第二章
秀が目を覚ましたのは、包安寺の中だった。
「…あれ?」
掠れた声を出し、むくりと起き上がると徳治が近くにいた。
「!?」
「起きましたか?」
驚いた様子の秀を尻目に徳治は、水をコップに注ぐ。
「そうぞ。」
「…どうも。」
とりあえず、勧められた水を受け取り飲む。
(俺は…何をしていたんだ?)
記憶が曖昧となっていて、自分が何故ここにいるか分からなかった。
「もう少しで市長さんがこちらに着くそうですよ。」
「…へ?」
まさに寝耳に水だった。
「ど、どうして…?」
「そりゃあ、実の息子が裏山に入って倒れたら心配になってくるでしょ~。」
のんびりとそう言って入ってきた徳永の後ろには市長である父・高田晶がいた。
「………。」
晶は息子を前にしていたが、叱ろうとはせずただうつむいて顔を青くしていた。
「あの、市長さん?」
「ヒッ…。」
徳治がただ呼んだだけなのに、怯えた表情を見せる父を見てあの事が本当であることを知る。
それは、何度も裏山のことについて聞く度に聞かされた御伽噺のような話。
「俺はその時にいなかったから知らないけれど、市長さんも裏山に入ったことあったんですよね。」
顔をにやにやさせて、話しかける徳永の顔を見て晶は更に顔を強張らせる。
「…今回は、息子がすみませんでした。」
「いえいえ、無事で何よりです。」
「秀、もう歩けるか?」
「問題ないです…。」
あくまで政治家として父に対して返事をした。
「ご心配、並びにご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
「…高田さん。」
不意に徳永に話しかけられる。
「はい?」
「…今回の事で良く分かったのではないですか、裏山の事。」
「………。」
少し間が合いたが、秀は答える。
「そうですね、良く分かりました…。」
そして、ここで政治家ではなく自分としての意見を述べる。
「やはり、とてもいいところですね。」
今度は徳治たちが面食らった顔をする番だった。
「自然豊かで、空気も美味しい、魅力的な場所です。」
だから、と徳永に向けて少し挑発的な笑みを向ける。
「私はここを秘境の地として埋もれさせるのは勿体ないと、今回の件でより強く思いましたよ。」
