Case1
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私は実は始めはさくらのことがちょっとだけ苦手だった。基本的に無表情で何を考えているのか分からないし、話し掛けても反応が薄い。
さくらちゃんって、笑うのかな?
でもそう考えると少しドキドキしたのも事実。苦手だけど、興味もあった。
どんな風に笑うんだろう。お人形さんみたいに綺麗な顔立ちだから、笑ったらきっと可愛いだろうな。
そう考えながら何度も話し掛けた。でもさくらは私の顔をちらりと見るだけで、すぐに俯いてしまう。園子には話し掛けるの止めたら?と呆れられるくらい、何度も話し掛けた。それでもやっぱりさくらは俯くばっかりだった。
ある日、6時間目の学活の授業でクラス全員で隠れんぼをすることになった。さくらは相変わらずつまらなそうにはしていたけど、それでも参加するようだった。
これをきっかけにさくらちゃんと絶対に仲良くなる!
そう決めながら私は校庭にある体育倉庫内、それも跳び箱の中に隠れた。他にも倉庫の中に隠れている人はいたから、いつもよりは早く見つかっちゃうかな。頭のいいさくらちゃんも鬼だったから、きっと見つかっちゃうな。そう考えていた。
倉庫の中にいた人達が一人、二人と見つかっていく。
次は私の番かも。
ドキドキヒヤヒヤしながら跳び箱の中で体育座りをしながらぎゅっと身体を抱き締める。ドサドサ、と跳び箱の上の方で音がしたときは驚いたが、跳び箱の上段部分が開けられることはなかった。
『もう誰もいないよ。次行こ、次!!』
見つからなかった。良かった。
ホッとしながら次にまた校庭の隅にある体育倉庫に来るのを待っていた。それから暫く経ち、6時間目の授業が終わる音がした。
結局見つからなかったな。
ホッとしたような残念なような複雑な気分になりながら、跳び箱の上の段を押し上げる。入るときには簡単に開いたはずのそれは押してもビクともしなかった。頑張って何度も何度も押し上げるのにそれはやっぱり動かない。
なんで、どうしてと頭の中はぐるぐるとしていたが、それでも冷静に一つの結論を出していた。
閉じ込められた。
最近よく嫌な視線は感じていた。それは特に新一といるときに強かった気がする。私をよく睨みつけている女の子達は確か、新一のことが好きだったはずだ。さっき次に行こう、と言っていた声は、その子達のリーダー的な女の子の声だったと思う。それに跳び箱の上の方で聞こえた音。
その二つが頭に思い浮かんだとき、さぁっと血の気が引いていく思いがした。
きっとその子は私が跳び箱の中にいることに気がついていて、わざと私が出られないように上に何か重りのような物を置いたんだ。
『だっ、誰か!!誰か助けて!!』
そう何度叫んでも誰も助けに来てくれない。運の悪いことに今日は園子も新一も風邪を引いて休んでいた。いつも私を助けに来てくれる、頼りになる新一がいない。最後まで必死に探し回ってくれる園子もいない。
私もしかしたら誰にも気がついてもらえないかも。そんな風に思うと悲しくて涙が出てきた。大声を出しすぎて声だって出ない。跳び箱の上段だって重すぎて持ち上げることもできない。どうしたら良いかも分からなくて、嗚咽を上げながら涙を流し続けていた。
微かに体育倉庫が開くような音が聞こえた。もう声を上げることもできなかった私は必死に跳び箱を内側からドンドンと叩いた。
私、ここにいるよ!!お願い、助けて!!
その音に気がついたのか、その足音は私の方に近付いてきた。跳び箱の丁度前ぐらいで止まると、どさどさと何かを落とすような音が聞こえた。その音達が七つぐらいした後で、眩しくて真っ赤な光が目に入ってきた。
『毛利さん、ここにいたんだね』
そう言いながら私の顔を覗き込んでいたのがさくらだった。その綺麗な顔には所々何か引っ掻いたような小さな傷がいっぱいあって、服も泥で汚れていた。
さくらちゃん、こんなになるまで私を探してくれてたんだ。
そう思ったときには胸の中がぽかぽかと温かくなって、不安だった気持ちも何処かへ吹き飛んでしまった。私は跳び箱から勢い良く出て、さくらに抱き付いた。そして大声でわんわんと泣いた。さくらは初めのうちはそんな私に戸惑っていたけれど、おずおずと私の身体を抱き締め返してポンポンと何度も背中を優しく叩いてくれた。
あの日の真っ赤な、私達を照らしてくれた夕日は今でも忘れられない。
「蘭、帰ろう」
さくらの声に私は元気よく頷いた。
「そうだね!」
ねぇ、早く帰ってきなさいよ。新一。さくらを護れるのは、新一だけなんだから。
やっぱり私がどんなに強くたって、さくらのナイトになることはないんだから。
秘められた思い