Case2
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「え?新一の好物がレモンパイを?」
「ええ、彼の好物よ!」
麻美先輩の言葉にずきりと胸が痛んだ。別荘に着いて、パーティーの準備を手伝っている時に麻美先輩が言った言葉だった。新一君がレモンパイ好きだなんて、知らなかった。私の知らない新一君を麻美先輩が知っているという事に何で傷ついているんだろう。だって私はいつも新一君と一緒なわけじゃない。確かに一緒に過ごした時間は長いけれど、部活とか、クラスとか、今だって私の知らない新一君の事はまだまだいっぱいあるはずで。
「今日、彼が来てくれると思ってみんなにコレ、宣伝しちゃったから一応持ってきたのよ」
そうなんだ。…なんで私、こんなにもやもやしているんだろう。どくどくと、鼓動がやけに大きく聞こえる。心臓をかきむしりたいような衝動に駆られる。
「さくらさん、教えてあげよっか?コレの作り方…」
「え…」
どうしよう。新一君が好きだというレモンパイ。麻美先輩を見る。麻美先輩じゃあの時と同じ表情をしていた。私を試している。直感でそう分かった。好意は分からないくせに、なんでこういう気持ちは分かっちゃうんだろうね。
「ぜひ、教えて下さい」
「ふふふ」
ニコニコと笑う麻美先輩に私も笑い返す。なんでだろう。負けたくないって、そう思った。
麻美先輩に言われたようにレモンパイを作っていく。でも出来栄えは…。
「うわ、ぐちゃぐちゃ…」
匂いは良いのに、なぜか見栄えは良くない。パイの上の部分が歪な形になってしまっていた。
「でもすっごくいい匂いよ!さくら、頂くね!!」
ニコリ、と笑ってフォローしてくれた蘭に救われる。蘭の言葉に最初は渋っていたメンバーも次々にレモンパイに手を伸ばす。コナン君も蘭に切り分けてもらったレモンパイを頬張った。
「さくら、凄く美味しいよ」
「あら、ほんと」
「おいしーっ♡」
満面の笑みで頬張るコナン君。思いの他好評なのは嬉しい。けれど、どこか引っ掛かる。なんで素直に喜べないんだろう。
「さくらさん、貴女凄いわね…」
「麻美先輩?」
「ううん、なんでもないわ。やっぱり大切なのは中身だな、と思ったの」
麻美先輩の言葉にどうこたえようかと迷った後で、そうですね、とだけ答えた。
夜も更けてきて、宴もたけなわ。日付が変わったその時に一通のファックスが届いた。麻美先輩が現在通っている東都大学の教授から届いたものらしい。ファックスが届いたことを麻美先輩と同じ文学部の宮崎千夏さんが麻美先輩に伝えるが、麻美先輩は疲れてしまったのかもう寝ていた。麻美先輩にブランケットを掛けながら話を聞く。
「うそ…どーするの、このケーキ…」
「それにこの後、駅前のカラオケに行くんでしょ?」
もう予約してある、と困った顔をする皆に推理研究会部長の沢井さんが提案する。
「仕方ない…。ケーキは明日にして、オレ達だけでもカラオケに繰り出すか」
ぞろぞろと駅前のカラオケボックスに向かおうと車に移動する。動かない私を不審に思ったのか、蘭が「さくら?」と顔を覗き込んで来る。何でもない、と首を横に振って蘭に続く。車に向かいながら、私は視界の隅で沢井さんが笑うのを捉えていた。