剣士の定め外伝
10月31日。
本来、日本人のほとんどがこの日の行事には関係がない。
しかし、クリスマスよろしく祭り好きな日本人はそのイベントの由来や宗教などの考えを超えて、年々その規模を拡大しながら楽しんでいる。
小学校の校門、そこは人通りが多く、他人が行き交う中で、三絵は一人ぽつんと立っていた。
そろそろかなと、自身の母が持たせてくれた子供用の携帯の時計を見ながら周りをうかがっていた。
「三絵!」
聞きなれた声と足音が三絵の耳に届いた。
「芽衣、林檎…と。」
姿を確認して友人二人の後ろにくっついている小さな人影を見つけた。
「ほら。」
三絵の視線に気づいた林檎が小さな人影に向けて声をかけた。
「こ、こんにちは。」
「大きくなったね~。」
つい近所にいるようなおばさん感覚で林檎の弟である夕日 真人(ゆうひ まこと)に三絵は話しかけた。
「何言ってるの真人くんには3か月前に会ったじゃない、夏休みに林檎の家に行った日。」
「でも、まだ6歳だから成長は早いかも…。」
あたしじゃ近くにいて分からないけどと三絵のフォローをしてくれた。
「あ~やっぱり、林檎は天使だ。」
「うるさい。」
「まあまあ。」
といつものお決まりのやり取りをしているが、3人はいつもとは違うところがあった。
「そっか、今日林檎は天使じゃなくて、妖精だもんね。」
「そうだね!」
「そういえば、あんたは悪魔なのそれ?」
「うん、芽衣姐さんは魔女?」
「………。」
「ツインテールにツンデレなうえに魔女っ娘とかもう最強じゃないっすか。」
以下略。
三絵は赤い角のついたフードと黒い尻尾のついた悪魔。
芽衣はとんがり帽子と黒色のワンピースに紫色のローブを着た魔女。
林檎はオレンジ色のドレスに透明な蝶々の羽が付いた妖精。
3人はそれぞれハロウィンの仮装をしていた。
ちなみに真人は小さなシルクハットを被り、黒いマントを羽織ったヴァンパイアの格好をしていた。
三絵たちの地域では、広い公園がありそこをイベント会場としてちょっとしたハロウィンイベントが行われている。
今日はそこに真人も含めた4人で行こうと約束していたのだった。
「でも去年や一昨年は皆で行かなかったよね?」
不思議そうな顔で林檎は三絵に聞いてきた。
そう、今回のハロウィンイベントに行きたいと言ったのは三絵だった。
「…林檎さん、あたしたちは今小学何年生ですか?」
「え、4年生。」
「そうだね…。」
と三絵は持っていた小さなバッグからハロウィンイベントの小さなチラシを取り出した。
「ここに割引の情報がある。」
「…?」
チラシを取り出されても分からない様子の林檎を見て三絵は核心を突いた。
「哀しいことに、あたしたちが小学生割引を使えるのはあと数年なんだよ!!」
それを聞いて林檎は一気にシリアスな表情に変化した。
「あのハロウィンイベントは屋台も出店する、そして小学生以下でハロウィンの仮装をしている人は一般値段から半額の値段で屋台が商品を提供してくれる…!」
「そう…だったね!」
「だから、この機会を逃すわけにはいかんのよ、林檎!!」
「うん、三絵ちゃん!!」
互いに手を握り感動を分かち合う二人を、何とも言えない表情をしているお金に困ったことのないお嬢様の芽衣は三絵のペースに引き込まれた姉を見せないように真人の耳を塞ぎ、見えない方向へ体の向きを変えていた。
会場に到着すると、多くの人でにぎわっていた。
「いや~凄い人だね。」
と真人に笑って話しかけたが、真人は林檎の足にしがみつき、顔を隠してしまった。
「ありゃりゃ。」
「ごめんね…。」
眉毛を下げて林檎が謝る。
「いやー真人くんは、恥ずかしがり屋さんだもんね…。」
実際、挨拶以外にまともに会話をしたことが三絵も芽衣もない。
真人はたまに二人とも遊ぶこともあるが、恥ずかしがりに加え無口な子だった。
「内弁慶みたいで…。」
家族だけだとうるさいくらいなんだけどな~と真人の頭を撫でた。
「いいよ、いいよ気にしないで!」
こればっかりはどうしようもないと思って、三絵は別の話題に切り替えた。
「屋台も並んでいる人多いし…二手にわかれて屋台制覇しよっか!」
林檎と真人、三絵と芽衣でわかれてそれぞれ屋台に並んだ。
「三絵。」
「ん、何?」
「あんた、小学生割引とかが目当てじゃないでしょ。」
「………。」
「目的は無料配布のお菓子の詰め合わせでしょ、どうせ。」
「いや、小学生割引も目当ての一つではあるよ。」
あーあとため息をこぼし、見破られていたことに苦笑すると三絵は白状した。
「お供え物がね…ちょっと足りないのよ。」
お供え物というのは、雲流丸にあげるものだった。
三絵は雲流丸にあげているお供え物はたいがいご飯などではなく、お菓子などにしている。
「いや、ご飯もあげてたけど、茶碗に盛って二階の自分の部屋に入るところを母さん見られてにどうしたのって心配されて…。」
三絵の母は心配性である。
「過食症なんじゃないかとか精神的に病んでいるんじゃないかとかうるさく言われてそれからお菓子にしているんだけどね…。」
「…お菓子にしても言われるんじゃないの?」
「いや、自分の部屋でお菓子くらいだったら問題ないっぽい。」
だけどねと三絵は言葉を付け足した。
「量によるね。」
「…あー大体察しがついたわ。」
大量にお菓子を買うとなると、また心配される、しかしお供え物が少ないと雲流丸がまた無自覚に生気を吸ってしまうことが危惧される。
疑われることなくにお菓子を買うには安く多く買うのにセールやイベントしかなかなか機会がなかった。
「…だから、あたしに任せればいいのに。」
「悪い。」
三絵の思いを分かってしまう芽衣は、小さく舌打ちをした。
屋台を周り終えて、三絵と芽衣は待ち合わせの場所で林檎達を待っていた。
しかし、十分待っても一向に来る気配がなかった。
「三絵、携帯は?」
「つながらない。」
3回着信と1つの留守電を入れたが、連絡はなかった。
「林檎、今日携帯忘れたって言ってた?」
「いや、持ってたはず。」
ふと三絵は体に悪寒が走った。
「………?」
「感じた?」
芽衣も同じだったようで、三絵を見てきた。
「三絵はさ、ハロウィンの由来って知ってる?」
「…えっと、分からん。」
「ハロウィンっていうのは――――」
説明を始めようとする芽衣の口を止めたのは、場内アナウンスだった。
『迷子のお知らせです。小さなシルクハットを被り、黒いマントを羽織ったヴァンパイアの格好をした、6歳、夕日真人くん。ご家族様が探しています、お心当たりのある方は――――』
「「林檎!!」」
イベント会場の受付のテントに林檎はいた。
「三絵ちゃん、芽衣ちゃん…。」
今にも泣きそうな表情で林檎は二人を見た。
「大丈夫!?」
「あたしは平気だけど…。」
林檎は心の余裕がないからか、うまく話せないようだった。
「…いい、ゆっくりでいいから、少しずつ話して。」
林檎が言うことには、並んでいる最中にトイレに行きたくなった真人は一人でトイレに行き、そこから行方が分からなくなってしまったということだった。
林檎は防犯機能もあることから、必要最低限の操作を教えて携帯は真人に持たせていた。
三絵と芽衣は二人で真人を探し、林檎には引き続きテントに待っているように言った。
「…ねえ、芽衣。」
人気が少ないところへでて三絵は芽衣に話しかけた。
「さっきの続き?」
「うん。」
「ハロウィンっていうのは、ざっくり言うと日本のお盆みたいな感じ。」
「…先祖が訪ねてくるみたいな?」
「そう、でも同じときに有害な存在も出てくる時期だったから、人間であることを隠して、変装したことが始まり。」
「そうなんだ。」
「つまりは、あの世とこの世の境界が曖昧になる日の一つ。」
「!?」
「さっきの寒気、何度も感じたことあるでしょ。」
「…やっぱり、あれは。」
「いるみたいね、真人くんがそういうことに巻き込まれていないといいけど。」
真人はトイレに行ったあと、自分と同じくらいの幽霊の布を被った子どもに「遊ぼう。」と誘われた。
迷ったが、正直あまり話せなくて寂しい思いをしていたので、少しだけなら良いだろうと誘いに乗った。
「たくさん、遊んだね。」
「そうだね。」
顔は布を被っていて分からないが、誘った子は嬉しそうな声でうなずいた。
少し疲れたが、自分の服のポケットに入っている携帯が光っているのを見て、真人は現実に引き戻された。
「お姉ちゃんたちのところへ戻らなきゃ。」
それを聞くと、誘った子は「えー」と不満そうな声をあげた。
「じゃあ、鬼ごっこして終わろうよ!」
「でも疲れちゃったし…。」
「お願い!!」
「…いいよ。」
必死にお願いをする様子を見て、渋々真人は願いに応じた。
「じゃあ、君が鬼ね。」
そう言って子どもはそのまま後ろに向かって走っていった。
「うん…。」
子どもを追おうとして、真人はここである違和感を覚えた。
(なんだか、足が引っ張られているみたい。)
子どもを追っているつもりなのだが、自分から動いているつもりはなく、勝手に足が動くような感覚に陥った。
「鬼さん、おいで、おいで。」
逃げるつもりなどないような子どもの様子に、真人はだんだん何も感じなくなってきた。
そして――――――
あと一歩子どもにたどり着ける距離で、視界が真っ白に染まった。
「――――――――――ま…こと……真人!」
真人が意識を取り戻したのは、テント中にあるベンチの上だった。
「間一髪でしたなぁ…。」
離れたところから三絵と芽衣は二人の様子を見ていた。
「さずがの芽衣姐さん、お札携帯しているなんてね。」
「うるさいわ。」
「でも、お札持ってたなら巫女衣装の方が良かったんじゃ」
「その口も札で封じようか??」
「すみませんでした。」
真人の視界が真っ白になったというのは、芽衣から渡された札を三絵が真人の目に貼ってできたものだった。
札を貼った直後、真人は気絶、目の前にいた子どもは三絵たちの姿を見るや消えてしまった。
「真人くんが気絶をしたのは…。」
「生気を吸われたからでしょうね。」
芽衣は冷静に起きたことを分析し始めた。
「でも、たぶんあれは人間の生気目的でやったことじゃない。」
「つまり?」
「…呼んでいたみたいね。」
「?」
「年齢的にも幼い子どものように見えた、憶測だけど、一緒にあの世に行ってくれる子を探していたみたいな。」
「そんなものなの…?」
「さっきも言ったけど、お盆みたいなものだから、お盆に水辺に行くと呼ばれるって聞かない?」
「ごめん、初耳。」
「…境界が曖昧になってただでさえ幽霊が集まりやすい水辺に人が来ると引きずり込んで道連れにすることよ。」
「じゃあ…。」
「場所が違ってもやれないことじゃないけどね、あそこは人気のない場所だったし。」
要は寂しいから一緒に死んでくれってことねとさらりとしめた芽衣を見て、三絵は経験の差を実感した。
「まぁ…真人くんが無事で良かったよ。」
係りの人たちにお礼を言って三絵たちは会場を後にした。
三絵と芽衣は、さすがに本当のことは言えずに、人気のないあの場所で寝ていたと皆に伝えた。
「もう、なんでお昼寝していたんだか…。」
「まあまあ、済んだことだし。」
嘘をつくことが苦手な三絵に代わり、芽衣が林檎をなだめた。
生気を吸われて疲れたのか、真人は林檎におんぶをされて背中で寝ていた。
すやすや寝ている真人を見て、三絵は自分が持っていた無料配布のお菓子の詰め合わせを林檎にあげた。
「はい。」
「え?」
「真人くんに。」
「何で!?」
驚いて返事をされ、三絵は気まずそうに言った。
「だって、二手に分かれなかったらこんな事にならなかっただろうし…。」
「「………。」」
それを聞いた林檎と芽衣は顔を見合わせた。
芽衣はイラついた表情をし、対して林檎はふわりと笑った。
「三絵ちゃん。」
「…はい。」
「ちょっとこっち向いて。」
「…?」
言われた通りに三絵は林檎の方へ顔を向けた。
「はい、お仕置き~。」
「痛っ!?」
左頬を引っ張られた。
「本当は両方やりたいけど、真人おぶっているからこっちだけね。」
「じゃあ、あたしは反対をやる。」
「芽衣ひゃん!?」
「あっ、ありがとう!」
「いやいや、おくぁしイタタタタ!!」
三絵の両頬が程よく赤くなると、二人は口を開いた。
「三絵ちゃんは、責任を感じすぎだよね。」
「どっかの政治家もこれくらいだったらいいのに。」
ほんとにねーと何事もなかったかのように会話を始める二人を見て、三絵は呆気にとられた。
「早く、三絵ちゃん!」
「日が暮れるとお母さんがうるさいでしょ。」
話しかけてくる二人を見て、考えることが三絵は馬鹿らしくなった。
「はいはい、行きますよ~。」
本来、日本人のほとんどがこの日の行事には関係がない。
しかし、クリスマスよろしく祭り好きな日本人はそのイベントの由来や宗教などの考えを超えて、年々その規模を拡大しながら楽しんでいる。
小学校の校門、そこは人通りが多く、他人が行き交う中で、三絵は一人ぽつんと立っていた。
そろそろかなと、自身の母が持たせてくれた子供用の携帯の時計を見ながら周りをうかがっていた。
「三絵!」
聞きなれた声と足音が三絵の耳に届いた。
「芽衣、林檎…と。」
姿を確認して友人二人の後ろにくっついている小さな人影を見つけた。
「ほら。」
三絵の視線に気づいた林檎が小さな人影に向けて声をかけた。
「こ、こんにちは。」
「大きくなったね~。」
つい近所にいるようなおばさん感覚で林檎の弟である夕日 真人(ゆうひ まこと)に三絵は話しかけた。
「何言ってるの真人くんには3か月前に会ったじゃない、夏休みに林檎の家に行った日。」
「でも、まだ6歳だから成長は早いかも…。」
あたしじゃ近くにいて分からないけどと三絵のフォローをしてくれた。
「あ~やっぱり、林檎は天使だ。」
「うるさい。」
「まあまあ。」
といつものお決まりのやり取りをしているが、3人はいつもとは違うところがあった。
「そっか、今日林檎は天使じゃなくて、妖精だもんね。」
「そうだね!」
「そういえば、あんたは悪魔なのそれ?」
「うん、芽衣姐さんは魔女?」
「………。」
「ツインテールにツンデレなうえに魔女っ娘とかもう最強じゃないっすか。」
以下略。
三絵は赤い角のついたフードと黒い尻尾のついた悪魔。
芽衣はとんがり帽子と黒色のワンピースに紫色のローブを着た魔女。
林檎はオレンジ色のドレスに透明な蝶々の羽が付いた妖精。
3人はそれぞれハロウィンの仮装をしていた。
ちなみに真人は小さなシルクハットを被り、黒いマントを羽織ったヴァンパイアの格好をしていた。
三絵たちの地域では、広い公園がありそこをイベント会場としてちょっとしたハロウィンイベントが行われている。
今日はそこに真人も含めた4人で行こうと約束していたのだった。
「でも去年や一昨年は皆で行かなかったよね?」
不思議そうな顔で林檎は三絵に聞いてきた。
そう、今回のハロウィンイベントに行きたいと言ったのは三絵だった。
「…林檎さん、あたしたちは今小学何年生ですか?」
「え、4年生。」
「そうだね…。」
と三絵は持っていた小さなバッグからハロウィンイベントの小さなチラシを取り出した。
「ここに割引の情報がある。」
「…?」
チラシを取り出されても分からない様子の林檎を見て三絵は核心を突いた。
「哀しいことに、あたしたちが小学生割引を使えるのはあと数年なんだよ!!」
それを聞いて林檎は一気にシリアスな表情に変化した。
「あのハロウィンイベントは屋台も出店する、そして小学生以下でハロウィンの仮装をしている人は一般値段から半額の値段で屋台が商品を提供してくれる…!」
「そう…だったね!」
「だから、この機会を逃すわけにはいかんのよ、林檎!!」
「うん、三絵ちゃん!!」
互いに手を握り感動を分かち合う二人を、何とも言えない表情をしているお金に困ったことのないお嬢様の芽衣は三絵のペースに引き込まれた姉を見せないように真人の耳を塞ぎ、見えない方向へ体の向きを変えていた。
会場に到着すると、多くの人でにぎわっていた。
「いや~凄い人だね。」
と真人に笑って話しかけたが、真人は林檎の足にしがみつき、顔を隠してしまった。
「ありゃりゃ。」
「ごめんね…。」
眉毛を下げて林檎が謝る。
「いやー真人くんは、恥ずかしがり屋さんだもんね…。」
実際、挨拶以外にまともに会話をしたことが三絵も芽衣もない。
真人はたまに二人とも遊ぶこともあるが、恥ずかしがりに加え無口な子だった。
「内弁慶みたいで…。」
家族だけだとうるさいくらいなんだけどな~と真人の頭を撫でた。
「いいよ、いいよ気にしないで!」
こればっかりはどうしようもないと思って、三絵は別の話題に切り替えた。
「屋台も並んでいる人多いし…二手にわかれて屋台制覇しよっか!」
林檎と真人、三絵と芽衣でわかれてそれぞれ屋台に並んだ。
「三絵。」
「ん、何?」
「あんた、小学生割引とかが目当てじゃないでしょ。」
「………。」
「目的は無料配布のお菓子の詰め合わせでしょ、どうせ。」
「いや、小学生割引も目当ての一つではあるよ。」
あーあとため息をこぼし、見破られていたことに苦笑すると三絵は白状した。
「お供え物がね…ちょっと足りないのよ。」
お供え物というのは、雲流丸にあげるものだった。
三絵は雲流丸にあげているお供え物はたいがいご飯などではなく、お菓子などにしている。
「いや、ご飯もあげてたけど、茶碗に盛って二階の自分の部屋に入るところを母さん見られてにどうしたのって心配されて…。」
三絵の母は心配性である。
「過食症なんじゃないかとか精神的に病んでいるんじゃないかとかうるさく言われてそれからお菓子にしているんだけどね…。」
「…お菓子にしても言われるんじゃないの?」
「いや、自分の部屋でお菓子くらいだったら問題ないっぽい。」
だけどねと三絵は言葉を付け足した。
「量によるね。」
「…あー大体察しがついたわ。」
大量にお菓子を買うとなると、また心配される、しかしお供え物が少ないと雲流丸がまた無自覚に生気を吸ってしまうことが危惧される。
疑われることなくにお菓子を買うには安く多く買うのにセールやイベントしかなかなか機会がなかった。
「…だから、あたしに任せればいいのに。」
「悪い。」
三絵の思いを分かってしまう芽衣は、小さく舌打ちをした。
屋台を周り終えて、三絵と芽衣は待ち合わせの場所で林檎達を待っていた。
しかし、十分待っても一向に来る気配がなかった。
「三絵、携帯は?」
「つながらない。」
3回着信と1つの留守電を入れたが、連絡はなかった。
「林檎、今日携帯忘れたって言ってた?」
「いや、持ってたはず。」
ふと三絵は体に悪寒が走った。
「………?」
「感じた?」
芽衣も同じだったようで、三絵を見てきた。
「三絵はさ、ハロウィンの由来って知ってる?」
「…えっと、分からん。」
「ハロウィンっていうのは――――」
説明を始めようとする芽衣の口を止めたのは、場内アナウンスだった。
『迷子のお知らせです。小さなシルクハットを被り、黒いマントを羽織ったヴァンパイアの格好をした、6歳、夕日真人くん。ご家族様が探しています、お心当たりのある方は――――』
「「林檎!!」」
イベント会場の受付のテントに林檎はいた。
「三絵ちゃん、芽衣ちゃん…。」
今にも泣きそうな表情で林檎は二人を見た。
「大丈夫!?」
「あたしは平気だけど…。」
林檎は心の余裕がないからか、うまく話せないようだった。
「…いい、ゆっくりでいいから、少しずつ話して。」
林檎が言うことには、並んでいる最中にトイレに行きたくなった真人は一人でトイレに行き、そこから行方が分からなくなってしまったということだった。
林檎は防犯機能もあることから、必要最低限の操作を教えて携帯は真人に持たせていた。
三絵と芽衣は二人で真人を探し、林檎には引き続きテントに待っているように言った。
「…ねえ、芽衣。」
人気が少ないところへでて三絵は芽衣に話しかけた。
「さっきの続き?」
「うん。」
「ハロウィンっていうのは、ざっくり言うと日本のお盆みたいな感じ。」
「…先祖が訪ねてくるみたいな?」
「そう、でも同じときに有害な存在も出てくる時期だったから、人間であることを隠して、変装したことが始まり。」
「そうなんだ。」
「つまりは、あの世とこの世の境界が曖昧になる日の一つ。」
「!?」
「さっきの寒気、何度も感じたことあるでしょ。」
「…やっぱり、あれは。」
「いるみたいね、真人くんがそういうことに巻き込まれていないといいけど。」
真人はトイレに行ったあと、自分と同じくらいの幽霊の布を被った子どもに「遊ぼう。」と誘われた。
迷ったが、正直あまり話せなくて寂しい思いをしていたので、少しだけなら良いだろうと誘いに乗った。
「たくさん、遊んだね。」
「そうだね。」
顔は布を被っていて分からないが、誘った子は嬉しそうな声でうなずいた。
少し疲れたが、自分の服のポケットに入っている携帯が光っているのを見て、真人は現実に引き戻された。
「お姉ちゃんたちのところへ戻らなきゃ。」
それを聞くと、誘った子は「えー」と不満そうな声をあげた。
「じゃあ、鬼ごっこして終わろうよ!」
「でも疲れちゃったし…。」
「お願い!!」
「…いいよ。」
必死にお願いをする様子を見て、渋々真人は願いに応じた。
「じゃあ、君が鬼ね。」
そう言って子どもはそのまま後ろに向かって走っていった。
「うん…。」
子どもを追おうとして、真人はここである違和感を覚えた。
(なんだか、足が引っ張られているみたい。)
子どもを追っているつもりなのだが、自分から動いているつもりはなく、勝手に足が動くような感覚に陥った。
「鬼さん、おいで、おいで。」
逃げるつもりなどないような子どもの様子に、真人はだんだん何も感じなくなってきた。
そして――――――
あと一歩子どもにたどり着ける距離で、視界が真っ白に染まった。
「――――――――――ま…こと……真人!」
真人が意識を取り戻したのは、テント中にあるベンチの上だった。
「間一髪でしたなぁ…。」
離れたところから三絵と芽衣は二人の様子を見ていた。
「さずがの芽衣姐さん、お札携帯しているなんてね。」
「うるさいわ。」
「でも、お札持ってたなら巫女衣装の方が良かったんじゃ」
「その口も札で封じようか??」
「すみませんでした。」
真人の視界が真っ白になったというのは、芽衣から渡された札を三絵が真人の目に貼ってできたものだった。
札を貼った直後、真人は気絶、目の前にいた子どもは三絵たちの姿を見るや消えてしまった。
「真人くんが気絶をしたのは…。」
「生気を吸われたからでしょうね。」
芽衣は冷静に起きたことを分析し始めた。
「でも、たぶんあれは人間の生気目的でやったことじゃない。」
「つまり?」
「…呼んでいたみたいね。」
「?」
「年齢的にも幼い子どものように見えた、憶測だけど、一緒にあの世に行ってくれる子を探していたみたいな。」
「そんなものなの…?」
「さっきも言ったけど、お盆みたいなものだから、お盆に水辺に行くと呼ばれるって聞かない?」
「ごめん、初耳。」
「…境界が曖昧になってただでさえ幽霊が集まりやすい水辺に人が来ると引きずり込んで道連れにすることよ。」
「じゃあ…。」
「場所が違ってもやれないことじゃないけどね、あそこは人気のない場所だったし。」
要は寂しいから一緒に死んでくれってことねとさらりとしめた芽衣を見て、三絵は経験の差を実感した。
「まぁ…真人くんが無事で良かったよ。」
係りの人たちにお礼を言って三絵たちは会場を後にした。
三絵と芽衣は、さすがに本当のことは言えずに、人気のないあの場所で寝ていたと皆に伝えた。
「もう、なんでお昼寝していたんだか…。」
「まあまあ、済んだことだし。」
嘘をつくことが苦手な三絵に代わり、芽衣が林檎をなだめた。
生気を吸われて疲れたのか、真人は林檎におんぶをされて背中で寝ていた。
すやすや寝ている真人を見て、三絵は自分が持っていた無料配布のお菓子の詰め合わせを林檎にあげた。
「はい。」
「え?」
「真人くんに。」
「何で!?」
驚いて返事をされ、三絵は気まずそうに言った。
「だって、二手に分かれなかったらこんな事にならなかっただろうし…。」
「「………。」」
それを聞いた林檎と芽衣は顔を見合わせた。
芽衣はイラついた表情をし、対して林檎はふわりと笑った。
「三絵ちゃん。」
「…はい。」
「ちょっとこっち向いて。」
「…?」
言われた通りに三絵は林檎の方へ顔を向けた。
「はい、お仕置き~。」
「痛っ!?」
左頬を引っ張られた。
「本当は両方やりたいけど、真人おぶっているからこっちだけね。」
「じゃあ、あたしは反対をやる。」
「芽衣ひゃん!?」
「あっ、ありがとう!」
「いやいや、おくぁしイタタタタ!!」
三絵の両頬が程よく赤くなると、二人は口を開いた。
「三絵ちゃんは、責任を感じすぎだよね。」
「どっかの政治家もこれくらいだったらいいのに。」
ほんとにねーと何事もなかったかのように会話を始める二人を見て、三絵は呆気にとられた。
「早く、三絵ちゃん!」
「日が暮れるとお母さんがうるさいでしょ。」
話しかけてくる二人を見て、考えることが三絵は馬鹿らしくなった。
「はいはい、行きますよ~。」