第三章


さて、憑き物の中で一番に多いのは狐なのは何故なのか。

最古の例は今昔物語の中に語らいである。
元々狐は霊獣として日本各地にその逸話が残されている。
稲荷信仰もあることから、更に人々からお狐様として認知され、親しまれることとなる。

しかし、一方で。
神の使いであるものと、そうでないものがある。
主に憑き物とされる狐は後者のものであり、憑かれた人間は徐々に精神病患者のように気が狂うとされている。
目は瞳が細く瞳孔が細く見え、奇行が増え、まるで別人になると。

あくまで発見された例の中でのことなので一概には言えない部分もあるが。

「人間ってのは、変なところが脆いよなぁ…。」

面倒くさそうに襲い掛かってきたその細腕を掴むと、自らの方に引き体の重心を奪った後一回転して遠くへぶん投げる。
「脆い割に雑に扱うわね。」
すると背後から声がして、足払いを見舞われ徳治はバランスを崩す。
(…分身か。)
錫杖を持って体勢を立て直し、そのまま振り向いて錫杖を槍代わりに九々奈狐に向けて突き刺す。
避けられ、微かに髪に掠めただけになってしまったが、頭の近くにあったのでそのまま横に薙ぎ払う。
「チィッ!」
「ハッ…依り代が女なのが災いしたなぁ。」
ざまあみろ、と呟くとそのまま止めを刺そうとするも、相手は素早く後退する。

戦闘を始めて五分といったところか、最初はそれこそ狐と狸の争いに相応しく幻術で化かし合いをしていた二人だが、大きな幻術は術者が動けなくなる程体力を奪うことになるので、次第に拳を向けるようになった。
(…いや、単純に女だからじゃねぇか。)
肩を上げて呼吸をしている相手をじっくりと観察すると、その体の輪郭がぶれ始めていた。

「やはりと思ったが…。」
相手の様子を見て、徳治は頷いた。
「会ってばかりの人間に憑くのは骨だろうに…何がお前をそこまでさせる?」
そう、憑き物というのは。
任意の相手に憑くという行為自体、魂の問題なので憑く側に負担が掛かる。
自然の中で起こる憑き物とは、対象の人物が憑き物の近くにより、その憑くことが出来る隙間に寄せられて成立してしまうものである。
意図的に呪術師が対象者に憑けさせることが出来ることもあるが、それも高度な業だ。
「そんなこともないわよ。」
いまだに息が切れている状態ではあるが、相手は返答する。
「この子…だいぶ隙だらけだったのよ、そこに入らせてもらったわけ。」
もっとも力を持っているアタシでないと難しいだろうけどね、と不遜な態度を崩さない。
「アンタも分かっていると思うけど、相性が多少あるんだけど幸運にも最高なのよね…まぁ、慣らしが足りなくてこんなに動く予定もなかったからこんな感じになっているけど。」
「俺が聞いているのはそこじゃねぇ。」
ぐさり、と躊躇なく錫杖を九々奈狐の首元の横を通り、後ろの木へと突き刺す。
その目が、鈍く紅く光る。
「答えろ、何が目的だ?」
柄の部分で首を突かれるが相手は態度を崩さない。
「ふっ、しつこい男は嫌われるわよ。」
呼応するように相手も、瞳孔が縦長に細くなる。

肉と肉がぶつかる様な音で徳永は目を覚ました。
「ぁ…何が…!?」
朧気ながらも見えた景色に口から心臓が飛び出そうになる。
徳治と紗枝がお互い鬼気迫る表情で、戦っているのだ。
中身がそれぞれ違うとは分かっていても、普段の仲良しな様子を知っているものとしては青天の霹靂の様な光景で衝撃的だった。
「ちょっ、ま…いっつ!」
気絶している状態から無理に起き上がろうとして頭痛が起きてしまう。
そこで徳治が徳永の様子に気づいた。
「…チッ、まだくたばっていなかったか。」
「あー、知ってる…どうせその返しだろうなって思ったよ…。」
分かってはいても少々傷ついた様子だったが、起き上がった彼を見て交戦しながら九々奈狐は驚いた。
「あら、結構強くしたはずだけれど…。」
「お生憎様、そこの暴君に慣らされているからね。」
そういって、自分の懐に手を入れると、忍ばせていた数珠を取り出した。
「捕縛に使うことが多いけど、自分に巻けばそれなりに防御にもなるんだよ。」
人間は脆いから申し訳ないけど武器一つじゃ生き抜けないからねー、とのんびりした口調で話しかける。

寸の間。

「「………っ!!」」
音もなく放たれた2つの数珠は、各々2匹の体を捉えた。
抜け出そうとするが、数珠は即座に反応し2人を引き合わせ数珠同士が繋がり、すぐに2人丸ごと簀巻き状態にしてしまった。
「…っ、顔に似合わず乱暴ね!」
「おい、俺は必要ねぇだろ!」
それぞれに文句を言われるが、徳永は満足そうに1人頷いた。

「うん、喧嘩両成敗。」
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