公募作品(2)
「今日一日も外に出ていないんでしょ、少しでも日光を浴びて体に栄養を与えなさい!」
「ほのちゃん、見ない間にすっかりおねぇちゃん通り越しておばちゃんになったね…。」
そんな事母さんにも言われた事無い…とドン引きする和真にイラついて「そっちこそ随分オッサンになったでしょ!」とお客様相手だという事も忘れて大声になる。
全くおばさんにどんな思いで私にハウスキーパーを頼んだのも知らないで…!と怒りに任せてゴミを勢い良く袋にぽいぽい入れていると。
「…もういっぱいだな。」
圧縮させながら入れているけれど、それでもいっぱいになってしまったので、新しくゴミ袋を出そうと探すけど、ど忘れしてしまった。
どこに仕舞ってあったかな…そろそろ終わらないと次のお客さんを待たせてしまう、と焦って探す。
「―これ?」
いつの間にか背後にいた彼が、しゃがんで探していた私の目の前に袋を見せる。
振り向くと、こちらを見下ろし唯一変わらないその笑顔が私に向けられた。
「え…何で。」
「ほのちゃん、分かりやすいから。」
ゴミ袋の場所分かりにくくてごめんね~と謝ってから、和真は離れてゆく。
受け取ったゴミ袋に薄らと歪んだ私の顔が見えて、思わずぐしゃりと袋を開けるのに必要以上の力で開けてしまって少し割けてしまった。
「それってさぁ…明らかに未練たらたらでは?」
まるで自分は名探偵だと言う様に格好つけて言い切る友人の須藤真代(すどうまよ)に、大学の講義が終わって近くのカフェでゆっくりコーヒーを飲んでいた私は躊躇い無くデコピンする。
「痛ぁ!?」
「吹っ切れているから。」
強がっていると言われてしまうかもしれないが、完全に今の和真と過去の和真は別人で、今更好きになるなんてありえないと言い切った。
「でもさぁ…バツイチとはいえ、その人まだ二十代なんでしょ?しかも離婚した理由も圧倒的に相手が悪かった訳だし…後釜、狙っても良いんじゃないんですかー?」
口では簡単にそう言うけれど、こちとらそんな事は一切思わない…第一。
「…一度結婚に失敗した人に、すぐ言い寄る人間ってどう思う?」
「まぁ、確かに見ようによっては人の心持っているのか疑問に感じるけど。」
ほらね、と私は溜息を吐く。
今でこそいい加減でも、穏やかな表情を見せる和真だけれど、ハウスキーパーを開始した最初は酷いものだった。
「―適当にやって。」
自分の身なりを気にしない、最低限の事しか話さない、動かない。
きらきらと輝いていた和真は離婚を期に心も体も傷付き、自分を守ってくれる家でじっくりと元の自分を取り戻そうとしていたと思う。
ゴミを片付けていると、昔努力していただろう参考書や、社会人のマナー本の処理を頼まれる様になり、当時はとても心苦しかった…でも、今の私はハウスキーパーだから、反対はせず頼まれた事はなるべく応えたいと仕事を進めていた。
「敬語外していいよ、ほのちゃん。」
時が経つにつれて徐々にだけど話してくれる様になり、そして今のだらだらとした和真が顔を出す様になった。
成功か失敗かは分からないけれど、人間関係としては彼と良好なものを築き上げられていると思う、だから。
「恋愛なんてもう懲り懲りだって思っているかもしれないのに…今更ずっと好きでした、なんて言えないよ。」
そもそも今巡り会ったとしても、私の中で彼との恋はもう終わっているのだ。
だから、今更恋に発展する様な行動はしたくないし、それを彼も望んでもいないだろう。
私達が望むのはきっと、平穏なのだから。
「そこまで想えるってことは、ほのちゃんは愛情深いって事だと思うけどね~。」
お褒めに預かり光栄でございます、とだけ言ってこの話題を終えようとしたけれど、そこで別の話を振られる。
「じゃあ、そんな魅力溢れる貴方に新たな出会いのおはな」
「バイトあるから無理。」
最後まで聞かずに断る私に「ねー頼むよー!」と情けない声を上げて懇願されるが、実際バイトや講義の都合を見ないと分からない。
「出会い欲しいからさぁ…あたし一人じゃ寂しいから合コン来てよ。」
真代は私から見ても美人の部類…だけど性格が一致しなくて、いわゆる残念美人だった。
その見た目に騙されて下心ありありで近付く男はいるものの、あまりのアホ…ではなく天真爛漫さに風邪を引くと言われ離れてゆくのを繰り返している。
「嫌だよ、真代初対面の人に人気だからボッチになるの確定になるし。」
「ほのちゃん辛辣ぅ…でもさ。」
めげずに向こうは口を動かす。
「新しい人を見つけないと、ほのちゃんずっとその人の後ろ姿を追う事になる気がする。」
うっ…と言葉に詰まる。
確かにその見解は自分でも当たっていると思う、事実今こうしてハウスキーパーをしている事が楽しいと思える時もあったから。
恋に発展する事なんて無い、そんなはずは無い…そう思いながらも心のどこかで。
この時間が続けば良い。
などと思っている自分もいる。
「ね?一回だけで良いから…空いている日、教えてよ!」
私の心を読んだ様に畳みかけて来る友人に、私は降参の意味で溜息を吐いた。
分かってはいたけれど、とぐびりぐびりとお酒を飲み進めながら私は眉間の皺を作る。
わいわいがやがやと騒がしい周りに完全に浮いている私は、目の前の手付かずになっている料理の数々を頬張りつつ、スマホの画面を睨み付けていた。
(全く…フォローするだのなんだの言っておいて。)
最初は隣の席で一緒に話していた真代だったけど、他のテーブルの男性に呼ばれ、自分は早々に移動してしまい、結局過去の私の予想通り話し掛けにくいボッチが爆誕している。
(…まぁ、私は芋臭いだろうしな。)
大学に進学しても、髪の色はメンテナンスが面倒臭くて染めておらず、服も自分が着やすいプチプラで近所の店で買える物ばかり、メイクも最低限のベースメイクのみで、本当に合コンに来たのか?と疑われても仕方ない恰好だった。
(適当な理由言って帰ろうかな。)
せめて参加費は払わないといけないが、幹事が誰だか分からない…真代に聞こうと席を動こうとすると。
「ひょっとして帰る?」
反対側の席で静かに飲んでいた男性に声を掛けられた。
「え…はい、飲み過ぎたみたいで。」
大学生だもんね~と返された後、彼も立ち上がる。
「オレも帰ろうと思った所、一緒に金払って帰ろうか。」
それは助かると私は頷き、その男性と一緒に幹事の人の元まで行き、店を出た。
「ありがとうございます、それでは…。」
「待ってよ。」
そこで別れようとすると、ぐいっと隣に来られる。
「酔っているんでしょ?…途中まで送るよ。」
確かに先程咄嗟に嘘で飲み過ぎたと言ってしまった、酔っていると勘違いしている彼は、こんな夜に女性一人で危ないと思ったのかもしれない。
途中までと言うのなら、彼が迷惑にならない所まで付き合って貰ってから別れた方が良いと私は感じる。
「では…お願いします。」
よく考えてくれている男性だなぁと私は感心したけれど、自分が少なくても酔いが回っている状態だという事を、この時はすっかり忘れてしまっていた。
暫く世間話をしながら歩き、徐々に酔いが抜けてきた私は、おかしいと思い始める。
普通ならある程度距離が出来たら「自分の家はこっちだから。」と別れるはず、なのに隣にいる男性は、一向にその話はしない。
更には段々その目がいやらしく自分を見ている様なねっとりとしたものに変化してきて、自分はやってしまったと後悔する。
(暫く合コンは不参加だな。)
自分は男を見る目が無い、そう改めて自覚して人気のある道に居る内にと、自分から切り出す。
「すみません、家族に買い出しを頼まれているのを忘れて…ここのスーパーで買い出ししてから帰るので、ここで…。」
「いやいや、荷物持つ事になるでしょ?持つからさぁ…。」
相手も酔っているからなのか、引き下がらない。
どうしたら穏便に事を収める事が出来るだろうか…こんな店先で言い争いをしていたら、店の人にも迷惑だし、助けてくれる人はいないかもしれない。
だらだらと流れ始めた嫌な汗を感じながら、ぎゅっと一度目を閉じて私が別の言葉を出そうとすると。
「あれ、ほのちゃん。」
呑気な声が、聞こえた。
後ろから肩を触られたと思えば体を寄せられて、一気に私の体温が上がる。
「今帰り?」
そんな簡単な声掛けにも答えられず、口を開け閉めしている私に小さな声で「合わせて。」と囁かれ私はやっと動く。
「そ、そう…。」
「こちらは?」
私達の様子に驚いている様子の男性に、私は「合コンで会った人で、ここまで送って頂きました。」と和真に対して説明する。
「そう…じゃあ、ここからは俺が送るから気を付けて帰ってね。」
「あッ…はい。」
ぐいっと優しく背中を押されて私は和真とスーパーの中に入り、無事に男性から離れる事が出来た。
「何となくまずいかなってお節介しちゃったけど、大丈夫?」
緊張から解き放たれた私は思わず和真に寄りかかり、察してくれたのか近くのベンチに彼は座らせてくれる。
「…何で。」
うん?と聞き返す言葉が優しくて涙が出そうになるけれど、私は下を向いたまま聞く。
「何で、分かったの?…困っていたって。」
あの時、特別騒いでいた訳でも無い、周りから見ても年頃の男女が話し合っている様子だっただけの光景だったのに、どうして。
「だって…ほのちゃん、分かりやすいから。」
またそんな、と思わず顔を顰めてきっと顔を上げるけど、そこにいたのは…確かに昔の優しい近所のおにいさんだった。
「ぎゅっと目を瞑っていたでしょ…ほのちゃん、困っている時いつもそうするから。」
思ってもみない指摘に、私は驚いて声が出なくなってしまう。
(家族にもそんな事…言われた事が無いのに。)
ゆっくりと目の前に立っていた位置から、私の座っている隣に座り彼は話す。
「滅多に男の人と話す事が無いほのちゃんが、あんな感じになっているのを…見過ごせなくて。」
良い雰囲気だったのを壊したのならごめんね~と謝られるけど、今の私は色んな感情で心がぐちゃぐちゃだ。
ずるい、ずるいよ。
何で、昔からそんなに…離してくれないの。
ぐっと心に浮かんだ言葉を飲み込み、私は小さな声で「ありがと。」とだけ告げる。
「…そういえば、何でこの時間にスーパーにいるの?」
いつもならこんな夜にスーパーに行く事を彼はしない、ほとんどおばさんが食材を買ってくるから。
不思議そうに聞く私に、にんやりと表情を変え彼は「じゃーん。」と私の目の前にそれを出す。
「柿ピー買ってきたよ!えらいでしょ~」
ふんすと、鼻を膨らませるその様子を見せられ、私は先程までに思っていた感謝や、罪悪感が一気に心から吹っ飛んでいく。
「………そんなの、幼い子どもでも出来ます。」
「え~ちょっとは褒めてよ。」
「そんな事言うなら、今度は片付けや他の家事の手伝いをして下さい。」
厳しいなぁ~と今度は両頬を膨らます彼を見ない様にして、私はさっと立ち上がる。
「…一緒に帰って下さい。」
「は~い。」
ふふ、と聞こえた笑い声を私は聞こえなかった事にした。
―これだから私の初恋は、いつまで経っても…片付けられない。
「ほのちゃん、見ない間にすっかりおねぇちゃん通り越しておばちゃんになったね…。」
そんな事母さんにも言われた事無い…とドン引きする和真にイラついて「そっちこそ随分オッサンになったでしょ!」とお客様相手だという事も忘れて大声になる。
全くおばさんにどんな思いで私にハウスキーパーを頼んだのも知らないで…!と怒りに任せてゴミを勢い良く袋にぽいぽい入れていると。
「…もういっぱいだな。」
圧縮させながら入れているけれど、それでもいっぱいになってしまったので、新しくゴミ袋を出そうと探すけど、ど忘れしてしまった。
どこに仕舞ってあったかな…そろそろ終わらないと次のお客さんを待たせてしまう、と焦って探す。
「―これ?」
いつの間にか背後にいた彼が、しゃがんで探していた私の目の前に袋を見せる。
振り向くと、こちらを見下ろし唯一変わらないその笑顔が私に向けられた。
「え…何で。」
「ほのちゃん、分かりやすいから。」
ゴミ袋の場所分かりにくくてごめんね~と謝ってから、和真は離れてゆく。
受け取ったゴミ袋に薄らと歪んだ私の顔が見えて、思わずぐしゃりと袋を開けるのに必要以上の力で開けてしまって少し割けてしまった。
「それってさぁ…明らかに未練たらたらでは?」
まるで自分は名探偵だと言う様に格好つけて言い切る友人の須藤真代(すどうまよ)に、大学の講義が終わって近くのカフェでゆっくりコーヒーを飲んでいた私は躊躇い無くデコピンする。
「痛ぁ!?」
「吹っ切れているから。」
強がっていると言われてしまうかもしれないが、完全に今の和真と過去の和真は別人で、今更好きになるなんてありえないと言い切った。
「でもさぁ…バツイチとはいえ、その人まだ二十代なんでしょ?しかも離婚した理由も圧倒的に相手が悪かった訳だし…後釜、狙っても良いんじゃないんですかー?」
口では簡単にそう言うけれど、こちとらそんな事は一切思わない…第一。
「…一度結婚に失敗した人に、すぐ言い寄る人間ってどう思う?」
「まぁ、確かに見ようによっては人の心持っているのか疑問に感じるけど。」
ほらね、と私は溜息を吐く。
今でこそいい加減でも、穏やかな表情を見せる和真だけれど、ハウスキーパーを開始した最初は酷いものだった。
「―適当にやって。」
自分の身なりを気にしない、最低限の事しか話さない、動かない。
きらきらと輝いていた和真は離婚を期に心も体も傷付き、自分を守ってくれる家でじっくりと元の自分を取り戻そうとしていたと思う。
ゴミを片付けていると、昔努力していただろう参考書や、社会人のマナー本の処理を頼まれる様になり、当時はとても心苦しかった…でも、今の私はハウスキーパーだから、反対はせず頼まれた事はなるべく応えたいと仕事を進めていた。
「敬語外していいよ、ほのちゃん。」
時が経つにつれて徐々にだけど話してくれる様になり、そして今のだらだらとした和真が顔を出す様になった。
成功か失敗かは分からないけれど、人間関係としては彼と良好なものを築き上げられていると思う、だから。
「恋愛なんてもう懲り懲りだって思っているかもしれないのに…今更ずっと好きでした、なんて言えないよ。」
そもそも今巡り会ったとしても、私の中で彼との恋はもう終わっているのだ。
だから、今更恋に発展する様な行動はしたくないし、それを彼も望んでもいないだろう。
私達が望むのはきっと、平穏なのだから。
「そこまで想えるってことは、ほのちゃんは愛情深いって事だと思うけどね~。」
お褒めに預かり光栄でございます、とだけ言ってこの話題を終えようとしたけれど、そこで別の話を振られる。
「じゃあ、そんな魅力溢れる貴方に新たな出会いのおはな」
「バイトあるから無理。」
最後まで聞かずに断る私に「ねー頼むよー!」と情けない声を上げて懇願されるが、実際バイトや講義の都合を見ないと分からない。
「出会い欲しいからさぁ…あたし一人じゃ寂しいから合コン来てよ。」
真代は私から見ても美人の部類…だけど性格が一致しなくて、いわゆる残念美人だった。
その見た目に騙されて下心ありありで近付く男はいるものの、あまりのアホ…ではなく天真爛漫さに風邪を引くと言われ離れてゆくのを繰り返している。
「嫌だよ、真代初対面の人に人気だからボッチになるの確定になるし。」
「ほのちゃん辛辣ぅ…でもさ。」
めげずに向こうは口を動かす。
「新しい人を見つけないと、ほのちゃんずっとその人の後ろ姿を追う事になる気がする。」
うっ…と言葉に詰まる。
確かにその見解は自分でも当たっていると思う、事実今こうしてハウスキーパーをしている事が楽しいと思える時もあったから。
恋に発展する事なんて無い、そんなはずは無い…そう思いながらも心のどこかで。
この時間が続けば良い。
などと思っている自分もいる。
「ね?一回だけで良いから…空いている日、教えてよ!」
私の心を読んだ様に畳みかけて来る友人に、私は降参の意味で溜息を吐いた。
分かってはいたけれど、とぐびりぐびりとお酒を飲み進めながら私は眉間の皺を作る。
わいわいがやがやと騒がしい周りに完全に浮いている私は、目の前の手付かずになっている料理の数々を頬張りつつ、スマホの画面を睨み付けていた。
(全く…フォローするだのなんだの言っておいて。)
最初は隣の席で一緒に話していた真代だったけど、他のテーブルの男性に呼ばれ、自分は早々に移動してしまい、結局過去の私の予想通り話し掛けにくいボッチが爆誕している。
(…まぁ、私は芋臭いだろうしな。)
大学に進学しても、髪の色はメンテナンスが面倒臭くて染めておらず、服も自分が着やすいプチプラで近所の店で買える物ばかり、メイクも最低限のベースメイクのみで、本当に合コンに来たのか?と疑われても仕方ない恰好だった。
(適当な理由言って帰ろうかな。)
せめて参加費は払わないといけないが、幹事が誰だか分からない…真代に聞こうと席を動こうとすると。
「ひょっとして帰る?」
反対側の席で静かに飲んでいた男性に声を掛けられた。
「え…はい、飲み過ぎたみたいで。」
大学生だもんね~と返された後、彼も立ち上がる。
「オレも帰ろうと思った所、一緒に金払って帰ろうか。」
それは助かると私は頷き、その男性と一緒に幹事の人の元まで行き、店を出た。
「ありがとうございます、それでは…。」
「待ってよ。」
そこで別れようとすると、ぐいっと隣に来られる。
「酔っているんでしょ?…途中まで送るよ。」
確かに先程咄嗟に嘘で飲み過ぎたと言ってしまった、酔っていると勘違いしている彼は、こんな夜に女性一人で危ないと思ったのかもしれない。
途中までと言うのなら、彼が迷惑にならない所まで付き合って貰ってから別れた方が良いと私は感じる。
「では…お願いします。」
よく考えてくれている男性だなぁと私は感心したけれど、自分が少なくても酔いが回っている状態だという事を、この時はすっかり忘れてしまっていた。
暫く世間話をしながら歩き、徐々に酔いが抜けてきた私は、おかしいと思い始める。
普通ならある程度距離が出来たら「自分の家はこっちだから。」と別れるはず、なのに隣にいる男性は、一向にその話はしない。
更には段々その目がいやらしく自分を見ている様なねっとりとしたものに変化してきて、自分はやってしまったと後悔する。
(暫く合コンは不参加だな。)
自分は男を見る目が無い、そう改めて自覚して人気のある道に居る内にと、自分から切り出す。
「すみません、家族に買い出しを頼まれているのを忘れて…ここのスーパーで買い出ししてから帰るので、ここで…。」
「いやいや、荷物持つ事になるでしょ?持つからさぁ…。」
相手も酔っているからなのか、引き下がらない。
どうしたら穏便に事を収める事が出来るだろうか…こんな店先で言い争いをしていたら、店の人にも迷惑だし、助けてくれる人はいないかもしれない。
だらだらと流れ始めた嫌な汗を感じながら、ぎゅっと一度目を閉じて私が別の言葉を出そうとすると。
「あれ、ほのちゃん。」
呑気な声が、聞こえた。
後ろから肩を触られたと思えば体を寄せられて、一気に私の体温が上がる。
「今帰り?」
そんな簡単な声掛けにも答えられず、口を開け閉めしている私に小さな声で「合わせて。」と囁かれ私はやっと動く。
「そ、そう…。」
「こちらは?」
私達の様子に驚いている様子の男性に、私は「合コンで会った人で、ここまで送って頂きました。」と和真に対して説明する。
「そう…じゃあ、ここからは俺が送るから気を付けて帰ってね。」
「あッ…はい。」
ぐいっと優しく背中を押されて私は和真とスーパーの中に入り、無事に男性から離れる事が出来た。
「何となくまずいかなってお節介しちゃったけど、大丈夫?」
緊張から解き放たれた私は思わず和真に寄りかかり、察してくれたのか近くのベンチに彼は座らせてくれる。
「…何で。」
うん?と聞き返す言葉が優しくて涙が出そうになるけれど、私は下を向いたまま聞く。
「何で、分かったの?…困っていたって。」
あの時、特別騒いでいた訳でも無い、周りから見ても年頃の男女が話し合っている様子だっただけの光景だったのに、どうして。
「だって…ほのちゃん、分かりやすいから。」
またそんな、と思わず顔を顰めてきっと顔を上げるけど、そこにいたのは…確かに昔の優しい近所のおにいさんだった。
「ぎゅっと目を瞑っていたでしょ…ほのちゃん、困っている時いつもそうするから。」
思ってもみない指摘に、私は驚いて声が出なくなってしまう。
(家族にもそんな事…言われた事が無いのに。)
ゆっくりと目の前に立っていた位置から、私の座っている隣に座り彼は話す。
「滅多に男の人と話す事が無いほのちゃんが、あんな感じになっているのを…見過ごせなくて。」
良い雰囲気だったのを壊したのならごめんね~と謝られるけど、今の私は色んな感情で心がぐちゃぐちゃだ。
ずるい、ずるいよ。
何で、昔からそんなに…離してくれないの。
ぐっと心に浮かんだ言葉を飲み込み、私は小さな声で「ありがと。」とだけ告げる。
「…そういえば、何でこの時間にスーパーにいるの?」
いつもならこんな夜にスーパーに行く事を彼はしない、ほとんどおばさんが食材を買ってくるから。
不思議そうに聞く私に、にんやりと表情を変え彼は「じゃーん。」と私の目の前にそれを出す。
「柿ピー買ってきたよ!えらいでしょ~」
ふんすと、鼻を膨らませるその様子を見せられ、私は先程までに思っていた感謝や、罪悪感が一気に心から吹っ飛んでいく。
「………そんなの、幼い子どもでも出来ます。」
「え~ちょっとは褒めてよ。」
「そんな事言うなら、今度は片付けや他の家事の手伝いをして下さい。」
厳しいなぁ~と今度は両頬を膨らます彼を見ない様にして、私はさっと立ち上がる。
「…一緒に帰って下さい。」
「は~い。」
ふふ、と聞こえた笑い声を私は聞こえなかった事にした。
―これだから私の初恋は、いつまで経っても…片付けられない。
