第一章
術勝負に負けたろくべぇだぬきは、二度と村に立ち寄らないことを約束され、去っていったとさ。
めでたし、めでたし。
「………。」
包安寺の蔵の中。
ペンライトの光を頼りに、徳治はそこでも例の絵本を読んでいた。
「めでたし、めでたし…ね。」
ゆっくりと、絵本の最後の文章を読み上げた徳治の表情は、まさに無表情といえるものだった。
(世の中、そんなに簡単に物事が終わるはずもないのに。)
絵本の結末が実際とは違うことを徳治は知っていた。
徳治は絵本を床に置き、次にとある巻物を手に取った。
それは、この絵本の原本といえるもの。
初代和尚・徳行の日記だった。
紐を解き、巻物を広げた。
普通の人ならミミズにしか見えない文字を徳治は読める。その能力は大体大学レベルだ。
しばらく、日記を読み漁り、きりがついたところで、徳治は巻物を片付け始めた。
片づけを一通り終えると、小さく独り言をこぼした。
「…本当に、現実かって疑いたくなるくらいにとんだこと書いてあるよな。」
苦々しく、ゆっくりと、言葉を吐く。
「正直信じたくないよ、前世のこととか、裏山のこととか、アイツのこととか。」
本の中では解決しても、現実ではまさにその続編のような日々を過ごしている。
「………時間か。」
休憩の時間の終わりを悟ると、徳治は静かに出口へと向かった。
「なんにせよ、来世に期待…かな。」
