第3章
その後もつつがなくショーは進み、終盤へと近付いてきた。
ノイが出番の時にガーナから話しかけられる。
「ね~マツリ、あの声って本当にマツリが出していたの?」
「あ…そうだよ。」
改めて聞かれると恥ずかしいね、と何とも言えない表情を見せた。
「ミツメの声を借りる事もあったんだけど『どうせなら色んな声を出せるようになった方がいいだろ。』って言われて…その怪盗をやっていた時に鍛えていたんだ。」
「なるほど~。」
今度ガーナと本読むときにも使って!と強請られて「そ、それはちょっと…。」と断ろうとするついでに別の話題を無理矢理出す。
「そっそういえばもう終わりに近いねっ、最後ってノイさんが最後なのかな!?」
「む~…違うよ。」
話題を逸らされた事に対してその頬を膨らませるも、ガーナは返答する。
「締めの演目はいつも同じ…あの人が出るから。」
あの人?と聞き返す、後ろから足音が聞こえ振り向くとすっかり忘れていた人物が現れた。
「さて…次の演目でショーを終わります、最後の演目は我が旅団一芸達者である彼が出てきます…それでは登場して頂きましょう!」
拍手と共にやって来たのは―――
遠くからでも分かる縦縞の派手な衣装、ナイトキャップのような特徴的なシルエットの帽子、白塗りの顔に子どもの落書きのような化粧。
「道化師のりーくんです!」
紹介された道化師は無言でぺこりとその大きな背を曲げて挨拶をした。
「…船長も練習していたんですね。」
意外すぎる人物の登場にマツリは目を点にしてしまっている。
それもその筈で、彼は練習どころかいつもと変わらず昼寝をしていたので、全く参加しないものと思っていたから。
「まぁ…練習は、しない人だからなぁ。」
信じられない一言を聞いてマツリは「えっ!?」と叫んでしまう。
「嫌味な程芸達者なんだよ…剣技にしても航海術にしても―ああいう事に関しても。」
船長がお客の目の前へ歩きだそうとして盛大に転ける。
どよめく客人たちの中から目の前の少女が船長を起こそうと駆け寄りその手を差し出す。
ぺこぺこと変わらず動きだけで感謝を告げる船長が、その少女の手を握ると。
「…わ、お花だ~!」
何も無いはずのその手のひらから突如花が咲く。
種も仕掛けも分からないその目の前の出来事に他の客人もまた驚き「もう一度!」という声もあがる。
ではもう一度、と言うように別の手品をしようと手を動かし始める船長に客達は釘付けになっていた。
「相変わらずむかつく程手際が良いわね。」
アナウンスが終わったサナが控えのテントへ戻ってくる。
「器用だよなぁ…本当に同じ人間かっていつも思う。」
ノイも静かに頷く、反対のガーナは機嫌がそのままの様子で半目のままに呟く。
「でもあのお花、ガーナが作ったやつだよ…急成長させるのって…お代高く付けたんだから。」
「…何を注文したんだ。」
「秘密。」
食い気味の返答は恐らくバレるとまずいものなのかもしれない。
今度はノイがじっとりした視線でガーナに告げるよう促すも、ガーナは知らない振りをしマツリに話を振る。
「あんまりにも他の人とレベルが違うから、いつも最後は船長に締めて貰っているんだよ…マツリ?」
船長の方を見たままこちらを見ないマツリにガーナは首を傾げるが、その顔を見て何となく理解する。
(…演目、被らなくて良かった!!)
青白い顔をしながら、高レベルの手品とコミカルな動きで客を逃すどころか集めるその手腕をマツリは最後までじっと見ていた。