Case1
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中学一年生の春のことだった。
格好良くて優しい、私に笑顔をくれた兄も、帰ってくること自体は少なかったがそれでも沢山の愛をくれた母が居なくなってしまった。世界の中心とも言うべき二人を突如失ってしまった私は、どうしたら良いのか分からなかった。
元来感情を表に出すことが苦手だった私は誰にも辛い気持ちを吐き出せなくて、気を遣って普段通りに接してくれる蘭や園子に感謝しつつも、些細なことで二人のことを思い出していた。表面上でしか笑うことができなくて、彼女たちに嘘を吐いているという罪悪感がのし掛かり、自己嫌悪を抱くという悪循環。完全に負のスパイラルに陥っていた。
母の葬儀を終えてから暫くした後、新一君が二人で帰ろうと誘ってきた。いつもは大抵四人で帰っているので、珍しいな、とぼんやりと考えていた。だがそれ以上は何も頭が働かず、私は新一君の言葉にただ頷いただけだった。
私は目の前を歩く新一君の背中をぼうっと眺めながら新一君に合わせて土手をゆっくりと歩く。いや、きっと新一君がわざとゆっくり歩いてくれていたんだと思う。私達の間に会話は無かったけれど、でも変に気を遣ったり気まずい思いをすることもない心地の良い時間だった。
『なぁ、今日何の日か知ってっか?』
『え?』
突如掛けられた新一君の問いの意図が分からずに私は困惑した。
『…三月、三日』
『そう、正解。じゃあ三月三日の誕生花が何か分かるか?』
私は首をかしげながらも答える。
『えっと…桃の花、とか?』
ひな祭りのイメージから連想して答えたが、新一君は首を横に振った。
『三月三日の誕生花はアレだよ』
新一君が指差す先に生えていたのは、緑色の中に生える鮮やかな紫色の花。
『…蓮華草』
ポツリと呟いた私の言葉に新一君は頷いた。
『そう、お前の母さん、れんげさんの花だよ』
風が優しく吹くと同時に蓮華草の優しくて、何処か懐かしい香りが私を包んだ。
『なぁ、さくら』
新一君の声に私はゆっくりと顔を上げた。新一君の綺麗な青色の瞳は真っ直ぐに私を見ていた。私はその瞳に囚われたように動くことが出来なくて、ただ静かに見つめ返していた。
『俺は身内を亡くしたことはねぇからやっぱりお前の辛さは分からねぇ。お前の気持ちを本当の意味で理解することは今はできないと思う。
でもな、れんげさんの気持ちは分かる』
新一君はそう言いながられんげ草の花を一つ摘み、私に差し出してきた。
『「あなたは私の幸福です」。れんげさんはさくらに幸せになってほしいと思うぜ。
無理に笑わなくて良いから。辛くてどうしようもないときは…泣けば良いから。俺達が…俺が、肩貸してやっから。
ゆっくりと前に進んでいこうぜ』
その後のことはあまりよく覚えていない。わんわんと大声を上げて泣いたような気もするし、新一君に縋り付いていたような気もする。
取り敢えず確かなのはその言葉に救われて、悲しみも受け止められるようになったということだ。
『辛いなら…無理すんなよ』
いつも私が欲しかった言葉をくれる。…私ばっかり貰ってる気がするなぁ。
「犯人は…マネージャーの寺原さん…あなたです!!」
遠くで新一君の声が聞こえた。