Case1
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「新一君」
私が声を掛けると、新一君は読んでいた小説から顔を上げて、私を見た。
「さくらか。何だよ」
怪訝な顔をする新一君は、やはり今日が何の日か覚えていないらしい。新一君らしいといえばらしいのだが、流石に毎年こうだと呆れてしまう。そもそも5月4日を自分の誕生日ではなく、ホームズとモリアーティー教授がライセンバッハの滝に落ちた日だと覚えているのだから無理もないかもしれないけれど。
「今日は新一君の16回目の誕生日だよ」
新一君は私の言葉にポカン、と口を開けた。本当に忘れていたらしい。
「忘れてた…」
ポツリと呟いた新一君に、私は思わず笑った。やっぱりね。
木に背中を預けている新一君に手を差し出す。最近新一君はうちの神社によく読書に来ている。何でも自然の中で静かに読書できるのが良いんだとか。確かに朝倉神社は自然豊かな上に、敷地も広いから参道から少し外れれば人の声はそんなに聞こえない。あくまで桜が散ってしまった今の季節は、だが。
「ケーキ焼いたから、蘭達も呼んだから皆で一緒に食べよ?」
「おー、サンキュ」
新一君は自然に私の手を取って立ち上がった。前も確かこんなことがあったなぁ、なんてぼんやりと考えながら社務所に向かう。
新一君はふぁ、なんて欠伸をしながら私に付いてきた。あ、寝癖ついてる。指通りの良いサラサラした新一君の髪の毛に手を伸ばす。ピョン、と少し跳ねている毛を撫でつける。するとそれは何事も無かったかのように、元に戻った。
「寝癖ついてたよ」
「…おう」
新一君は少し恥ずかしそうに目を逸らして、私が触った辺りを触っていた。
「そういやケーキっていつものか?」
「うん、フルーツタルト」
新一君は何か言いたげに口を開ける。しかし新一君の口から言葉が出てくることはなく、結局閉じてしまった。なんだろう?と思い首をかしげる。
「新一君?」
「俺は…その…オメーの作るフルーツタルトが1番うめぇ、と思う…」
恥ずかしそうそう言ってくれる新一君に、頬が緩む。新一君は私が作るものはいつも美味しいと言って食べてくれる。でもそうやって1番だと言ってくれるのは凄く嬉しいのだ。タルトは作るのが大変だから余計に。
「ありがとう」
新一君は顔を赤くしながら不自然に顔を逸らす。新一君は結構な照れ屋だ。新一君を見ながら笑っていると、新一君はムスッとしながら私の額を指で弾いた。
「何笑ってんだよ」
「なんでもないよ」
やはり手加減してくれているらしく、全く痛くはなかった。
「さくらさん、このクッキーなんですが…」
やって来た叔父さんは、私と新一君が居るのを見ると足をピタリと止めた。叔父さんは新一君を見ると、顔を途端に不機嫌そうに歪めた。
「あぁ、君ですか…。また来たんですか」
相変わらず叔父さんは新一君に対する当たりがキツい。どうやらお兄ちゃんに色々と吹き込まれたらしい。そういえば初めて会った時から、お兄ちゃんは新一君に敵対心を抱いてたな…。
「相変わらず過保護ですね」
新一君も煽らないで欲しい。こうして火花を散らしながら睨み合う2人が、仲良くできることはきっとないだろうな。
「さくらー!!新一ー!!」
「祝いに来てやったわよ!」
プレゼントを片手に駆けよって来る蘭、園子。その後ろには優作先生、有希子さんがにこやかな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「父さん!?母さん!?」
目を丸くする新一君に、優作先生と有希子さんはサプライズ成功とばかりに悪戯っぽく笑った。
「新一の誕生日を私達が忘れるわけがないだろう」
「ちゃーんと新ちゃんの誕生日に合わせて帰国してるわよん」
パチン、とウィンクをする有希子さんはやはり美しかった。流石伝説的女優だ。
「新一君、お誕生日おめでとう」
笑いながらそういうと、新一君はまた照れたように笑った。
2019年 新一君誕生日
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