第三章
「今時の化生の者としては、なかなかだと思うけどねー。」
それは足元で倒れたムジナたちに向かって、労いの言葉を掛ける。
「やっぱり縄張り争いとか無縁になってきてるでしょここ、とある存在の所為で。」
「…くっ……そ。」
「か…カズ。」
動こうとするカズにジロは名前を呼び、止めろと意思を伝えるが、それでも彼は止めようとしなかった。
「諦めが悪いのは美点でも汚点でもあるけど…。」
その足は無情にもカズの腹を蹴飛ばした。ムジナでも大型の部類に入るカズがふわりと宙を飛ぶ。
「そんなに起き上がろうとしてくれると、虐めたくなるわよね。」
「止めろ!!」
大声を出し、ジロは懇願する。
「頼む…彼の命だけは…。」
「わー、よくある言葉。」
嘲るように嗤うと、それはジロの近くに寄ってきた。
「っ…。」
「まともに話できそうなの、もうアンタくらいだから聞いてもいい?」
シキミとササは意識が途切れ、カズは意識こそあるが、口から血を垂らしまともに言葉を話せるかも怪しい。
話しかけられたジロは、精神が削られるような思いで相手の目を見る。
「六兵衛狸は、どこにいるの?」
「良かったな、探す手間が省けて。」
瞬間、割って入った声のした方角を見ると、徳治、徳永、それに2人を呼びにいったゴウもそこにいた。
「皆!」
惨状を目にして、ゴウは悲痛な声を出す。
「あら、良かった…誰かしらこの山の者を叩けば出てくるとは思ったけど…存外早かったわね。」
こちらに近づいてくるその姿を見て、徳永は目を見開いた。
「なっ…え?」
「………。」
「初めまして、裏山の主の六兵衛狸さん。」
ぺこりとお辞儀をして、相手は口角を上げて微笑を作る。
「アタシは九々奈…九々奈狐(くくなぎつね)と呼んで。」
九々奈狐と言ったその姿は。
小柄な体。
黒よりの灰色の外に跳ねた癖っ毛。
薄紫の色の瞳。
「紗枝、ちゃん…!?」
「…また面倒な。」
2人の僧侶を見据えるその薄紫の瞳は、一瞬だが確かに紅く光った。
