第三章
向こうが地を蹴ったと認知した頃にはもう遅かった。
「まずはご主人様からが筋よね。」
気付いた時には九々奈狐は、徳永の目の前にいた。
「なっ!」
「大丈夫、悪いようにはしないわ。」
ふう、と息を吹きかける。
それだけの行動のはずだ。
「!!?」
ぐらりとその体が揺れ、倒れた。
徳治はひとまずそこから離れ、九々奈狐に問う。
「…何した?」
くすくすと可笑しそうに笑いながら、相手は口を開いた。
「大丈夫、と言ったでしょう…ただ気絶させただけよ。」
「どうだかな、御伽噺の狐は嘘吐きの象徴じゃねぇか。」
「それ、人の事を言えるの?」
徳治の一言に更に口の端を上げて返答した。
「狸も狐も化かす者…と言っても、結局は人が一番化かし上手なのにね。」
「………。」
「さて、ご主人様が倒られました…どうする、六兵衛さん?」
すると、九々奈狐の視界が揺らいだ。
「あら。」
気が付けば、目の前に徳治がいて九々奈狐は首を掴まれていた。
「いいの?」
「あ?」
「適当にいいところにいたから拾ったのだけれど…この子、知り合いなんでしょ?」
九々奈狐は問題なさそうに話してはいるが、徳治のその手は片手であってもぎりぎりと容赦なく紗枝の細い首を絞めつけていた。
「ああ、そうだな。」
その言葉に頷いた後。
目の前の坊主は、確かに。
わらった。
「ありがとうな。」
「…?」
「鎖を、絶ってくれて。」
ああ、そうかと九々奈狐は納得する。
(飼われているとしても、心まで飼われている訳じゃないのか。)
近くで転がっている坊主を見て、視線を徳治へと戻す。
「久々に楽しめそうだ。」
首を勢い良く離すと、九々奈狐のみぞおちに錫杖を突き刺した。
「…カッ!」
至近距離故に避けられなかったのか、相手に当たった。
「確かに、狸と狐が揃ったら化かし合い合戦が基本だが・・・それこそ、人が一番得意だろうよ。」
「………。」
「俺たちは、結局獣だ。」
じゃらりと錫杖を掲げ、徳治は愉しそうに告げる。
「今なら存分にやれる…なぁ、喧嘩しようぜ。」
暫く無言でいた九々奈狐だが、諦めたように息を吐いた。
「本当、雄って野蛮な考えしか持たないのかしら?」
それが理性的な言葉の最後。
二匹の獣は互いに飛びかかった。
