第三章
「…なんか、久々だな。」
徳永と共にとある家に到着する。
「一応、連絡とっておいたから。」
徳永は、元々徳治がいなくても行く予定だったらしい。
錫鍵村は、裏山の影響もあり、こういった対処が難しいことが起こりやすい場所であるので、裏山が直接関係していないところでも、僧侶たちが対応する。
「ここに来たのは、半年くらい前だよね?」
「ああ。」
ここは木戸家、紗枝の家である。
紗枝は基本的に包安寺に訪れることが多く、また本人は家に来ることにあまりいい顔をしないので、紗枝の家に来ることは経をあげる時にしか来ることが無い。
しかし、家の近くにパトカーが駐車されていたり、警官がうろうろしていたり、物々しい雰囲気が辺りを占めていた。
「連絡しておいて正解だったかな。」
「そうしなくても、知り合いの人いるでしょ…。」
満足げな顔をする徳永を見て、徳治は少し呆れたような言葉を口にする。
事件の際に、警察との連携は避けては通れない道なのだ。
「あはは…あ、いた。」
徳永はとある人物を見つける。
「南良警部~。」
呼びかけた人物は、数人の警官に囲まれたその中心にいた。
南良 忠義(なら ただよし)
でかい図体に、それなりの年を経た皺を刻んだ顔、それに加えきっちりとした警察の制服から真面目そうな雰囲気を醸し出している。
が。
「…お、徳永さんじゃねぇか!」
こちらに気付いた途端、破顔と言ってもいいような満面の笑みをこちらに向けてきた。
南良は周りにいた警官に指示を出した後、こちらに寄ってきた。
「いや~久しぶりですな。」
「まぁ、プライベートならまだしも事件では会いたくないな!」
「あはは。」
「徳治くんも久しぶり!」
豪快にドン!と肩を叩かれた。
「お、お久しぶりです…。」
「何だ随分他人行儀じゃないか、若いんだから昔みたいに食ってかかるくらいでちょうどいいぞ!!」
「…それ、あんまり言わないでください。」
「おお、すまんすまん!!」
またガハハと豪快に笑いながら、肩を叩かれる。
徳治にとって過去の話は鬼門だがこの人物が話すと全く嫌味に聞こえない、だから徳治はそれ以上言わず、密やかに息を吐いた。
南良は真面目そうな見た目とは違い、豪快な性格の持ち主だった。そして、ずっとこの錫鍵村を含めた伊斗市が管轄で、何度もお世話になっている。
先代の先祖返りの代からこの地に関わっていてそれなりの融通が通り、また徳永と仲が良くたまにふらりと交通の便が悪いのにわざわざ来て、酒を持ってくる。
「今回もまた物騒な事になっているなぁ…。」
「ええ…あの、木戸夫妻は?」
「おう、とりあえず家で待機してもらっているよ。」
南良の案内で、徳治達は家の中に入らせてもらった。
警察たちが怪訝な表情で徳治達を見ていたが、南良が追い払うとすぐに自分の仕事に戻っていった。
「すまんな、ここの風習を知らないもんが多くて…。」
「いやいや、寧ろ知らない方が多いでしょ今だと。」
「まあな、でも昔だと村の大事の時にお坊さんが出っ張ることもあったのに、今じゃすっかり昔話の中だけだな!」
ガハハと南良は歯を見せて笑うが、後ろに控えていた徳治は少しだけ顔を曇らせた。
(…ここは、未だにそんな御伽噺に縛られているようなところだけど。)
声には出さなかったが、感情の機微に気付いたのか徳永はこちらを見ないで無言で徳治の頭を撫でてきた。
「…!」
徳治は驚いて徳永の方を見たが、徳永は何も言わず南良の言葉に「そうですね~。」と変わらない笑みで返してその手を頭からゆっくり離した。
(かっこわる…。)
すぐに感情を表に出してしまった自分も、このようにいつまでも子供扱いされる自分も。
修行が足りないのだろうかと僧侶らしいことを考えながら、木戸夫妻のいるリビングへと向かっていった。
