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第一章


その昔、この裏山には生息していた動物同士の争いが絶えなかった。
裏山の神秘なる力でそれぞれ決して普通とは言えない力を持ってしまった動物たちの戦いは錫鍵村の村人たちをも巻き込んでいった。

しかし、それを収め平和を錫鍵村と裏山にもたらした人物がいる。
それこそ、初代包安寺の和尚・福釜徳行である。

「…前の時より楽しめそうだな。」
巨大化したムジナたちを目の前にしても徳治は臆することなく、むしろ待っていたとばかり笑みを顔に浮かべていた。
「クソ、結局こうなるのか。」
反して徳永は面倒そうに頭をかいて、徳治から離れた。
「分かっているな!?」
「愚問だ。」
シャンと錫杖をふり、ムジナとの距離を詰める為に徳治は走り出した。
「オレに歯向かうってことは、ケンカは付き物だからな。」
ちょうどいい間合いに来てふわりと跳躍した。
「容赦はなしだ。」
『やってみろよ。』
巨大ムジナはすぐに徳治を薙ぎ払った。
無残にも徳治はすぐに飛ばされ、木に叩きつけられた。

「…ちょっと、徳治くーん。」
生存確認の為か、徳永が声を掛けた。
『無駄だ。』
すぐに巨大ムジナが答える。
『前の時とは違う、俺たちはあの敗北から自分達に何が足りないのかを知ることができたあの苦くも有意義な経験から能力の向上へつなげる事が出来たんだ!』
ムジナがゆっくりと徳治の方へ近づく。
『そして、前と比べお前の体は代替わりをしてまだ年月は経っていない。』
徳治の体の目の前に来て、ムジナはその手を伸ばした。

『機は熟した、今こそその身に宿る魂貰い受けよう!!』

ムジナが徳治の体に触れた時。

徳治の体が瞬時に腐敗した。

『………!?』
何が起こったか理解できず、体の腐った臭いがムジナの鼻を刺激した。
「ムジナ…まあ、今の正式名称はアナグマだが、目より鼻の方がお前らは性能がいいからな。」
すぐ後ろに立っていた徳治に気付いた巨大ムジナは驚き、すぐに徳治のいる方に向いた。
『な、何故…!?』
「愚問だな。」
一気に懐に入り、錫杖で巨大ムジナの腹目がけて刺そうとしたが間一髪でかわされる。
しかしそれでも徳治は不敵に笑った。

「何度この世を廻ったと思ってる、来世を渡ってからまた出直しな。」

「徳治きゅんかっこいー。」
棒読みのセリフを呟いて様子を伺っていた徳永に後ろから棒が襲ってきた。
「痛い!」
「ふざけたこと言ってんじゃねーよ。」
徳永を叩いたのは徳治だった。
叩いた棒というのは、錫杖の柄の部分である。
「あれー、徳治くんってばあそこにいたんじゃないのー?」
叩かれた頭部をさすりながら、あくまでのんびりと話す徳永に徳治はうっすらと顔に血管を浮かび上がらせた。
「だいたい理解しているくせに、まだそんな馬鹿げたことを言うのかお前。」
「うん、分かった、だからその持っている錫杖を上げないでくれるかな?」
ふざけるのを止めて真面目な口調で話し始めた様子を見て、徳治は上げようとしていた錫杖を下した。
しかし、徳永が指摘したようにこの場にはおかしな事が起きている。

徳治が2人いることだ。

依然として、すぐそばではムジナと徳治の戦闘が繰り広げられていた。
巨大ムジナの目は血走っていて、目の前の徳治しか見えていないようだった。
「あの様子じゃこっちに気づきそうにねぇな。」
ざまあみろと呟く徳治を見て、やれやれと徳永はため息をついた。
「お前、その例の約束を守ってあいつらと対峙している様子は問題ないと思うけど、そのゲス顔と方法はいただけないな…。」
そう、今徳永と話しているほうが本物の徳治である。
一方でムジナと戦っている徳治は・・・。
「いいだろ、幻術なんだから程よくあいつらを疲弊させるのにはうってつけのやり方だ。」
まあ、本当は実際に殴り合って直に肉や骨が破壊される感覚を感じたいところだがと物騒なことを言う徳治に徳永は持っている数珠をかざした。
「…んだよ。」
「分かっているとは思うが、俺はお目付け役だぞ?」
それ以上の説明はいらないだろと徳永は静かに徳治に警告をした。
そこから二人は黙り込み、ただ視線を交わしていた。

ドンッ!!!

大きな音が起きて、向こうの決着がついたことが分かった。
「さて、じゃあ後始末行きますかね。」
何事もなかったかのようにムジナたちのところへ向かう徳永を見て、徳治は小さく息を吐くと、自分も向かった。
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