第二章
「は~い、それじゃまた今度ね~。」
「…ありがとう、ございました。」
最初の勢いはどこへやら、すっかりやる気を吸い取られたような顔をして秀は寺から出てきた。
(今度こそは、いけると思ったのに…。)
秀は政治家の一人になった時から錫鍵村開拓計画(仮)をずっと練っては提案して、棄却をされてはまた制作し、棄却されている。
何故こんな手間のかかることをしているのかというと、裏山のことが関係している。
(何度も説明されているが、霊的な場所だということだけで、理解不明な現象が起きる理由を教えてくれない…。)
裏山の管理者である坊主から許可を得なければ、交通整備はおろか建物を建てることさえ出来ないのだ。
ずっと続いている決まりらしく、その決まりを守らなければならないということで、行政としてもほとんど手が出せない地域がこの鈴鍵村である。
結果、この秘境が完成されている。
秘境であること以外はこの村はとてもいいところであり、だからこそ惜しい存在であると、秀は錫鍵村のことを知るたびにその考えは大きくなっていった。
(正攻法だけじゃなくて、様々な方法で囲ってみたりしたのに、全く成果が出ない。)
とぼとぼと寺の敷地内から出ていこうとした時、あるものが目に入った。
「…おじさん。」
「何だ、徳治?」
鼻歌交じりであと片付けをする徳永を呼び、徳治はある異変を訴えた。
「あそこの門、開いてない?」
「門って?」
「裏山に入れる門。」
ほとんど獣道といえるような道を秀は怯むことなく進んでいた。
着ていたスーツが少しずつ汚れていくのが分かるが、そんなものは関係なかった。
(…不法侵入は法に触れる行為だが、致し方ない。)
百聞は一見に如かず。
秀は直に裏山を見ることで本当に危険な山なのかどうか確かめたいと、思い立ったのだった。
(父さんのこともあるし…。)
父のことを思いながら、一歩また一歩と秀は山へ入っていった。
「…さすがに疲れたな。」
迷わないように歩いた道に生えている木に持っていた油性ペンで目印をつけながら歩いてきたが、目印の数が10になる頃には体力が低下してきた。
「つい衝動的に動いてしまったが、一旦休むか。」
周りに誰もいないからか、独り言が多くなってきた秀は近くにあった切り株に腰を下ろした。
(危険なところは頂上付近と話しには聞いたから、この辺りはまだ安全なのだろうな、野生動物にも気を付けなければ。)
幸いなことに山登りはこれが最初ではない、山登りをする格好ではないが、僧侶たちが言う危険地帯まではこの状態で登山することは可能と考え、熊避けの鈴はお守りについている小さな鈴で事が足りそうだ。
(俺が無事に帰ってきて、村の人たちの目を覚まさせるには、これくらいしなければ。)
固い決心を胸に秘めて、カバンからミネラルウォーターを取り出し、一息ついた。
