第一章


「んだよ、徳永。」
自分の八重歯をちらつかせて、徳治は徳永を睨んだ。
「…その様子だとちゃんと変われたみたいだな。」
「あたりめぇだ、あののんびり小僧がこんな話し方するかよ。」
自分のことを小僧と呼び、表情が一気に険しく、反抗的な態度になり、さっきとは明らかに纏う空気が変わっていた。
「で、要件はなんだよ。」
「ああ、また裏山の奴らのことなんだが。」
「またあいつらかよ、つまんねえ。」
「時期的なこともあるからな。」
「そんな厄介ごとお前だけでも十分じゃねぇか、余計な仕事押し付けんじゃねぇ。」
「そんなこと言わずに頼むよ…。」
前傾姿勢になり、両手を合わせ、片目を閉じて徳永はこう言った。
「…化け狸さん?」
「その茶化した態度はどうにかできねぇのか。」
ぎろりと眼を動かし、徳治は徳永を睨みつけた。
「わ、怒った?」
「お前、分かってて今その言葉を言っただろ。」
「まあまあ。」
徳永はくるりと体を回転させ、徳治を寺の中へ誘った。徳治は舌打ちをしたが、おとなしく徳永について寺の奥に入っていった。

先祖返り
辞書で調べてみると、直接の両親ではなく、それより遠い祖先の形質が子孫に突然現れることとされている。内容としては、容姿が違ったりすることを指したりもするが、尻尾が生じていたり、異常に毛が生えていたりするといった信じられないことも指す。

「ま、先祖返りとか直系血族じゃない俺には関係ないとか思っていたけどな。」
徳治もソレの一つではある、かなり特殊な例ではあるが。
「てめぇも十分直系に近い血を持ってるじゃねぇか。」
「それでもねぇ、無縁の存在だと思っていたよ。」
それに、と徳永は小さく言葉をつなげた。

「俺、そういうの信じてなかったし。」

徳治たちが住んでいる村・錫鍵村(すずけむら)ではとある御伽噺がある。
全国的な知名度こそはないものの、村の人たちは全員知っているし、毎年それが関係している祭りがある。

その御伽噺の名前は、
「ろくべぇだぬきと和尚さん」
といったものだった。
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