第二章


「…どこに行きやがった、あの使えない役人は。」

徳治と徳永は裏山に入り、秀の捜索をしていた。
「こらこら、本当のことを言っちゃ駄目でしょ。」
「お前も大概だろうが、いつも来るアイツを屁理屈こねくり回して追っ払っているくせに。」
「若者をからかうのは、大人の特権だよね。」
そんな会話をしているうちに裏山の奥深くまで来てしまっていた。
「…ねぇ、普通なかなか一般の人がここまで来るのは珍しくない?」
「………。」
「いつも感情でもあるかのように道変えてくるけど、ここまで深く入り込めるのって秀君なんか能力的なの持っているの?」
「………・。」
「さすがにこれ以上無視されるとおじさん泣いちゃいそう。」
すぐさま徳治の手に握られている錫杖が徳永の腹部に向かって叩かれた。
「痛い…。」
「誰か来る。」
徳治の言葉を聞き、徳永は耳を澄ませた。
確かに何か草を踏み潰すような足音が聞こえてくる。

「「………。」」

二人は静かに構え、その音の主が現れるのを待った。

「あれ、大将??」
「………。」

二人の目の前に現れたのは、二匹の熊だった。

「………。」
徳永は固まり、その熊たちを眺めた。
(えーと、大将??)
声に聞き覚えがあるような気がするが、一体誰の事を指しているのか、見当がつかない。
反対に徳治は、肩の力を抜いて溜息を吐き、熊たちにこう話しかけた。

「…残念だが、お前の言う大将は今おねんね中だ、馬鹿。」

「チェッ…なーんだ、六兵衛の方か。」
「………。」
熊たちの姿は一瞬にして消え、熊のいた場所にムジナが二匹現れた。
「あっ、君たちひょっとして…。」
ここまで来てようやく正体が分かり、徳永は名前を呼ぼうとするが、先にムジナ自身が自らの名前を告げた。

「そう、ムジナ五匹衆が一匹、ササとはウチのことだ!!」
「…同じく、シキミ。」

この二匹、先日騒動を起こしたムジナ集団の内の二匹である。ササはとてもおしゃべりでシキミはとても無口である。正反対な二匹だが、よく行動を共にしていて、寺に来るときも決まって二匹で来る。
「まさか君たちとは…すごいね、騙されたよ!」
「チッチッチッ…徳永サン、貴方これくらいで騙されるようじゃ、大将の足手まとい確定だよ?」
「肝に命じます…。」
ちなみにササがいう大将とは、今の徳治ではない徳治の方である。

「で、何で熊なんぞに化けてここにいるんだ?」
やかましい話し声に聞き飽きて徳治は本題を聞く。
「寧ろこっちが聞きたいんだけど~。」
わざとらしく頬を膨らませて、ササが徳治に突っかかってきた。
「この辺りはウチとシキミのテリトリーなの、それなのに部外者は来るし、アンタたちまで来るし…。」
部外者という言葉に徳治と徳永は聞き逃さなかった。
「部外者っていうのは…。」
「そんなことより!!」
質問をしようとした矢先にササが話を遮る。
「この前にくれた野菜とか果物ありがとうね、いや~なかなか今の時期ウチ達が食べれる食料とか他の奴らに取られることとかザラだし、ていうかそこらへんの取り締まりとかもアンタらの役目じゃん、どうにかしてよ、そんでさカズさんの体調も良くないからできるだけ消化のいいやつくれると」
「ササ。」
「ん、何?」
「聞いてない。」
情報量が多い話しについていけなくなったのか、徳治はあくびを一つと徳永は周りの様子をきょろきょろ見渡していた。
「ちょっと~!」
「長い。」
「ごめんね、ちょっと急いでいるんだ。」
「…部外者の事について?」
ササに任せていると遅くなると思ったのか、静かなシキミが話を戻した。
「そうそう。」
「熊に化けて追い出そうとしたんだけど、むしろ奥深くまで行っちゃった。」
「あら…。」
そこまで話すと、徳治が舌打ちをした。
「こら、行儀が悪い。」
「そんなんじゃねーよ。」
「…ごめんなさい。」
あまり表情の変化が分からないが、申し訳ない声音でシキミは謝った。
「いやいや、元はといえば俺たちが悪いわけだし。」
「そうよ、六兵衛なんかに頭下げる必要ない!」
「オレは違うだろ。」
「それで、どこまで行ったの?」
早急に見つけて戻らなければと思い、徳永は質問したが、二匹のムジナはそこで少し無言になった。
「…どうしたの?」
神妙な面持ちだったので、また尋ねた。
ゆっくりと顔をこちらに向けササが徳治達に向かって、こう切り出した。

「アイツもしかしたら、もう死んでいるかもしれない。」
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