第2章


「みーつけた。」
少し距離が離れたので分からないと思っていたのだが、それは甘かった。
暗い路地裏で振り向かれてこちらを窺うその顔は自ら発光している様に光る。
「もう、メソドちゃんに知れたら大目玉ね。」
「…ごめんなさい。」
前に一度マツリに後を付けられたことがあるサナは感覚でマツリが追ってきていることが分かったらしい。
「自慢にもならないけど、これまでストーカーに遭ったこと一杯あるのよ?」
言葉とは裏腹に鼻を鳴らす。
「まぁ、言葉や数式を覚えたらこういったことも教えるつもりではあったけどね。」
思わぬ言葉に反射で「え?」と間抜けな声を出してしまうが、同時にあることに気付いた。
どんどんと、袋小路へ向かっている。
あの、と問いかけようとするがその顔は自分には見えるはずなのに、酷く無機質で声を掛けることさえ躊躇うほどのものだった。
こんな時でさえ彼が美しいということがありありと理解してしまう。
目の前には確かに壁がある、くるりと向きを変えて彼はその口を開いた。

「…貴方が未熟なお陰で、釣れた訳だし。」

すぐそこには、一人の男が居た。
暗い中、男の吐息だけがやけに生々しく聞こえた。

サナを追いかけることに夢中で自分の後ろは全く気付いていなかったマツリは、思考停止しそうになる頭をどうにか回す。
(考えろ…ッ、自分で蒔いた種だろ!)
自分たちの後ろには壁、目の前には件の通り魔らしき人物。
2対1ではある、しかし先にどうにかなると放った言葉が揺らぐ。
武器である槍を持ってくれば良かったのだが、船を出た時にはすっかり忘れてしまっていた。
「仕方ないですね。」
依然冷えた声でサナがマツリの前に立つ。
「若い内は多少のおいたは必要…それに、元々わたし一人だけでどうにかするつもりでしたし。」
コートの内側を弄り、そこから飛び出た両の手が光る。
向こうの男が後ろに下がった、その足元も同じような輝きが確認できた。
(ナイフ…。)
全く投げる素振りが無かった、投げ終わった後に確認出来たほどの速さ。
「良ければそれ使ってもいいですよ、縄と刃物じゃ不利なのは貴方ですし?」
無言ではあったがぎりりと削れる音がする。
しかし、相手は言葉通りに投げられたそれを拾う。
それを見るとサナはふっと笑った。
「こんなことは聞けるのに…首を絞めて興奮するのは止められないのですね。」
優美な表情だがその名前は相手を見下したもの、冷笑だった。
直後、懐へ切りかかってきた相手を流したが、紅い長髪の先が切れてその場を舞う。

それでも、彼は表情を崩さず「変態さん。」と侮辱した。

戦いというのは、船の上でもそれなりに行われていた。
まだ戦闘に出させてはもらえない自分はじっと海賊たちが戦う様子を扉越しから透視していて、学ばせてもらっていたが。

(舞うように戦うっていうのは、こういうことなんだな。)

サナの戦闘スタイルは中距離型のもので、接近でナイフを扱いつつ、時にナイフを投げて距離を離し、周りの仲間に対して援護する形が多かったので、1対1という形では見たことが無かった。
ただ進む、後退するというよりは斜めよりその体の回転に合わせて勢いを付けて、深いダメージを狙うもので死角から相手を捉えることに特化している。
故に、彼は踊っていた。
ステップを踏むように、愉しく、可笑しく、回る。
「ほら、鬼さんこちら。」
余裕たっぷりに挑発する顔は暗がりでも妖しく光った。

その一瞬。

「…っ!」
敵わないと悟ったのか、素早く移動してサナの後ろへ男は突き進む。
その先に居るのは。

ぐっと腰を掴まれ、首にナイフを当てられる。
そこから伝わる冷えた温度にマツリは汗が勝手に流れた。
30/39ページ
スキ