいに一気に体温が下がったのを感じた。麻美先輩の心の底からの叫びだった。麻美先輩は本気で苛立っていた。本気で、私を忌み嫌っていた。怖い。ひゅっ、と息を呑んで一歩後退った。
『貴女、工藤くんのお姫様にでもなってるつもりなの?工藤君とは釣り合わないわ!』
グサリ。ナイフのような私を弾劾する鋭い言葉が胸に突き刺さる。でも麻美先輩はそう声を荒げながらも、泣いていた。ボロボロと涙を零していた。悔しい、悲しい、なんて惨めなんだ。麻美先輩は私も嫌っていたけど、それ以上に自分に対して苛立ってるように見えた。はぁ、はぁ、と息を荒げる麻美先輩になんて声をかけたらよいか分からなくて俯いた。
思ってることは、きちんと口に出さなくちゃ。私がこんなんだから、麻美先輩を傷つけてしまった。泣かせてしまった。
『…私は弱いです。すぐに泣くし、人と上手く関わることもできない。麻美先輩みたいに誰からも慕われるような人格者じゃないし、根暗だし。みんなの中心に居る、新一君とか蘭や園子とは釣り合わないとは分かっています。こんな私、私が一番嫌いです』
目を見開いてうろたえた麻美先輩を他所に私は言葉を紡いだ。私は私の事が嫌いだった。心が弱くって、いつも人に守られてばかり。お兄ちゃん、叔父さん、蘭、園子、…新一君。いつも誰かの背中に隠れて、安心している。みっともない。人を信じられなくて、自分の殻に閉じこもった。周りの声を、自分の声すらも聞かなくなったこともあった。でも、だからこそ。コレに関しては誰になんと言われても引くわけにはいかなかった。それに麻美先輩に対して、誠実でありたかった。
『こんな私でも、皆私のことを好きって言ってくれるから。一緒に居たいって言ってくれるから。私は私が大好きな人達の言葉を裏切りたくないから。私が、皆と一緒に居たいから!
だから、ごめんなさい、麻美先輩。貴方になんと言われても、私は皆と、新一君と一緒に居ます』
麻美先輩の頬を伝う涙をハンカチでそっと拭きながら、思いをきちんと伝える。麻美先輩は少し後ろに下がってから俯向いていたけれど、くるりと私に背を向けた。麻美先輩はもう、泣いていなかった。
『そりゃ勝てないわよ』
麻美先輩は最後に私を見て少し笑った。
『ごめんなさいね、こんな所に呼び出して怒鳴ったりして。酷いこと言っちゃって』
多分、それが麻美先輩の精一杯だったんだと思う。麻美先輩の背中を見送っていたけれど、私は先輩の言葉に何も言うことができなかった。何か言う前に、立ち去ってしまったから。
ねぇ、新一君。やっぱり私は君のことを、君の言葉を信じたくて仕方がないんだ。何でだろうね。