第2章


「もとから外に出るだけで騒がれていた身だったので…家にいることが常だったんです。」
性根も活発的とは言えませんでしたしね、と自嘲気味に笑う声は美術館の中で静かに響く。
「外に触れるものといえば…じっちゃんがくれるおもちゃくらいでした。」
「あのじいさんか。」
記憶は朧気だったが、ノイはマツリと一緒に住んでいた老人を思い出した。
「はい、向こうは子育てするの初めてだったみたいでとりあえず物を与えておけばいいかなって思ったみたいで。」
その中に偶然クレヨンが入っていてそれが今の趣味に繋がったのだと、懐かしさをマツリは顔に滲ませた。
「よく…育てたな。」
そういえば、と記憶を手繰るとマツリとその育て親は不都合なことが多かったのではと思われる点がいくつかあった。
「お前、あのじいさんと二人暮らしだっただろ。」
「ええ、じっちゃんは優しかったので…でも、こんな三つの目玉がついている奇形な赤ん坊を育てようとする時点で色々変わった人なのですけど。」
時折すれ違う他の客に目を向けながら、マツリは郷愁に浸るように呟いた。
その様子を黙って見ていたノイだが、ここで悪い癖が出てしまう。
「で、何で盗人なんかやってたんだ?」

その言葉を聞くや否や、マツリは体を硬直させた。

「…なんだ、彫刻の真似か?」
「えええええいいいいいああああああっとおおおおお。」
小さな声ではあったが、およそ人語が話せていない状態になったマツリを見てノイは首を傾げた。
暫くすると、マツリの声がした。
「…にいちゃん、すまんがそれはせめて他のところで聞いてくれねぇか?」
「あ?」
不自然に思ったが、マツリの額に巻いたバンダナが蠢いていたのを見てノイは頷き、とりあえず近くのベンチに座らせた。

誰もいないことを確認して、いまだ話せない状態であるマツリに変わり、ミツメがマツリの声でノイに話しかけた。
「…まぁ、別に金儲けだとかそんなことで始めたわけじゃねぇんだよ。」
「ふーん。」
本当は本人が言うべきことなんだがなぁ、と表情こそはないものの目玉は複雑な感情を言葉に投影させる。
「だからっていっても、偽善とも…違うしな。」
「どういうことだ?」
「あー、なんだっけ…いてっ。」
「じっちゃんです。」
適当な受け答えに嫌気が差したのか復活したマツリが額を叩いた。
「…あの領主が嫁の為に貢いでいたことは、覚えていますか?」
マツリの問いかけにノイは「あー。」と以前対峙したことのある際に見たあの湯でタコ顔を思い出して吹き出した。
「あのタコがなんかしたのか?」
「最初は手始めに身近な美術品から手を付けていったんです、島の美術商、収集家…そのうちに島民が持っている美術品にまで手を伸ばし始めたんです。」
言葉が進むにつれて、少女の顔は険しくなってゆく。
「別に、領主と島民のお互いが問題ない取引ならいいんです…けれど、家宝まで手を伸ばし始めて、どれだけ嫌だと言っても聞かない時も…じっちゃんも……っ。」
俯いてはいたが、その顔は怒りに変わっていることを声でノイは理解する。
「…おい。」
もういいと、制止の声を掛けるがマツリはそのまま続けようとする。
「でも…でも、それより……赦せないのは………!」

そこで弾けるようにマツリは顔を上げた。

「すみません、ノイさん…先に行ってもよろしいですか?」
「は?」
「先に出ます!」
そういってマツリは駆け出した。
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