Case1
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「フッフッフ…」
私の幼馴染みの高校生探偵、工藤新一は自身の記事が掲載されている新聞を片手に持ちながら、自慢げな笑みを零している。
「ねぇねぇ聞いたー?あの高校生探偵さん、またお手柄なんだってー!!」
『まさに彼こそ日本の救世主と言えましょー!』
本屋で新一君の噂をしている女子高生や、テレビのニュース番組での発言が聞こえてくる度に新一君は天狗になっていく。新一君がハッハッハ、と高笑いをしたときに新一君の横顔に空手着がヒットした。
振り返ると、そこには空手着の帯を持った蘭が居た。新一君にどうやら怒っているらしい。
またきっと、いつものやり取りが始まるだろうなぁ。
「バッカみたい…。ヘラヘラしちゃって…」
「何怒ってんだよ、蘭」
新一君は空手着をぶつけられた頭を軽く抑えながら、蘭のようすに冷や汗をかく。
「べつにー…新一が活躍してるせいで、私のお父さんの仕事が減ってるからって…。別に怒っていませんよー!!」
蘭はそう言いながら新一君にべーっ、と舌を出した。発言とは裏腹に蘭はかなり不満があることは明白だ。
「あれー?蘭の父さん、まだ探偵やってたのか?
でも仕事がこないのは俺のせいじゃなくて、あの人の腕のせい…」
「だから、怒ってないって言ってるでしょー!」
今のは新一君がどう考えても悪い。
からかうように笑う新一君に蘭は笑いながら電柱に拳を入れていたが、全面的に新一君が悪いので蘭が怒るのもしかたがないと思う。
新一は引き攣った笑顔を浮かべながら「さすが空手部女主将…」と呟いていた。
しかし、この破壊力で全国大会を優勝しないことを不思議に思う。関東大会優勝の蘭でこのレベルなのだから、全国大会優勝の人はどんな恐ろしいパワーを秘めているのだろうか。もしかしたら人間を辞めているのかもしれない。
私がぼんやりとそんなことを考えていると、蘭にいきなり顔を覗き込まれた。
うわぁ、びっくりした。
「ちょっと、さくら?聞いてる?」
「ううん、聞いてない」
どうやら考え込んでいる間に話が進んでいたらしい。蘭は私の反応に頬を膨らました。
「新一が沢山ラブレター貰ってヘラヘラしてるのよ!ね、ね、どう思う?」
蘭は何かを期待するかのように私の顔を覗き込んだ。だが私には何を求められているのかさっぱり分からない。仕方が無いので私は思ったことをそのまま告げた。
「新一君の自由だから別に良いんじゃないかな。新一君目立つの好きだし」
客観的に見た新一君の印象も述べると、蘭は呆れたように笑った。
「相変わらず辛辣ねー」
「そうなの?ゴメン、悪気は無かったんだけど」
私はは蘭の言葉を受けて新一君に謝ると、新一君はハハ…と乾いた笑い声を上げていた。大丈夫、と言ってはいたが間違いなくその目は死んでいた。
理由は良く分からないが何だか申し訳ない。ごめん。
「全く…。女の子にデレデレするのは良いけど、ちゃんと本命一本に絞りなさいよー。じゃないと嫌われるわよ!」
「うっせ。ほっとけ」
ニマッと笑う蘭に新一君は不機嫌になる。
新一君、好きな人いるのか。
そう考えたとき、少しだけ心がもやっとした。誰だろ。やっぱり蘭かな。仲良いし。
「いい気になって首つっこんでると、いつか危ない目に遭うわよ」
「蘭の言うとおりだよ、新一君。もしかしたらどっかの大きな犯罪組織の秘密を知っちゃって、口封じに殺されるかもしれないよ」
私は思いついたことを言ってみる。この例えに別に意味は無い。ただ、なんとなくそうなりそうな予感がしたのだ。虫の知らせ、というやつなのかもしれない。
「お前、やけに具体的だな…」
新一君は私の発言に引き攣っていた。特に深い意味は無い、と言うと新一君はそーかよ、と興味なさげに呟いた。意味は無いとは確かに言ったが、もう少し真面目に話を捉えて欲しいものだ。
「でも、なんで探偵なのよ?そんなに推理小説が好きなら新一のお父さんみたいに、小説家にでもなれば良いのに…」
蘭の言葉に新ちゃんは目をキラキラと輝かせた。
「俺は探偵を書きたいんじゃない…。なりたいんだ!!平成のシャーロック・ホームズにな!!
難事件であればあるほど、わくわくするんだよ!!策を弄した犯人を、追い詰めるときのあのスリル!!あの快感!!一度やったらやめられねーぜ…探偵ってやつはよー!!」
新一君はパチン、と綺麗なウインクを決めた後、じゃあな!!と言って立ち去って行った。全く、忙しない男だ。読書をしているときは静かなのに。
「あっ、新一のやつ、明日のトロピカルランドに行く約束、忘れてないでしょーね…」
蘭は新一君がいなくなった後、ハッとしたように呟いた。新一君なら出掛ける約束も忘れて家で推理小説でも読んでいそうだ。私も実際に忘れられ掛けた事もある。
「メール…じゃ気がつかないだろうから、電話入れておいたら?そしたら流石に気がつくよ」
「そうね、そうするわ。それにしても、さくらも一緒にトロピカルランドに行けないのはちょっと残念ね」
蘭は少し肩を落としながら言う。私は肩をくすめた。本来は私もトロピカルランドに行く予定だったところを、急遽断ってしまったのだ。
「うん、ごめんね。二人で楽しんできてよ」
私が謝ると、蘭は少し慌てた。
「やだ、謝らないで!!私達はいつでも会えるんだから、久しぶりに会うお父さんとの予定を優先するのは当たり前じゃない!」
私と父親は別居中。しかも忙しい仕事のため滅多に会えないのだ。蘭も母親と別居してるから私の気持ちが分かるのだろう。それを言ったら新一君も両親と一緒に暮らしていないので、もしかしたら私や蘭の気持ちが分かるかもしれない。本人は寂しそうな様子など全く見せず、寧ろ一人暮らしを満喫しているようだが。でもあの大きな家で一人、というのは寂しいと思う。
「お父さんと会うの、二か月ぶりくらいかな」
「さくらのお父さん、忙しいものね…」
「そうだね。基本的に年の半分以上は海に居るから」
蘭はそれに比べてうちのお父さんは…、とぶつぶつと呟いている。だがその文句はどれも父親を心配しているもので、心優しい蘭に思わず笑みを漏らした。
蘭は相変わらず家族思いだ。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「蘭は優しいなって思って」
蘭はいきなり褒められたことに戸惑ってはいたが、少し嬉しそうだった。
それから他愛ない話をしていると、すぐに毛利探偵事務所の前に着いた。
「ばいばい、さくら!!お土産いっぱい買ってくるね!」
そう言って毛利探偵事務所のビルの階段を上がろうとする蘭に後ろから声を掛ける。
「蘭。明日のトロピカルランド、気をつけてね。何か嫌な予感がするから…」
「あー…新一と一緒だと事件起きちゃうかも。分かった、ありがとね」
私は蘭に手を振って、蘭の姿が見えなくなるまで見送る。
纏わり付く嫌な予感を頭から振り払いながら、明日お父さんと会える喜びに思いを馳せた。