Case1
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稽古を終えて帰ろうかというとき、校門前がやけに騒がしいことに気がついた。何だろうと思って近づくと、そこには携帯を弄りながら校門に背中を預ける帽子を被った色黒の青年が居た。
この人ここで何してるんだろう。
不思議に思いながらもなんとなく嫌な予感がしたので、彼の横を足早に通り過ぎていこうとした。けれどそれは叶わず、男にがしりと腕を掴まれた。男の無礼なその行動に思わず眉を釣り上げる。
「何ですか」
私の口から出た固い言葉に男は気にすることなくニカリと笑った。
「なんや。久しぶりやっちゅーのに相っ変わらずつれへんなー、さくら!」
男がバリバリの関西弁だったこと、そして私の名前を知っていたことに驚いて思わず固まってしまう。
「どうして私のことを?」
「は?まさかお前俺のこと忘れたんとちゃうやろな!?」
眉を釣り上げる男に私は困惑する。関西人の知り合いなんてそもそもいない…と思うし、彼に見覚えも無い。いや、やはりどこかで見たことあるような気もする。
「俺や!俺!!」
「オレオレ詐欺じゃないんだから…」
俺とだけ言われても分かるはずも無い。首をかしげる私を見て男は焦り始める。
「ほら…二年前の剣道の全国大会で会うたやろ!!ホンマに覚えてないんか?」
その言葉で私はようやく彼の事を思い出して手をポンと叩いた。
「あぁ。水筒無くした子か」
「そうそ…ってちゃうわい!!誰の話やそれ!!」
見事なノリツッコミだ。これが関西のノリというやつだろうか。
「あれ、違かった?」
再び考え始めるもやはり彼に該当しそうな男はいない。男は諦めたのかため息を吐いた。
「…俺が準決勝戦で負けて落ち込んどった時に俺にジュースくれたやろ」
「そんな事もあったような、なかったような…」
曖昧な返事をする私に彼は完全に諦めたようでもうええわ、と言った。思い出せなくて本当に申し訳ない。ごめんね。
「ほんなら改めて自己紹介するわ。俺は服部平次や」
その名前を聞いて漸く彼のことを思い出した。その名前は全国の剣道部の中では結構有名だ。改方学園の服部平次。泉心高校の沖田総司といつも激戦を繰り広げているのが印象的だった。
とはいえ、私は服部君では無くて私と同じ東京代表の鬼丸猛を応援しているのだが。
「あぁ、全国大会常連の」
「さっきそれ言うたやん」
「あぁ、そうだね。私は朝倉さくら。よろしくね」
「お、おう…。よろしゅうな」
私は服部君に右手を差し出す。服部君は釈然としない表情ではあったが、しっかりと私の手を握ってくれた。
「それで服部君、なんで東京に?」
私の問いかけに思いだしたようにハッとした。
「あぁ、せやせや!!さくらに聞きたいことあってん」
服部君は真剣な表情になるとガシリと私の肩を掴んできた。
「工藤はどこにおんねん」
「は?工藤って…新一君のこと?」
「せや。東の高校生探偵工藤新一や」
どうして服部君が新一君を…?と不思議に思いながらも馬鹿正直に新一君のことを話すわけにもいかないため知らない、と答える。
「なんでや!同じ学校なんやから知らんはずないやろ!」
「わざわざ大阪から来てくれたのにごめんね」
話せない罪悪感もあって謝ると、服部君は半目になった。
「…アンタ、工藤の居場所知っとるやろ」
「いやいや、知らないって。私に言えるのは新一君は今、事件に追われてるせいで学校に来てないって事ぐらい」
「嘘吐けェ!!俺の目を誤魔化そうっちゅうたってそうは問屋が卸さへんで!!」
何の根拠もなく嘘つき呼ばわりしてくる服部君に私は思わずジト目を向ける。実際居場所を知らない、ということに関しては嘘を吐いているので服部君は間違っては無いのだが。
「服部君は何を根拠に私が嘘を吐いてるって言うの」
「そんなん勘や、勘!!俺の勘がさくらは嘘吐いてる言うてんねん」
服部君は私が嘘を吐いていることを完全に見抜いている。
勘だけで嘘を見抜くとは末恐ろしい。少しそういうところが新一君と似ていて私は身体を震わせた。新一君もよく「探偵としての勘だよ」とかドヤ顔で言ってる。まぁ新一君の場合は勘といくつかの根拠の半々と言ったところだが。
「とにかく知らないから諦めて大阪に帰りなって」
「いや!俺はアイツを見つけるまで絶対帰らへんで!!さくらが本当のこと話すまでさくらの家に居座らせてもらうわ」
「え゙」
その後私はなんとかして服部君を諦めさせようと試みたのだが、想像以上に服部君がしつこすぎてついに根負けして毛利探偵事務所に連れてきてしまった。
「こんなパッとせぇへん探偵事務所に工藤がおるんか…?なんや以外やな」
服部君の言葉に私は目を逸らす。私はここに来れば新一君に会えるかもしれない、と言っただけで確実に居るとはいっていない。だから大丈夫だ。いざとなったら逃げ口はいくらでもある。
自身に言い聞かせながら私と服部君は毛利探偵事務所の中へと入っていった。