Case1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
美江子さんが泣きながら歌い終わった。だが部屋に流れる気まずい空気が変わるはずもなく、拍手も声も掛けることはできなかった。
息苦しくて、誰がこの空気を壊すか皆が探っていた時に音楽が流れ始めた。レックスのヒット曲の『
「おっと…。オレの曲じゃねーか!誰がリクエストしたんだ?」
達也さんは酔っ払ったままマイクスタンドに近寄る。麻理さんはそんな達也さんに慌てて声を掛けた。
「達也、もう時間よ!!早くしないとトークショーに…」
「うるせえ!オレは歌いたいときに歌うんだよ!!」
達也さんの言葉に麻理さんはため息を吐いた。
「しょーがないわね…。スタジオに遅れる電話してくるわ…」
麻理さんは呆れながらそう言うと、ジャンパーを脱いだ後で懐から手帳を取り出した。部屋を出て行く麻里さんを見て達也さんは鼻を鳴らしながらマイクスタンドの前に立つと、勢い良くジャンパーを脱ぎ捨てた。
「いくぜ!!『
達也さんは熱唱した。彼の歌は自然と胸の中に入ってきて、心を熱くさせた。達也さんの声や仕草の一つ一つに魅入られて、私達は達也さんが歌い終わるまでずっと達也さんから目が離せなかった。
凄い、格好いいなぁ…。
それが私の胸に沸き上がった純粋な感想だった。
曲が終わると達也さんは満足げな顔をして蘭の隣にドサリと座った。
「へへへ…。どーだった、オレの歌…」
「とっても良かったですー!」
蘭と園子が頬を赤らめながら応える。私も二人に合わせてコクリと頷いた。
「よぉ克己、オレにもそのオニギリ取ってくれよ!」
「…」
おにぎりを食べていた田中さんは何も言わずに皿から一つおにぎりをとると、達也さんに投げつけた。達也さんはサンキューとお礼を言った後でそのおにぎりを食べ始める。
「本当にやめちゃうんですか?」
蘭の問いかけに達也さんは笑顔で応える。
「心配すんな、ソロデビューするだけだよ、もう新曲もできてんだせ!曲名はな…」
達也さんがそう言いながら親指を舐めた時だった。達也さんは突然口から血を吐いた。血を吐きながら咳き込む達也さんに慌てて駆け寄るがもう既に遅く。達也さんはずるりとソファーから崩れ落ちて床に倒れた。
その時に達也さんの後ろに死に神が見えたような気がして体が震えた。
もしかしたら、達也さんはもう…。
そんな考えが頭を過ぎる。
「早く!早く救急車を!!」
田中さんの言葉にハッとして私は慌ててスマホを取り出す。救急車…あれ、何番だっけ。119?110?
焦りで頭が回らない私の手を温かくて小さな手が包み込んだ。
「し…コナン、君…」
「さくら…大丈夫だ…。落ち着け…」
私の背中を優しくとんとんと叩くコナン君。ぐるぐると駆け巡る達也さんが血を噴いて倒れる瞬間。何度も何度も繰り返される強い「死」のシーンに私は目が回ってきた。
「大丈夫か…?」
「うん、大丈夫…」
口から出た言葉は思ったよりも弱々しくて、コナン君は眉毛を八の字に下げてしまった。
「蘭が今電話してくれてる。だから…辛いなら無理すんなよ。俺が事件解決してやっから…」
犯人が怖いわけじゃ無いんだけどな…。
そう思いながらもどこかズレたコナン君の言葉に私は漸く安心してコナン君を抱き締めた。
「ちょっ…さくら?」
少し慌てた声を上げるコナン君の小さな身体を更に強く抱き締める。
「新一君…お願いだから、私を置いていかないでね…」
私が達也さんの姿を見たときに思い浮かんだのは新一君だった。血を噴いて倒れる達也さんと新一君がどこかダブって見えたのだ。もし新一君が、と考えるといつやって来るかも分からない死というものが突然怖くなった。新一君が小さくされた時、下手したら命を落とす可能性もあったのだと再確認させられたようだった。
新一君は何も言わずに私を強く抱き締め返してくれた。とくとくと聞こえてくる新一君の心音に安堵した私の瞼は段々と重くなっていった。