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御伽噺とは言わないが。外伝

「…どうしてお前は裏山に興味を持つようになったんだ。」

家に到着した際に最初に市長であり父である晶に言われたのが、この一言だった。
「どうしてと言われましても…。」
仕事の内容だからつい敬語で返したが、「敬語でなくていい。」と言われた。
「実際に足を運んで見るようになって、より魅力的に見えたからかな。」
「…何がどう魅力的なんだ。」
理解が難しいのか、頭をかいて眉間を寄せる晶は市長とも父とも違う顔を見せていた。
(…その反応が、1番の動機なんだよな。)

時は遡る。
秀がまだ物心がつくかつかないかの時だった。
「おとーさん、ご本読んで。」
その日、秀の母は友人との日帰り旅行で家にいなかった。
仕方なく、晶に絵本を読んで貰おうと書斎の側へと近づいたのだが。
「…その、本は?」
「えーとね、ろ…ろくべぇだぬき!」
タイトルを読めた事に達成感の満ちた顔を父に向けるが、向こうはなんだか引きつった表情をしていた。
「…おとーさん?」
「あ、いや、読む…読もう。」
しどろもどろに対応する晶を秀は初めて見た気がした。

無事に読み終えた後、秀は気になって聞いてみた。
「おとーさん、このご本嫌い?」
「え、いや嫌いという訳ではないが…。」
依然としてハッキリしない口調で言われて益々秀は興味が湧いた。
「じゃあ、何でビクビクしてるの?」
「そ…それは…。」
じっと曇のない瞳で見つめられ観念したのか、晶は自分の経験を秀に話した。

そう、御伽噺のように。

いつも人前でも、家族の前でさえ弱い所を見せなかった晶がこんなに怯えて話をしていたことや、それが自分の読んでいた絵本が関係していることを知り、好奇心が加速した秀はすぐに「裏山に行きたい!」と願ったがすぐに却下されてしまった。
ならばと思い、できる限り晶に定期的に体験談を聞かせて欲しいと願った。

幼い秀にとって、裏山がゲームのダンジョンのようなドキドキする場所と定義付けられた出来事であった。
その憧れを起点に、地域を調べる趣味の始まりとなった。

(あれが無かったら政治家にもなろうとは思わなかったな、多分。)
遠い目をして過去を思い出していた秀を晶は訝しげに見た。
「…どうした、まだ体調が優れないか?」
「いや、ヘーキ。」
そう言って、秀は晶に不敵な笑みを浮かべた。
「俺、諦めるつもり無いから。」
何のことを指しているのか、言わなくても理解出来て、晶はひっそりと「勘弁してくれ。」と呟いた。
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