番外編


いつも食事に使っている部屋はヘルプの僧侶達が使っているらしく、徳治と徳永は今いる部屋で休憩を取ることにした。
「はいこれ、炊き出しのお汁粉の試作品~。」
「…試作品を休憩に出すってどうなの?」
「いいでしょ、一石二鳥!」
いい加減ともいえるが、目の前に出されたお汁粉は試作品とはいえど、蒸気と餡子の甘い香りが鼻腔をくすぐり、それは徳治の食欲を刺激するのには十分だった。
「いただきます。」
「どうぞ~。」
ここに徳永が来た時のことを不意に思い出した。
(あの頃は精進料理以外の料理のレパートリーが少なくて、不満感じてたなぁ…。)
お汁粉の熱が椀から手に伝わり熱をあまり感じない淵まで滑らせ箸を取る。箸で少しかき混ぜて沈殿している餡を浮上させてから、椀を傾け少し啜る。
「熱くない?」
「ん、ちょうどいいくらい。」
「そりゃ良かった。」
徳永も自分の分に手をつけた。
徳治は浮いていた白玉を取り持ち上げた。白く輝いているように見えるそれを口に運ぶが思うより少し熱を持っていて、あふあふと口に空気を入れて冷ました。
「大丈夫?」
「へーき。」
白玉の素朴ともいえる味とそれに絡みつく餡子の味を堪能したところで徳治は聞いてみた。
「…本家の人におれのことなんか言った?」
「どうしてそう思う?」
内容が内容なだけに徳永も一旦箸を置いてこちらを見る。
「別に、直感だけど。」
「…いつもと同じだよ、裏山、鈴鍵村、加えてお前と六兵衛の様子といった現状報告。」
徳永はこういったことは素直に聞けば答えてくれる、逆に聞かなければ何も言わない、意外と口が固い人である。
「まぁ、おじさんだってそういう立場だもんね。」
「うん。」
でも、と目を薄く開いて徳治を見据える。
「俺達を完全には信用しないこと。」
「………。」
「お前達を道具としてしか見ない俺達を、決して信用するな。」
「分かってるよ。」
たまに徳永から口から出てくるこの言葉を、徳治はあまり好ましく思っていなかった。
それを知っていても彼が口にするのはひょっとしたら自分ではなくて、彼自身に言い聞かせているのではないかと最近では思えるようになった。
「ま、信頼はしてもいいけどね。」
一気に表情を崩し、笑いかけた徳永はせっせとまたお汁粉を食べ始めた。
反対に徳治は、その様子を黙って見ていた。
少しの静寂が訪れた部屋の障子が開けられる。
「徳永さん、徳治様お客様です。」
「あ、もしかして…。」
自分の分の椀を置き、徳永はすぐに外に出た。
(…言ってくれるだけ、マシか。)
ちょっとだけ冷めたお汁粉を徳治は自分の胃に注いだ。
「徳治、もう食べた?」
「うん。」
「お客さん。」
「おれに?」
徳治は時間を見て、ピンと来た。
「紗枝か…。」

「この時期は忙しいって言ってるじゃないか…。」
ブツブツ文句言いながらも、徳治は紗枝に手伝ってもらっていた。
出来た物をてきぱきと並べ、完全に乾いた物を彼女は整頓してゆく。
「ごめん、でも家にいたくなかった。」
「…また後でお礼あげるから。」
年末になっても様子に変化が見られないことを知り、徳治は察していつもと同じ態度をとろうとするが、度重なる疲れからストレスが溜まっていることがバレてしまっていた。
彼女が帰るぎりぎりの時間になり、そろそろと帰り支度を始める紗枝を送るために玄関へと移動する。
「忙しいのは分かっていたけど、無理しないでよ。」
「分かってる。」
「今日の仕事はもうこれだけ?」
「いや、休みはするけど夜またある。」
そこでくるりと、体を向き合わせて口を小さくもごもご動かしながら幼馴染みは告げた。
「…あたしどうせお参りにも来れないし、あんたも忙しいだろうから先に言っとく。」
「?」
「来年もよろしく。」
こっちを向くこともなく、素っ気なく挨拶されるが、紗枝らしいといえばらしかった。
「…まさかそれだけを言うために?」
「まだ終わってないでしょ、早く仕事終わらせる。」
「はいはい。」
流されてしまったが、紗枝の心遣いは何となく察してしまった。
(…来年は、もう少し穏やかな年になってもらいたいな。)
先祖返りとしての人生、どうせろくな事が待っていないだろうが、こんな事くらいは人並みに願わせて欲しい。
「人並みの幸せも、来世に期待だな…。」
徳治にとっての正月はまだ始まったばかりである。
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