第三章


ずっと。

気になっていたことがある。

そう言い出せなかったことを徳治は悔やんだ。
共にこのどこか歪な村で育ってきた仲なのに。
互いに涙を見せあった仲なのに。

何が幼なじみだ。
そんな言葉を吐き捨てたくなった。

「…どうも。」
そう言って頭を下げたのは、紗枝の父親だった。
「わざわざすみません…。」
それを言ったのは、紗枝の母親であった。
「いえいえ、こちらこそ突然電話して更に訪問させてもらって…」
そう言っている徳永だったが、心なしか表情が硬い気がした。
当たり前といえば当たり前だ。

紗枝をお願いできますか?

少し前に徳永から伝えられた言葉。
その真意を何となく察しはついているが、本人達から教えられていない。

「…じゃあ、私は外にいますね。」
夫妻の前だからか、口調を少し硬くして南良は出ていった。
しばらく沈黙が流れたが、耐えきれず徳治は口火を切った。

「今回のこと…心当たりはありますか?」

「おい。」
流石にその言い方はないだろうと徳永は徳治を見るが、徳治は目をいつにもなく光らせていた。
「…心当たりが無いと言えば、嘘になります。」
絞るような声で父親が伝えてきた。
「それは、以前こちらにお願いしてきた内容と同じものですか?」
ゆっくりと徳治は問う。
「…はい。」
「そうですか。」
徳治は次に母親へと視線を移した。視線を向けられた母親はビクリと肩を震わせた。
「いつから?」
「………はい?」
「いつからお嬢さんは、その事を問題として抱えていたのでしょう?」
「………っ。」
肩だけだった震えが徐々に全身へと伝わるのが目に見えて分かる。
「…徳治。」
「知って、いますか?」
「徳治。」
「ずっと、泣いてた事。」
「ひっ」
「あいつは―――――――」

「静かにしてろ。」

それは決して大声などではなかった。
でも、その場の全員を注目させるのに十分な効果を持つ声だった。

徳治はまだ言い足りなかったが、ひとまず抑えて向き直った。
「お見苦しいところをすみません。」
「い、いいえ…。」
「それでは先ほどの続きを、お願いできますか?」
「…ずっと、あの子には隠さず本当の事を告げてきたんです。」
告白はそんな言葉から始まった。
ここからは徳永が夫婦と会話を始めた。
「それは幼い頃からですか?」
「ええ…。」
父親は額に汗をかきながら、重々しく言葉を吐く。
「いわゆる真実告知というものでしょうか。」
「…いずれ分かってしまう問題だと分かっていたので、本人が探る前に伝えていたのですが。」
母親は顔も上げられないのか、下を向いたままで話し始める。
「でも、それでも本人はいなくなるまで耐えていられたことなんですよね?」
「…はい。」
「いなくなった決定打は、何だと思いますか?」
さっきはそんな発言を制したくせに、と徳治は徳永を見やるがすぐに顔を正面に戻した。

内心怒っていたのは自分だけではないと分かったから。

「…紗枝の部屋から、こんなものが見つかりまして。」
隠すこともできないと悟ったのか、相手はすぐに返答と問題の物を出してくれた。
それは、ある人物の名前と住所、更に電話番号を記したメモだった。
メモを受け取り、徳治と徳永はそれを見る。
「これは…警察には?」
「…いいえ、福釜さんたちが来るまでには見せない方が良いと思ったので、待ってもらいました。」
一応、あることは告げているらしいと思い、最初ここに来た時の南良の反応に合点がいった。
「この人は、紗枝ちゃんにとっても誰なんですか?」
優しく問うがその言葉の返答はすぐには返されず、母親は小刻みに震え始めた。
代わりに父親がその背中を擦りながら、答えを告げた。

「紗枝の実母です。」
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