第2章
「あ、初めてだった?」
美術館からの帰り道の途中で、寝耳に水といった様子でノイは聞き返す。
その様子に不満を隠すことなくむくれた顔でマツリは答えた。
「はい…あたしの能力は幻術が基本なので、近距離で使うのは不慣れですし…それに卑怯な戦い方が基本ですからね。」
言い回しがねちねちしているのは先程「賊たちと変わりがない」という発言を気にしているからなのだろう。
「…まぁでも良かったじゃねーか、無事に終わって。」
あれから幸いなことに難なく賊を全員倒すことができ、美術館の職員に確認を取った後に警察に通報という流れになり、盗人たちはお縄についた。
今は警察から事情聴取されて、2人は帰路についている。
(ほとんどノイさんが倒したようなものだけど…。)
それでも頭に描いていた計画とはかけ離れたものとなってしまったし、少しだが擦り傷も負ってしまった。
「俺は、てっきりわざわざ予告状叩きつけるような奴だから、それなりにできると思ったんだよ。」
「へ…?」
「実際負けただろ、お前に。」
そういえばと記憶を思い返すと領主邸で行われた駆け引きではマツリが逃げ勝っていた。
「…いや、直接戦ったわけではありませんから。」
「それでもまー、こちとら多少は悔しかったんだよ。」
少し顔を険しくさせたが、それも少しの瞬間だった。
「だが…今日お前の言葉を聞いて納得がいった。」
「あの時は、美術品を取り返すのと、貴方たちが危害を加えるものかどうか図りかねていたので。」
「ただ盗むだけなら、勝てた…だが、あの時はお前の方が俺らより必死で覚悟もあった。」
気持ちってのは案外馬鹿にならねーぞ、とぐしゃぐしゃに頭を撫でられた。
「…あの。」
「あ?」
「手伝って頂いてありがとうございました。」
と、少し間をおいてマツリは話し続ける。
「あたしが怪盗をやるきっかけになったのは、じっちゃんのものが強奪されたからなんです。」
隣で話すその様子をノイは黙って見ていた。
「それは、とてもきれいなネックレスであたしも子どもながらに憧れていたものでした…じっちゃんはそれを思い出の品と呼ぶだけでそれ以上は教えてくれなかったのですけど。」
でもある日、と声のトーンを落としてマツリは口を開く。
「妻に渡すのにぴったりだから、と領主が来たんです。」
思い出してしまう。
『おお、これは綺麗だ!…いいだろう。』
『…それは、やめてください。』
「断ったのにも関わらず…。」
『どうせ付けるつもりもないものだろう、使ってやるって言っているのに!』
『それだけは…それだけはご勘弁を………!』
「無理矢理…!」
『それは、家内の………形見なんだッ!!』
「おい。」
酷く冷静な声を掛けられ、一気に現実に戻ってくる。
「あ…。」
「いいか?」
「す、すみません…。」
「いや、俺も浅い考えで聞いちまって悪かったな。」
「いえ…あたしも勝手に話しているようなものなので。」
あははと乾いた声の後に、晴れやかな笑みをマツリは見せた。
「それから…盗みを働くようになって、協力者も増えて…あの状態が出来上がったわけです、でもあの出来事が無かったらあたし、島のはみ出し者ですよ。」
「…やっぱつえーよ、お前は。」
「え?」
ことりと首を傾げるマツリにノイは少しだけ顔を緩ませる。
「それだけのことを今までほとんど1人でやっていけてたんだ、もう少し自信もっていいんじゃねーか。」
体は鍛えた方がいいかもしれんがな、と付け足すとノイは歩みを速めた。
(…体。)
マツリはまじまじと自らの体を見た。
決して貧弱とは言わないが、確かにこれから航海を長く続ける為には多少鍛えなければいけないかもしれない。
「…!」
ノイの後ろ姿を見ていたマツリは、頭にある考えが浮かんだ。
