第2章
次の日、島から離れる前日の夜。
風呂から上がったマツリは先に風呂に入っていた赤髪の人物が甲板に上がるところを見た。
「…もう夜遅いのに。」
島に停めているのでよっぽど夜盗など気にせずに見張りもしなくていいのだが、それでも外に出ようとするのは何故か。
昼間のことが引っ掛かりいつもは誰かに聞きに行くという慎重さを持っていたマツリだが、好奇心は猫をも殺すと言われてもこの時ばかりはサナが早く移動したこともあり、それは実行できなかった。
そうしたいつもがずれるところで、想定外のことは起こるのだが。
こっそりと後を付けるつもりで一定の距離を保ちながらマツリは追っていた。
「おーい、悪い子ちゃん。」
小さな声が頭からして、マツリは慌てて周囲を見る。
人の通りこそあるが、通り魔のこともあり女性は少ない。
ひとまず路地裏へ足を踏み入れてバンダナを下した。
「…何?」
「単純に追うなら透過しちまった方がいいだろ、それか適当な人物に化けて行くとか。」
ミツメの能力は実は使っているマツリも全部は知らない。
恐らく茶化しのつもりか正体を見せたくないのか、その全貌を自ら語ることは無く。
ただ、彼と自分で出来ることは多少知っていた。
常人の目に見えないものの把握、箱の中身が見えるといった透視。
自分の見たことがあるものを映し出せる幻覚。
自分、あるいは他人を透過させて見えないようにする、など。
それ以上もあるかもしれないが、現状頼るときは必要以上に無いので教えを乞うことも無い。
教えてくれないという訳ではなく、単純にミツメも含めたこの能力に対して忌避感があるだけだ。
人が持つにはあまりに大きいそれを、自分などが扱えるものか。
「…あれをすると体力的に疲れる、サナさんが無事に帰れるか見るだけだからいいでしょ。」
「お前だよ。」
すぐに返されて言葉に間が開いた。
「きちんと…ノイさんに教えてもらっているし。」
馬鹿め、と嘲笑交じりの声が響く。
頭から発音されているので、余計にその振動が頭から下ってきた。
「帰れ、今ならまだ間に合う…オレの為でもあるんだよ。」
一つの体に二つの意思。
どちらが本体と言えるのか、たまに分からなくなる。
能力に頼ることしかできない自分は、この額に生える三つ目のおまけでしかないのだろうか。
ずいとバンダナを上げてその声を塞いだ。
何やらもごもご言っているが、拳骨一つ入れて黙らせる。
「それでも…あたしが行きたいの。」
自分という存在を認知してくれる。
その人たちがいる限りは、自分に意思を持つ決定権くらいはあるだろう。
歩みだしたマツリの目には遠くなってしまっても異能の視界がサナの姿を捉えていた。
