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剣士の定め外伝

幽霊らしきものが見聞きでき始めたとき、あたしは自分が狂ってしまったのだと思った。

だけど、見えるのと聞こえるだけであって周りの対応は変わらないし特に変なことをしなければ問題がないことに気付く。
それでも、今までとは違う感覚を手に入れたことはやっぱり心中穏やかじゃなかった。少なくとも吐いたこともあったし。
でもあたしは目の前に映る光景が最初は歩けないくらいだったけど今では問題なく歩けている。自分で言うのもあれだけど適応力が高いのではと思っていた。でも最近、まじまじと幻を見ているうちになんだか既視感が芽生えてくる。自分の記憶を探ってみるとあたしはある記憶を思い出した。ずいぶん前のことで忘れかけていたことだったけれどそれを思い出すのと同時に思い出さなきゃよかったと思える禁断の記憶でもあった。

「三絵、映画見るか。」

あたしの父さん石野原 茂(いしのはら しげる)に日曜日の夜、こう誘われた。当時あたしは小学2年生辺りであまり遊べないし、無口な父さんにそう言われて悪い気はしなかった。というか、父さんに対してはあまり反抗していなかった。

が、しかしこの日を境に反抗期になることになる。

「何の映画なの?」
「とりあえず、好きなものをレンタルで借りてきたからそれを見ようと思う。」
「ふーん。」
「アニメはほとんど借りられてたから勘弁な。」
「…分かった。」
 本当はアニメがよかったけど、久々に相手をしてもらえるから我慢しておいた、が。

「ど、どうしたの三絵?」
「………………。」
 あたしは映画が終わってから無言で母さんに抱きついた。
「あなた…?」
「一緒に映画を見たらこうなった。」
「映画ってまさか!?」

父さんはホラー映画が大好物だった。
ちなみにR指定もの。

その後、父さんは母さんにこっぴどく怒られてしばらく落ち込んでいたが、故意でないとはいえ幼かったあたしにはあの映像がきつかった。今でもフラッシュバックする強烈なものとしてあたしの記憶にある。

…まさかこの経験が良かったものに変わるなんて思いもしなかったけど。
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