第二章


「よりによって何でここなのさ~!」
「…口動かしてねぇで、足動かせ。」

ササ、シキミと別れ徳治達は洞窟の中を駆けていた。
夜目がきき、普段から見回りで裏山のあらゆる場所を歩き回る二人には明かりが要らなかった。
「明かりが恋しいんだけど…。」
「…もうすぐ明るい場所に出る。」
「ゲェ~あんな場所まで行ったの…本当に生きてないかもしれないねぇ。」
人の生死が関わっているのに、徳永は酷く呑気な口調だった。
「くたばっちまったら、適当に念仏でも唱えりゃいいだろ。」
「供養ってそんな単純なものじゃないよ~、そっちより隠ぺい工作する方が大事だし。」
「…狸はどっちだ。」
話しているうちに目的の場所へ辿り着いた。

「相変わらずここは明るいね…。」
明るい場所に出たが、徳永はあまりいい顔をしていなかった。
「…死に近い場所は、綺麗過ぎる。」
ふと、徳治はそんなことを呟いた。
「魂は天に昇るということから、もともと山という場所は現世でも、死に近い場所とされている…ま、これは神道寄りの考え方だがな。」
歩きながら徳治は話を続ける。
「仏教において、山っていうのは修行かつ祈祷する場所だ。」
「山岳仏教(密教等)とかも、あるくらいだしね…。」
「根本的な考え方はいろいろあるが。」
光が強い場所に出てきて、徳治は歪んだ笑みを浮かべる。

「要は、こういった人間(雑魚)に手に余る力を欲して、それを身の内に入れようっていう浅はかな考えだ。」

少なくとも、お前たちの裏山への信仰の起源はそうだったと言葉には出ないものの、徳永は徳治の嘲笑を見て、言いたい事を察した。

「…それでも求めてしまうんだよ、泥に塗れて醜いのが人だからね。」

この鍾乳洞は裏山の頂上まで行く近道であった。

しかし、生物が対象ではない。

先程徳治も言っていた通り、山の頂上というのは魂が集まる場所の一つとして挙げられる。
霊的な力が強い裏山なら尚更多く集まる。

魂が天に昇る為の道がここの鍾乳洞だった。
だから、誤ってこの道に生きているものが踏み入ってしまえば―――――

「…いた。」

眉間に皺を刻み、徳治は倒れている秀の体を睨みつけた。

明かりの正体は、特殊な環境によって視認化できるようになった様々な魂だった。
「徳治、どう?」
「…抜かれているな。」
近くに寄り、秀の体に触れるが、全く反応もしなかった。
「あ~脈も反応なしだね…。」
「早めに終わらせるぞ。」
あくまでここは魂の通り道なのだ、いくら山に受け入れられている徳治の体でも、長居すれば魂達に呼ばれ、死へと導かれる。
「徳永、お前はすぐ死ぬから、とっととそいつの体だけ持って引っ込め。」
「…りょーかい。」
自分の能力の無さを自覚している徳永は、ここではおとなしく従うが、徳治にあるものを渡す。
「錫杖だけじゃ、足りないでしょ?」
「………。」
それは、徳永が使用する数珠だった。
「ちゃんと数珠ちゃんにも言ってあるから。」
「…うるせぇ。」
そこでやや乱暴に徳永から数珠を受け取ると、すぐに魂が多くいる中心へ駆け出した。

法力という言葉がある。
仏法の威力、功徳の力という意味ともう一つ。

仏法の修行をして得られた不思議な力という意味である。

シャンと錫杖を鳴らし、地面に突く。
すると、そこを中心に空気がわずかに変わる。
ふわふわと浮遊するだけだった魂達が、その動きを止めた。

魂は見かけで判別ができるほどの個性は持ち合わせていない。
あったとしても、多少の淀みがあるかないかの違いだ。
こうして魂の動きを止めることで、秀の魂を逃がさず、発見を試みる。

ふと、とある記憶が脳裏をかすめる。

(…クソ。)

自分が嫌っていたあの男と同じようなことをするのは本当に胸糞が悪いと、そう思いながら探す。

徳治が使用する力は、法力というものだが、正しく言えばそれは徳治のものであり、また徳治のものではない力だった。
徳治の法力は修行の成果もあるがそのほとんどは魂に因るものである。
長年現世を輪廻と転生を繰り返し得た力は、人間の一生だけで得られるものではない持て余すほどの力だった。
それを駆使して、裏山と錫鍵村で起こる様々な事件の解決へと繋げる。
それが、先祖返りの役目だった。

程なくして徳治は、一際輝いている魂を見つけた。

徳永に持たされた数珠を魂に向かって投げると、意思があるかのように広がり、魂の元まで接近すると、魂を拘束した。
そのまま数珠と魂は落下し、徳治はその地点まで走る。
「…ッ。」
少し視界が揺らいだが、無事に魂を確保することに成功する。
すぐに徳永と秀のいる場所へと走って戻った。

「…お帰り。」
帰ってきた徳治を見て、安心したように微笑む徳永を見て、徳治は舌打ちをする。
「おら、魂入れるぞ。」
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