「退院おめでとう。」
「おめでとう！」

林檎と芽衣が帰ったあと、今度は母さんと父さんによる退院おめでとうパーティーをやってもらった。

「…ありがとうございます。」
正直今更な気がするけど、素直に感謝の言葉を伝えた。
「何照れているのよ、さぁ晩御飯も豪華にしたから食べて食べて！」
そう言って母さんはちょっと…じゃなくて、かなりボリュームのある料理を次から次へテーブルに運んできた。
「か、母さん、さっき芽衣達とケーキ食べたばっかりなのに、こんなに食べられないよ。」
あたしは流石に自分の胃袋の限界を感じて、母さんに訴えた。
「あら、そうよね…。」
「仕方ない三絵、今日はめでたい日なんだから母さんが張り切って作りすぎるのも無理はない。」
すかさず、父さんは母さんのフォローを入れる。
「まぁ、母さんが作るものは冷めてもうまいから、無理せず明日も食べよう。」
ついでにさらりと褒め言葉を入れてくるあたり、なんだかずるい…無表情だけど。
「あなた…！」
案の定すごく嬉しそうにしてるし。
そんな光景を見ながら、静かに無理しない程度に腹に入れようと思いあたしは料理を口に運ぼうと決意した言葉を言った。
「…いただきます。」
暇だったのか、下に降りてきた雲流丸が微笑ましそうにあたし達の一家団欒を見ていた。

母さんの愛のこもった料理があたしの胃袋に満たされてたあと、母さんに呼ばれた。
「三絵、話があるの。」
なんとなく、穏やかじゃない雰囲気だったため雲流丸を部屋に残し、リビングまできた。
「どうしたの？」
「…母さんね、三絵が事故に遭って分かったの。」
「………。」
やっぱり深刻な話だと思って、あたしは黙って母さんに話の続きを促した。
「子供だからって親より先に死なないなんてことないのよね、死ぬことなんて母さんや父さんはともかく三絵にはまだのことだって、思い込んでた。」
「うん。」
「だからね、何度か病院にお見舞いに来てみて思ったの、もしいつお迎えが来ても思い残さないように母さんも三絵も生きなきゃ駄目だって。」
「…うん。」
「それでね、手始めにおしゃれから始めようと思って…。」
「……うん？」
「ちょうど服屋さんでセールやってたから買ってきちゃった、着てみて！」
「………うん！？」
深刻な話から一転、急に話の趣旨が変化して驚いた。
「ちょっと待って、なんでそうなるの！？」
「え、せっかく三絵は可愛いし、スポーティーな服装よりも可愛いものの方が似合うって前から思っていたから…。」
「話が噛み合ってない！」
「だから、母さんは後悔したくないと思って。」
「はい？」
「リボンと髪飾りは前からいいと思ってあなたに付けていたでしょ？」
「まぁ、そうだね。」
あたし的には、母さんの強制的な要求だったけど。
「でもね、リボンだけじゃ物足りないって前から思っていたの…。」
「…それで？」
「どうせいつ死ぬか分からないんだったら、今のうちに三絵を全身可愛い感じのコーディネートにしようと決意したの！」
「それが思い残すのとどう関係してるの…？」
なんだかやり取りするのも疲れてげっそりした顔であたしは自分が可愛らしい格好をするかしないのは論点にはずして聞いた。
「だから、母さんは可愛い格好の三絵でいて欲しいの！！」

そのあと、激論の末に中学卒業までは母さんの選んだ服でいることに決定した。
まぁ…今回は心配を両親だけでなく皆にかけてしまったし、こういう形で母さんを満足させることができて終わったのはまだ良かったことだと思う…個人的にすごく納得がいってないけど。

「三絵ちゃん、どうしたのその服！？」
「…何か事情があったなら聞くけど。」

可愛い服を着せられた見慣れないあたしを見て、二人に心配されたのは言うまでもない。