第一章
「徳治!」
お昼休憩中に、また幼馴染である紗枝が話しかけてきた。
「…何?」
徳治は寝ている体勢からむくりと起き上がり、紗枝を見た。
「なんかサボっているみたいだったから、呼びかけてみただけ。」
「何それ…。」
自分の評価が紗枝の中で低いことを言われたみたいで、徳治は複雑な表情をした。
「今日もこっちにお邪魔させてもらう。」
紗枝は、寺の講堂に入ってきて徳治の横に座った。
「…学校。」
「あー聞きたくない、知らない。」
相変わらずな様子を見て、徳治は溜息をついた。
そしてふと、時計が目に入る。
「…紗枝。」
「何?」
「今日はどのくらいまでこっちにいる?」
・誰か来るの?」
少し申し訳なさそうに徳治はうなずく。
「村の外の人?」
「まあ、そうだね。」
「………。」
それを聞いて紗枝は無言になる。
「まあ、まだ大丈夫だけど。」
「いや…だったら悪いし、どうせろくな人じゃないでしょ?」
紗枝は立ち上がり、徳治を見下ろす。
「…何かあったら、言ってよ。」
「考えておく。」
徳治の曖昧な対応に紗枝は眉をひそめたが、あきらめたように出入り口へと向かっていった。
「紗枝!」
一声かけて、徳治は近くに置いてあったお供え物だったお菓子を紗枝に投げた。
投げたお菓子に気づいた紗枝は、その両手にお菓子をキャッチした。
「それ、お前用にキープしておいたから。」
「……ありがと。」
紗枝が寺から去り、予定の時刻になると来訪者が現れた。
「こんにちは~!」
「…失礼する。」
目の隠れるほどの前髪を持った男の子と、二十代後半くらいの野暮ったい雰囲気の男性が寺を訪れた。
「はい、いらっしゃい。」
徳治は穏やかな笑顔で二人を迎え、応接間へと案内した。
応接間では、徳永がせっせとお茶や果物の準備をしていた。
「良かった、準備が間にあったよ。」
二人の客を見て、徳永は座椅子に座るように勧めた。
おずおずと二人の客は落ち着かない様子で座椅子に座った。
しかし、目の前に置かれた果物を見て、男の子は目を輝かせた。
「あ、あの…これ。」
「話が終わってからだ。」
男性に止められて、男の子はしょげてしまった。
「いや、大丈夫だよ。」
「そうそう、お腹を壊さない程度に食べてね。」
坊主二人に言われて、男の子はさっそく手を伸ばし、果物をほおばった。
その様子を少し困った表情をした男性は見ていたが、徳治が「どうぞ。」と言うと自身も果物を食べ始めた。
「さてと。」
果物がなくなったところで、徳永が本題を切り出した。
「今回は、わざわざ山を降りて来てくれてありがとう。」
二人の客を見据えてこう言った。
「ジロ君とゴウ君…で合ってるよね?」
「ああ。」
「合ってるよ!」
今人間に見えるこの二人だが、実はあのムジナ五匹衆の内の二匹、ジロとゴウが人に化けた姿だった。
「すごいね…人間にしか見えないよ。」
素直に関心する徳永にゴウは照れた様子でもじもじした。
「まあ、ゴウは中途半端で目は完全に化けることができないから隠しているんだが。」
「いっ、言わないでよ!」
恥ずかしそうに顔を赤らめるゴウの顔をよく見ると、なるほどアナグマの特徴的な目の模様が見えた。
「…それで、君たちのリーダーは今どうしてる?」
少々聞きにくそうに、徳治が質問した。
「カズは…また修行をし直すようだ。」
表情を硬くして、ジロが答えた。
「伝言を頼まれた。」
端的にジロが徳治に告ぐ。
「まずは、君あてに…。」
どうやら徳治二人に伝言があるらしい。
「『記憶がなくても、貴方に仕えることはやめようと思わない。』だそうだ。」
そして、今度はもう一人の方の伝言を言われた。
「『いつかお前を負かす、徳行とともにいるべきは俺だ。』とも。」
その言葉を聞いて、徳治はあの出来事を思い出した。
