第2章
異質。
読んで字のごとく質が異なっていること。
人は、見た目や年齢、性格や嗜好はそれこそ大樹のように枝分かれしている。
だがどこか。
規範というものを持っていて。
自分の理解を超えるモノが現れた時、人はどうするのか。
少しの静寂が訪れて、どちらとも動かなかったのだが、それを切り裂くように悲鳴が聞こえた。
「…っ、何?」
マツリが反応するよりも先に目の前の人物が動いた。
声がする入り組んだ路地裏の方へ、素早く向かう。
すると。
「どけや!!」
「…!」
間が悪いことに、明らかに犯行現場から逃げる現行犯らしき人物に鉢合わせてしまった。
しかも、相手は大柄でとても小柄ともいえるメソドでは相手になりそうにない。
「メソドさ…ッ。」
先に壁を見透かして予知しておけば良かったと後悔するも、すぐに事態は動く。
突如、視界から彼の姿が消えた。
「「………!?」」
マツリと現行犯が驚いていると、声があがった。
「マツリ、口塞げ。」
大男の背後から投げられた小さな袋が首に当たった瞬間爆ぜた。
そこから出てきたのは霧状になった新緑色の粉末で、それがあっという間に顔全体を覆う。
「…ッ………―――。」
体が痙攣したかのような動きをしたと思えば、男は膝から崩れ落ち石畳の道に沈んだ。
(…これは。)
マツリが動けずにいると、男の後ろにいたメソドは転がっている荷物を持って、無言でこっちにこいと手招きをした。
ありがとうございました、と女性にお礼を二人は言われていた。
「たまたま通りがかったものですから…。」
と謙遜するも、それでもと女性は瞳を潤ませてこちらに顔を向ける。
「こんなに平和なところで盗まれるなんて思わなかったですから…本当に、ありがとうございます。」
別れ際までぺこぺこされたが、マツリの胸中は複雑だった。
というのも。
彼らは女性にすべてを返した訳ではないからだ。
「あの…メソドさん。」
完全に人の目がいなくなったところで、マツリは話しかける。
「言ったろ、オレ達がどういう奴らなのか。」
そう、確かに彼は言っていた。
犯罪者の仲間になった、と。
「善意だけで、物事が成り立つと思うのは大間違いだ。」
メソドはポケットに入れたままにしてあった、女性の持っていた一部の所持金を自身の財布へと移した。
「いつだって、表もあれば裏もある…全部清いもので出来ているのなら。」
そこでメソドはマツリに目を合わせた。
「君が島を出る理由も、なかったはずじゃないのか。」
ときり、と胸が締め付けられるような感覚がした。
拒絶、噂、排他…そんな言葉がマツリの人生には付きまとっていた。
一時は何も信じることができなくなった時も、確かにあった。
「…いいえ。」
けれど。
「いいえ、だって…。」
それでも、否定する。
「善意がなかったら、そもそも私は生きていません。」
まっすぐに、見つめ返す。
「私は…海の中、小さな木箱の中に揺られてあの島に流れ着いたんだそうです…奇跡的に。」
でも、と話を続ける。
「拾おうとする人はいませんでした、その時からこの目だったから。」
「…あの人は何で違ったんだ。」
メソドはマツリを送り出した育ての親であるムマジを思い出す。
「子どもができなかった…愛する人はいたのですが。」
マツリも話でしか聞いたことがないが、ムマジの妻は先立っていて子どもには恵まれていなかったらしい。
例え三つ目の赤子だろうと、一つの命だ。
そういって反対する島民を尻目に育て始めたのだとか。
「確かに私たちも旅をするにあたりそれは必要です、メソドさんがそれをしたのもそれを思ってのことでしょう?」
「………。」
「それに。」
極めつけに、マツリは笑顔を向けた。
「私への恐怖心を誤魔化さない正直なところ、あの人のお金を全部は盗らなかったところ…貴方にだって善意はあふれていますよ、メソドさん。」
