第3章


とりあえず、手っ取り早く自分が出来るかもしれない演目をガーナとの共同の寝室でマツリは考えていた。
「…やっぱり、手品かな?」
ガーナが自分の能力を活用しているところからヒントを得て、マツリは幻術を使って手品をすることを候補に考えている。
「自分にしか出来ない事だし、ただ隠したり何かを見せるってことだったらどうにかなると思うけれど…。」
うん、と一人頷き試しに自分の記憶にある手品師が見せてくれたような動きを思い出す。
「ここへ取り出しますは何の変哲の無いハンカチです…一度確認して頂いて良いですか?」
目の前には誰も居ないのだが、架空の客に対してマツリはハンカチの裏表を見せる。
「はい、ありがとうございます…では、この何も無いテーブルにこのハンカチを置きま…ん、あれ…?」
この後、先にテーブルに置いてある透明にしたボールがハンカチをテーブルから離した瞬間に幻術を解いて、出現させる…そういう手筈だった、しかし。

「なーんか、気が進まねぇなー。」

頭上から声がする。
聞き覚えのあるそれを忌々しそうに顔を歪めながら、少女は口を開く。
「…仕方ないでしょ、金銭の危機なんだから協力しなさいよ。」
「やなこった。」
ツンとしたその態度に余計に苛立ちが増す。
マツリは自分の幻術については、いまだよく分かっていない部分が多い。
しかし、何を起点にしてそれを出現させるのか…それは分かっている。

今、無いヘソを曲げている第三の目…ミツメの協力を得なければ出す事が出来ないのだ。

「いつもなら毛嫌いする癖に、こういう時に限って頼ってくるの…どうかと思う訳ですよ。」

手鏡を持ち、自分の顔を移して改めてミツメと話そうとするも、早くも正論を口にされぐっくと口をへの形にしてしまう。
ミツメが協力してくれるのは、実を言うと本当に最低限。
きっかけは怪盗を始めてから、それまでは様々な景色を見ることが出来ても、幻覚を出す事も知らなかった。
『何かやろうと思ったら出来た。』
その時は、しれっとこう言われたのだが、あの時は使えるものは全て使うと思う程余裕が無く、次々と強奪されてゆく品々を取り戻すのに精一杯だった。
それにはムマジに恩を感じているからなのか、全く何も言わずに力を貸してくれたのだが、ミツメの規準で勝手な都合で幻術を使おうとすると、勝手にロックがかかる。
「…一応アンタも海賊の一員みたいなものなんだから、協力しなきゃいけないんじゃないの?」
「別にオレは海賊になりたかったわけじゃ訳じゃ無いし~そこはお前の意思だろ~。」
だから、金銭に関しては自分でどうにかしろよとさらっと言われるが、マツリは持っている手鏡を持つその力が強くなる。
「確かにそうだけれど…もしお金が手に入らなかったら、食べ物とかにも困ってあたしも疲弊したら、アンタだって…!」
「初めに言った筈だ、命に関わる事以外オレはこれを使わないってな。」
しん、と静まった部屋に酷く冷たい声がマツリの鼓膜を叩く。
「見ることはまだしも乱用していい力じゃないことくらい…お前も分かっているだろう、駄々捏ねんな。」
「…あたしだけじゃないし。」
「じゃあ、その便利な目で甲板を見てみろよ。」
促され、マツリは透視を使って部屋を遮る壁を超え、外の光景を見る。
そこには先程鳥を集めていたガーナが鳥たちに何か声を掛けているようだった。
「…芸を、教えている?」
声は聞こえないが、鳥たちはガーナに掛けられる言葉に合わせて空に一列に並ぶ。
そして、次々に丸や三角、四角へと形を変えて空に図形が描かれた。
ある程度出来たのか、終わると鳥たちに餌をやって休ませる…その一連の様子をマツリは感心しながら見ている。
「ただ力を使っている訳じゃねーよ…きちんと鳥と会話した上で、見世物になっているんだ。」
他の奴らも同じだろう、とミツメはそのまま言葉を続ける。
「時間と労力を使って、良い物になってきたんだ…それがどうだ、お前の薄っぺらい手品は?」
「………。」
それを指摘されて、マツリは何も言えなくなった。
確かに自分は初めてで聞かされていなかったとはいえ、何の努力も無しに自分に出来る範囲の芸で場をやり過ごそうとしていた自分が情けなくなってくる。

「…とりあえず今回はオレの力を貸さない、それだけは覚えておけ。」

久しぶりのお説教は疲れるなぁ~と一転して呑気な口調に変わった第3の目は、そのままその目を閉じた。
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