Case1
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―新一君。
優しくて温かい声が俺を呼ぶ。鈴の音のようなその声は俺をいつも安心させるものだ。
春風が俺の頬を撫でる。風は前髪を攫っていくくせに、眠気は攫ってくれないらしい。
俺は一つ欠伸を零した後で上半身を起こす。桜の匂いがほんのりする空気を胸一杯に吸い込む。ふぅ、と長く息を吐くとくすりという笑い声が聞こえてきた。
俺はゆっくりと目を開いた。視界に入ってくるのは優しい顔で俺を見る、幼馴染みの朝倉さくら。さくらは風に靡く綺麗な黒髪を抑えながら俺を覗き込んでいた。
「おはよう、良い夢は見れた?」
「おはよ、さくら。あぁ、お陰様でな」
欠伸を一つ落とす俺の身体をさくらは軽く叩く。芝生で寝ていたせいで草が付いてしまっていたらしい。
なんかこういうの、夫婦っぽくて良いよなぁ…。
思わずにやけそうになる頬をさくらから隠すように右手で隠すと、さくらはキョトンとした顔で覗き込んできた。俺はなんでもない、と誤魔化すために手を軽く振った。
「もうすっかり桜の季節だね。空気が美味しい」
「朝倉神社は毎年花見客が凄いよな…」
朝倉神社というのはさくらの実家だ。その敷地はかなり広く、米花町では有名な霊験あらたかな神社だ。さくらも実家の手伝いの一環として朝倉神社で巫女のバイトをしている。俺も毎年さくらの踊る神楽を見たいというのもあって、初詣は朝倉神社に参詣している。本人にその事を伝えたことは今まで一度も無いが。
「うん。寧ろ花見がメインで参詣そっちのけの人とかも居るんだよね」
さくらは困ったような口調をしているが、口元は確かに緩んでいた。純粋に人がいっぱい居て、楽しそうな雰囲気が好きなのだろう。
この幼馴染みはもう一人の幼馴染みの毛利蘭と違って何を考えているのか、分かりにくい。実際帝丹中では「氷の華」とか呼ばれている。確かそう呼び始めたのは俺と同じサッカー部の中道だった。
だがさくらは誰よりも優しくて温かい心の持ち主なのだ。俺だからこそそのちょっとした表情の変化に気がつける。幼馴染み特権というやつだ。
「あ、新一君。そろそろ帰らないと。最終下校時間過ぎたらサッカー部、活動停止になっちゃうよ」
「あ?面倒くせーなー」
俺はぼやきながら立ち上がる。さくらも俺が立ったのを見ると、立ち上がった。
「蘭も園子ももう来るよ」
さくらは目をつぶりながら言う。何かを見たわけでもないのに、随分確信めいた事を言う。だがさくらのこの「勘」のようなものはよく当たるのだ。現に。
「さくら!新一!」
蘭と園子が階段の上から姿を現して、大きく手を振っている。さくらも俺も二人に手を振り返した。
「今行くー!!」
さくらが俺の鞄を渡してくる。部室に取りに行ってくれたらしい。
「サンキュ」
「お役に立ててなにより。早く行こ!」
俺は目を細めて笑うさくらを見て改めて好きだなぁ、と感じたのだった。
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