第2章


とりあえず、と自分とガーナの寝室まで連れてこられたマツリが言い渡されたのは、前にサナに渡された水着を着ることだった。

「今から一緒に海に沈みます!」

いやいや、とそこでマツリの額から声が上がる。
「何心中させようとしているのよ、お父さん許しませんよ。」
「誰がお父さんだ。」
ごすり、とミツメが生えているその位置に拳を擦り付けた。
「…性別、あるの?」
ふとした疑問を船長が投げるも「プライバシーの侵害よっ!」「急に女みたいな声に変えるな。」と変わらず漫才をされるので、スルーして本題へと戻す。
「…とりあえず、心中とかじゃなくて俺らは今から海の底にある神殿に行きます。」
「え、神殿…?」

船長が言うことには。
この近くに古代遺産である建物が、海に沈んでそのままとなっているらしい。

「そこに、その…お宝があるんですか。」
「それを確かめる為に、行くんだよ。」
当たり前と言うようにニカリと笑うと、水着の上に上着と短パンを穿いたら甲板まで来いよーと投げられ扉が閉められた。
「…嵐みたいな男だよな、あいつ。」
「まぁ…否定は、しない。」
ふう、と一息吐くとマツリは準備を始めた。

とりあえず、言われた通りに水着の上に簡単な服を着て甲板まで上がってきた。
すぐに船長が準備体操をしているのが見え、同時に小さな影が近くに寄り添っている。
「ガーナちゃん?」
考えを変えて、一緒に付いてきてくれるのかと胸の内に希望が湧いたが、彼女は別の要件で来ているらしい。
「あっ、マツリ…これ口に付けて行ってね。」
渡されたのは、手の平程のサイズの葉っぱ。
「これは?」
「空気草。」
船長がその名を答えた。
「別名フレッシュリーフ…水中で作業するとき、そいつを口に噛んで挟んでおくと、新しい空気が入ってくる。」
勿論水が口の中に入らんよう、器とかで口を被せなきゃならんがなと言われるが、そんな便利なものがあるなら、故郷の漁師たちに教えたかったと考えが過る。
「ちなみにガーナのお陰で便利な葉っぱになったから!」
「あ…そうなんだ。」
その一言で教えてはいけないものだと察した。
「元々の葉っぱも新鮮な空気を作り出す作用はあるが…これはガーナの力でより強くした形だな…お姫さんには毎度お世話になる。」
「だよねー!」
褒められたことで胸を沿った姿勢となるガーナに船長は「波で揺れるぞ。」と言いながらそっと後ろへ回る。
「倒れないもん!」
「どうかな、まだ船に乗って3年だろ。」
その仲の良さからどこか兄弟にも見えるが、先程の一言がマツリの脳内に引っかかる。
(3年…今、ガーナちゃん見た目7歳みたいだけれど…家族は…?)
少し思考するが、いつの間にか目の前の仲良いやり取りが激しくなってきたので、それが切れて間に入り、マツリは仲裁役を買って出た。

今更ながら潜りの経験は、と聞かれ「海で何度か貝を取ったことがあるので、それなりに…。」と答えると満足そうに頷かれる。
「それくらいありゃ十分だ。」
準備体操だけはきちんとしろよ~と促されたので、マツリは体操を始めると、ガーナはとてとて自分に近づいてきた。
「この海域は確かに平和だけど…気を付けてね?」
え、と聞き返すと耳を寄せてとサインされたので小さなその背に合わせて屈む。

「船長がだいたいトラブルの元だから。」

それを聞いてがくりと、今後の自分の身を守る為に頑張らないと…と感じた。

体操を終えたマツリは、船長から最後の言葉を聞く。
「ここから先は水中だから、身振り手振りしかできん…だから最初に注意点を上げておく。」
船長から提示されたのは、以下のことだった。

1、まず単独行動はまだ危険なので、出来る限り2人で行動すること。
2、空気草の効力は1時間のみ、それまでには海上へ上がること。
3、宝を発見した際には、取り過ぎないこと。

「…ま、これさえ守ってくれりゃどうとでもなる。」
しかし、解せないとマツリは声を上げた。
「あの、1と2は分かるのですが…3は?」
「まぁ、海賊っぽくはないな。」
にやり、と上がる口角がその歯をちらりと見せる。

「略奪しすぎると…種さえも無くなるんだぜ。」

どういうことだろうか、それを考える前にさてもう行くぞーと急かされ、目の前の青に飛び込んだのだった
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