Case1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※事件が事件なだけに今回は暗いです。名探偵視点で、かなりドロドロしています。原作のような強くて格好いいコナン君はいません。
読んでいて違うな、と思った方はそっとブラウザバックすることを推奨します。
月影島から帰ってきたとき、俺の胸の中には後悔や怒り、罪悪感といった負の感情が渦巻いていた。俺が成実先生をあんな風に追い詰めなければ、先生は死ぬことは無かった。俺がもう少し上手くやっていれば…。
だが当然俺が推理したとは知らない蘭の前でこんなことを口に出す訳にはいかないし、態度に出すわけにはいかない。蘭は恋愛方面はともかく、人の機敏に聡い。俺が後悔しているときっと気がついてしまう。
行き場の無い感情に押しつぶされそうになって、俺は探偵事務所を出た。何度も炎に包まれる公民館と優しくて悲しいピアノの音色がフラッシュバックする。その度にこみ上げる涙と吐き気を堪える。
何処かへ行くことを意識していた訳じゃ無いのに、俺の足は勝手にアイツの家へと向かっていた。眼前にそびえ立つ立派な鳥居に俺は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「はは…。こんなこと、アイツに言えるかよ…」
さくらの前では格好良くいたい。好きな人の前でこんな格好悪くて、ドロドロの感情に押しつぶされそうになっている姿は見られたくない。涙は絶対に流れないけれど、泣きそうな顔をしているだろうと分かりきっているのなら尚更だ。
「…帰るか」
ポツリと呟いて引き返そうとしたときだった。優しい鈴の音のような声が俺を呼んだ。
「コナン君?」
「さくら…」
さくらは俺の顔を見ると驚いたように目を見張った。きっと、俺の瞳は暗くてドロドロしていたんだろう。あぁ、こんな姿、見られたくなかった。
成実先生への罪悪感があるからだろうか。見慣れているはずの巫女装束に身を包んださくらが穢れの無いとても遠い存在に感じた。花のように美しくて、新雪のように無垢な存在。俺が踏み荒らしてはいけない。
そんな事を考えながら俯いていると、優しいぬくもりが俺を包み込んだ。さくらに抱き締められていると気がついたのはさくらのうなじから甘い、花のような香りがしたからだった。
「新一君」
優しくて温かい声で呼ばれる。その声に酷く安心した俺はゆっくりと目を閉じた。
「…さくら」
俺はさくらの背中にゆっくりと手を回して肩に顔を埋めた。
「悪ぃ…。もうしばらく、このままで…」
心の奥にこびりついていた感情が浄化されるように楽になっていく。さくらの側は心地が良い。
俺はさくらに縋り付くように月影島での出来事を話し始めた。死者から届いたメッセージ。次々と起こる止められない殺人事件。頭の中で何度も繰り返される「月光」。成実先生の悲しい嘘と真実。そして、彼の最後…。
さくらは俺の話を静かにただ黙って聞いていた。俺を肯定するでも否定するでも無い。救いもくれない。でも確かに感じるさくらの優しさが温かかった。
さくらは俺が落ち着くまでずっと抱き締め続けてくれた。