第一章
ムジナとは。
アナグマの別名であり、地域によっては狸の別名でもある。
日本の民話では、狐や狸と並ぶ化ける妖怪として描かれることが多い。
「さっきから黙って聞いておれば…。」
真ん中に立つ一番大きいムジナが眉間にしわを寄せ、自身の持つ牙を露わにする。
「おーい、徳治くん?」
「わーってるよ。」
徳治がムジナたちの方へ歩み寄り、相手の目線まで腰をおろして話しかけた。
「化かし合いもいいが、村人どもにまで危害を加えるんじゃねぇよ、冬が明けたからって…。」
冬が明けた裏山は、危ない。
何故なら、食べ物を求めて動物たちが山から下りてくるからだ。
今回の依頼は、そう言ったものだった。
『食べ物の食い荒らしが酷いので、何とかして欲しい。』
(ま、普通坊主にこんなことお願いする地域なんて現代じゃここくらいだろうがな。)
「とりあえず、食べ物だったらまた持ってくるから荒らすことはすんな。」
「わーい、じゃあ僕お菓子がい…」
「今日はそんな用じゃないって言っただろ、ゴウ!」
一番小さなムジナがお菓子のおねだりをしようとして、後ろの二番目にでかいムジナに怒られた。
「…違うのか?」
「ああ、違うな。」
「俺たちは、和尚を…徳行(とくこう)を取り戻しにきたんだ。」
「…お前はそればっかりだな。」
呆れた様子で徳治は呟くと、しゃがんだ体勢に疲れたのかその場で行儀悪く座った。
それを見たムジナは嫌悪感丸出しの顔で、徳治に詰め寄った。
「…俺が言った事が理解できないわけではないよな?」
「理解するも何も、事の発端がお前らだって分かった時点で察しがついてる。」
「だったら…。」
「いい加減忘れろ。」
ムジナの言葉を最後まで聞こうとはせず、徳治は言い放った。
「あんな性格がイカれた奴の事を忘れられずにずっと思っているなんて馬鹿馬鹿しいと思わんか?」
「ゴウ、シキミ、ササ、ジロ。」
ムジナは静かな声音で他仲間たちの名前を呼んだ。
「やっぱり、話なんかじゃ解決しないようだ。」
くいっと片手を動かすと、それを合図に仲間たちが一斉にリーダーのムジナの方へ駆けてきて
リーダーの体に吸い込まれていった。
「…!?」
「おー。」
リーダーの体は膨らむように巨大化し、徳治達の身長より二倍近くにまで大きくなった。
『その体に在る徳行の魂、渡してもらおうか?』
