第3章
連れて行かれた部屋は、まだ入った事の無い部屋だった。
サナはすぐに扉を開けると、そこには色とりどりの色彩がマツリの前に現れる。
「綺麗…。」
思わず感嘆の声が出てしまう、それほどに目の前の衣服たちは色とりどりかつ、それぞれ個性を放つ作品とも言える魅力を放っていた。
「お褒めにあずかり光栄ね。」
「え、これ…サナさんが全部?」
そうよ~と何事も無い顔で言われるが、錚々たるその光景に信じられない気持ちが強くなる。
「それでも、すぐ出来たものばかりじゃないけれどね~裁縫を趣味にしてからこつこつ作った物たちだらけ…それでも、お金の足しにって売っちゃった子たちもいるけれど。」
さてと、とこれからが本番と数着のドレスを手に取り笑みをこちらに向ける。
「ここからはマツリちゃんの仕事よ。」
「…こっ、ここれは。」
思わず体が震えだしてしまう、何故ならそれは自分が着たことも、ましてや着ようとも思っていなかった服。
「す…スカート……だ、駄目です、NGです…。」
島の女の子たちが着ているのを見ていたが、自分は動きやすいからと祖父から薦められてもずっと断ってきた。
見ている分には、可愛いものだと思うが、自分で着たいかと問われれば否といつも行ってきた…が。
「マツリちゃん、何事も経験だと思うの…はい、スパッツもあるわよ。」
そもそもサイズが既に把握されている時点で怖いのでは、と考え始めたがもう遅い。
「着 て ね ?」
追い詰められた少女は、そのまま試着へとステージを進める事となった。
おしゃれとはこんなに体力が要るものなのだろうか…と多くの服を取っ替え引っ替え着けられ、着せ替え人形状態だったマツリは思う。
「やっぱりこれが良いかしらねぇ~。」
女の子はお洋服の幅も広いからとっても楽しいわ!とマツリとは反対にご機嫌なサナは、床に広がっている候補の衣装たちを見て、その中から1枚を選んだ。
「当日はメイクもするから、よろしくね!」
「あの~そろそろ何をするのか教えてくれませんか…?」
とりあえず自分が着飾って何かをやるというのは、もう分かったのだがそれでもまだ全て理解は出来ていない。
ナイフを投げ合っていたサナとメソド、鳥たちに餌をやっていたガーナ、ノイや船長も何かやるようだが、答えを彼は教えていないのである。
「見せるのよ、芸を。」
「芸…?」
そう、とサナは続けた。
「大道芸って知らない?」
その言葉を聞いて、マツリは昔島に来ていた劇団を思い出した。
その時は、大きな芝居小屋を組み立てて一ヶ月程島に滞在してくれたのだが、とても魅力的で日頃島に無い刺激を貰えると、自分も島民たちも楽しみにしていた。
そして、劇中にそういった芸が出てきたのを思い出し、途端にマツリは首を振る。
「けっ経験無いです、難しいですよ!」
「違うわね、マツリちゃん。」
こちらに向けているのは確かに笑顔のはずだ、しかし何故だろう。
冷気すら感じられるこの迫力に戦く。
「出来る出来ないじゃない…やるか、やらないか…ですよ。」
路頭に迷いたくないなら協力してね♡と元の口調に戻り、マツリは「はい。」としか言えなくなってしまった。
芸をやるということにはなったが、マツリは自分が人に見せる芸を持ち合わせていなかった。
「…人をなるべく避けて生きてきた人生だったのになぁ。」
自分から人前に出る事になるなんて、分からないものだとしみじみ思いながら、まずは他のメンバーと出し物が被らないように聞き込みを開始する。
ガーナには海鳥たちと何かをする事以上は教えてくれなかった為、一度鍛錬室に戻ってノイとメソドに話しかけた。
「…オレはさっき見られた通り、サナとナイフの投げ合いや的当てだ。」
「俺は足技だな…適当な木を見繕って割る。」
流石にずっと航海を続けているからか、それぞれの技を身につけていてマツリはヒントを貰うつもりだったが、逆にマイナスな気分になってくる。
「…皆さんのレベルが高いのに、素人の自分が飛び込みで入ってお客さんが減る未来しか見えません。」
先程既にメソドとサナの芸は見ているし、ノイは日頃稽古をつけて貰っているので実力は言わずもがなだろう。
「だろうな。」
慰めも何も無く、ぐさりとノイの一言が刺さり「うぐっ。」マツリは瀕死状態の気分になったのを察してメソドは唸る。
「…最初から上手くいく事なんてないよ、オレらだって初めはそうだったし。」
「そう、なんですか?」
ああ、とメソドはその背中を押した。
「幸い時間はまだある…悩んで演目を決めればいい。」
