第2章
深く、深い青に身を投じる。
漁が盛んに行われていた故郷に生まれたマツリは、それなりに泳ぐ技術は持っているし、暇があると漁に駆り出されることもあった。
(…それでも、島に多少馴染んだ後のことだけれど。)
目の前の暗い色に感化させるように自分の気持ちも沈んでいくような気がして、マツリは考えを捨てるように水抜きを行う。
多少の知識があっても、ここまで深く潜るのは初めてのことだった。
(興味本位で海の底を覗く事は、あったけれど…。)
沈むに従って徐々に光が届かなくなってゆく。
それは、確かに恐怖というものもあるが、同時にマツリは別のものも自らの胸の内から湧いていることを自覚する。
その感情の正体を思っている間に、隣で泳いでいた船長が自分の肩を突き合図を送った。
目の前に、自分が見たことが無いものがそこにあると。
(四角い…家、いや…お城?)
自分の島にも、時折届く新聞から見る他の島の建物の絵とも違った異質なそれが、自分たちの目の前に現れた。
家というのはその島事の文化の違いでデザインの違いこそあれど、屋根というものがあるはずだ。
しかし、海底に沈んでいるこの建物には、それが無い。
(これが、神殿…?)
船長の言葉によれば、そう示されていたが無機質な程角張っているその建物に神を祀るという機能があるかどうか、疑問に持った。
とりあえず、わざわざ玄関から入る必要は無いというように、船長が先に一番上の窓からそこへ入ったので、マツリも後を追う。
(しかし…本当にこの葉っぱ便利すぎる。)
時間制限があるとはいえ、海中で息が長続きするというのはありがたく思う、あまり空気を身の内に入れると勝手に体が浮くのでそこの配慮さえしていれば、後は自分の力でどうにかするだけだった。
神殿の中へ入ると、中は外と同じく無機質で角張ったような印象だった。
細かい材質までは分からないが、すべて石で出来ているように見え、そして中は長いこと放置されている証のように藻で覆われている。
(家具…みたいなものもあるんだ。)
そこでやっと人に昔使われたらしいそれは、周りと同じく藻で覆われていたが、人が作ったであろうタンスに似たような形状をしていた。
こういう所にお宝があるのでは、と安易に考えそこに近寄ってみるが、あるものが見えて止める。
(…こういう時はこんな目で良かったな。)
透視して中を覗いてみたら、そこは毒の針を持つ魚の巣となっていた。
気を取り直して、先に進んでしまった船長を追うことにする。
一歩、また一歩と。
ゆっくり歩みを進めていくと、暗闇が広がってきた。
船長は依然歩みを止めず、暇無く周りを見渡していてこちらに見向きもしない。
おそらく信用させているのだろうが、そのまま深く潜っていくので、行き先が分からない自分は根拠の無い不安も過ぎる。
(あたしが見つけたい所だけど…。)
実はマツリの目には、ある弱点が存在する。
それは、こういった光が届かない所では幻術や透視といった特殊能力の使用が難しい状態となってくるからだ。
ミツメは教えてくれないので自分の仮説でしかないが、初めの内の怪盗業で灯りの無い箇所で幻術を使おうとした。
しかし、それは現実味の無い薄いだけの映像となってしまい失敗に終わる。
幸いその時はどうにか自力で逃げ出せたので、捕まる事は無かったのだが。
(あまり光が届かない箇所に行くと、力が使えない…!)
ノイに習っている最中の体術は水中を意識したものでは無く、荷物になるからとメソドからもらった槍も置いてきてしまい、自分の迂闊さを恥じる。
平和な海域と知ってはいても、未知への恐怖がじわじわとマツリを追い込んでいった。
とんとん、と。
いつの間にかこちらに来ていた船長に、肩を叩かれる。
こちらに視線を向けたマツリに前へ指を指し、歩くよう指示をしているようだ。
(なん、だろう…。)
何か宝らしきものを見つけたのだろうか、そう思い似たような部屋や廊下が続くその中を再度歩き始めた。
