第三章
憑き物。
ヒトに乗り移り、周囲に災いをもたらす存在。
その正体は、生霊、死霊、物の怪…多くの者が挙げられる。
一方、災いだけではなく、福をもたらすものも存在している。
福をもたらすものとして、先祖返りがその一つとしてあり、災いをもたらすもの…最たる呼び名として。
狐憑き、という言葉がある。
「…聞かねぇ名だな。」
名前を聞かされた徳治は眉間に皺を寄せたまま、答える。
「そうでしょうね、アタシは京の方の出だから、こんな辺境のところまで名が通っていたらそっちの方が驚くわ。」
驚く様子も無い徳治に満足したような表情で九々奈狐は頷く。
「京都…また、何でそんな都会からこんな田舎までいらっしゃったんで?」
徳永はなるべく表情を変えないように努めて口を開いた。
「あら、貴方普通の人間かしら?」
今気づいたというように九々奈狐は徳治から徳永へと視線を移した。
「…人に飼われているっていうのは、本当みたいね。」
密やかなその声を発した後、その体が後方に飛んだかと思えば、鋭い風が徳治たちと九々奈狐の間に走った。
突風にしてはタイミングが出来過ぎていると、地面だけに残された斬撃のような傷跡に徳永は顔を顰めて、自分の後ろを振り返った。
「徳治…。」
そこには感情と呼べる色が無く。
ただ、冷静に錫杖を構える姿が有った。
苦言の一つでも言おうと思ったが、今それを言ってしまえば自分が先に抹消対象となってしまうだろう。
言葉の代わりに溜めていた息を吐いて、徳永も数珠を取り出し臨戦態勢を取る。
「…好いわね。」
目をとろりとさせ、唇に手を添えるその仕草は紗枝の体ではあったが、何とも言い難い妖しさを漂わせていた。
「創めましょう、古くから語られている御伽噺のように。」
