Case2
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「本日の稽古を終わります。礼!!」
「ありがとうございました」
「解散!!」
「失礼します」
一礼してから面の中に突っ込んでいた手ぬぐいで汗を拭う。まだ肌寒い日が続いているけれど、稽古の後はいつも汗まみれになる。ふう、と息を吐きながら首を拭いていると私の左隣に座っている桐谷君が涙ぐみながら私に話しかけてきた。桐谷君は私と同じ2年B組のクラスメイトなのだが、何となく弟っぽくて可愛いと園子が言っていた。うーん、確かにこうやってボコボコにされて半泣きになっている姿は弟っぽいかもしれない。
「今日も主将にボコボコにされた…。主将鬼強ぇ…」
「うん、まぁ…しょうがないよ。だってあの主将だもん」
帝丹高校の主将は全国大会常連の猛者だ。それこそ西で強いのが服部君と沖田君なら、東で強いのは鬼丸さんとうちの主将だ。ちらり、と上座にいる主将を盗み見る。主将は少し不思議そうな顔をした後でニコリ、と笑った。…嫌な予感しかしない。
「あれ?もしかして稽古し足りなかった?今から地稽古する?さくら」
ニコニコと笑う主将に全力で首を横に振る。地稽古とは試合形式の稽古の事だが、試合と違うのは審判が居ない事と時間の区切り無いこと。大抵どちらかが一本取ったら終了になる、のだが。この人の場合、なぜか私が一本取るまで終わらない。しかも隙あらば打ってくるため、最後は殆ど相掛かり(互いが相手の隙を見つけて打ち込む稽古の事。一番キツイ稽古だと私は思っている)のようになる。まぁこの人のおかげでどんなに疲れてても試合で取るべきところで一本取れるようになったのだが。
「今日は13時30分から予定があるので…」
「じゃあ明日やろうね。明日は三本勝負にしようか」
今日も鬼主将は健在らしい。爽やかな笑顔と共に告げられた死刑宣告に思わず手ぬぐいに顔を埋めた。
「あ、桐谷、お前もな」
左隣で桐谷君が悲鳴を上げて面に頭を突っ込んだ。
学校でシャワーを浴びてから、直接待ち合わせ場所の鈴木博物館に向かう。鈴木博物館の周りは警察の人が取り囲んでいて、ここでテロでも起きているのだろうか、と一瞬考えてしまった。
園子から貰っていたチケットで美術館の中に入る。怪盗1412号が狙っている宝石があるという展示ブースの中に足を踏み入れると、先に到着していた園子と蘭が私に気がついたらしく朗らかに手を上げて近づいてきた。
「さくら!!…ってアンタどうしたのよ。なんでそんなに疲れてんの?」
「まぁ、ちょっとね…」
遠くを見つめる私に園子は不可解な顔をした。蘭も最初は不思議そうな顔をしていたけれど、すぐに分かったのか苦笑いをしていた。
「あぁ、もしかして主将さん?」
「うん。多分明日が私の命日かな」
「さくら前もそんな事言ってなかった?」
蘭の言葉に肩を竦める。確かによくこんな事言ってるかもしれない。いつの間にか傍に来ていたコナン君もははは、と呆れたような表情をしている。
「で、どれが怪盗1412号が狙ってるなの??」
「これよ。これが怪盗1412号が狙ってる
蘭に手を引かれてBLUCK STURとかかれた展示物の前に連れて行かれた。園子のお父さんの史郎さんと小五郎さんに挨拶をしてからショウケースの中を覗き込む。宝石単体で飾られているのだと思っていたけど、ネックレスになっていた。照明の光が反射してすごく綺麗だ。
「これがブラックスター…」
「我が家の守り神なんだって。ママがすっごく大切にしてて、絶対怪盗に取られるもんかって怒ってたわ」
園子のお母さんの朋子さんが怒ってるのが容易に想像できた。それにしてはこの場に朋子さん居ないなぁ。もしかして偽物だったりして。
「…それにしてもやけに物々しいですな…。予告日の前日だというのに」
「はい…。予告状から読み取れたのは日にちのみ…。ですから今晩から泊りがけで警備に当たられるそうです…。いつ、どこから、怪盗1412号が来るともしれませんので…」
予告状ってなんだろう。首を傾げていると私の考えを察したのか、コナン君が「これだよ」と言って紙を差し出してきた。お礼を言って受け取る。
『April Fool
月が二人を分かつ時
漆黒の星の名の下に
波に誘われて
我は参上する
怪盗』
怪盗の先は破れてしまったのかよく見えなかった。あぁ、エイプリルフールって書いてあるから明日が予告日だと分かったのか。にしてもその先が全く分からない。月が二人を分かつときって何だろう。二人って誰の事を指しているんだろう。
「コナン君、分かった?」
「あぁ、もしかしたら、な…」
コナン君はそういうと窓際によってキョロキョロと何かを探した。
「何をしているの?」
「時計で方角を調べてんだ。まず短針を太陽の方向に向けるんだ。日本は北半球だから、その短針と文字盤の12との中間になってる方角が真南になってんだ」
「へぇ…じゃあ今は2時だから、1時の方角が南なんだ」
「あぁ」
でもなんで方角なんか調べているんだろう。ちらりとコナン君を見る。どうやら予告状の意味が分かったらしい。まぁでもきっと、聞いても怪盗との対決が終わるまでは教えてくれないんだろうなぁ…。
もうつまんないから帰ろうよ、と小芝居を打つコナン君を見ながら少しだけ寂しい気分になった。