第2章
「ところで。」
食事の時間に船長がガーナに尋ねた。
「ん?」
「ちゃんと種付けておいたんだよな?」
そう言われてガーナは「忘れてた!」と言い、食事していたがテーブルから離れようとする。
「おい、食事中!」
「すぐ戻るもん!」
ノイの怒号もお構いなしにガーナは部屋から離れた。
「…種、ですか?」
そういえばと、マツリはガーナが言っていた言葉を思い出す。
『問題ないよ、種付けておいたし。』
「ガーナの力ってのは、使い方が色々あってな。」
本人に聞くのが一番だが、と近づいてくる足音を聞きながら船長は全部を説明しなかった。
「はい、お待たせ!」
ガーナが持ってきたのは、鉢に植えられた植物だった。
見たところ何も変哲の無い普通の植物の様に見えて、マツリは目を凝らしたが、先程の急激に育った植物のような動き回る様子もなく、花から睡眠効果のある花粉は出てこなかった。
「このお花は…?」
ガーナはことりとテーブルに鉢を置くと、マツリに話しかける。
「ガーナね、いつも出かける時は何かあった時の為にこの子の子ども…種を持っていくんだよ。」
「…えっと?」
「ガーナの血ってね、あんまり飲み過ぎると毒になるんだけど、一滴だけ入れて毎日水に薄めて飲ませると変わった能力に目覚めることがあるの。」
「まぁ、ざっくり言えば品種改良みたいなもんだな。」
いや品種改良どころじゃないとマツリは思ったが、言葉を引っ込めた。
「この子の能力は離れた子どもの居場所が分かる能力なの…もちろん、遠すぎたら分からなくなっちゃうけれど、この島くらいだったらいけるよ。」
「ということは、さっき逃げられた男に種を付けていれば…!」
「うん、この子が教えてくれるよ。」
「ガーナちゃん、凄い!」
思わずマツリはガーナに抱きついてしまい、そしてすぐにはっとなり離れた。
「ご、ごめんね、急に…。」
「…ううん。」
そこで思い出したかのようにぎこちない雰囲気を出し始めた二人にサナが助け舟を出した。
「ガーナちゃん。」
「何…?」
「マツリちゃんに言いたいことがあるって言ってなかったっけ?」
「へ…?」
何の事だろうかとマツリは昼間の言葉かなと思ったが、ガーナは視線を上下させせわしなく動いていることからそうではないと感じた。
「あ、のね…マツリ。」
「うん、なあに?」
昼間とは違いゆっくりと、その小さな口から放たれる言葉を待った。
「……昼間は勢いで家族って言っちゃったけど…ともだちにも、なってくれる?」
思いがけない一言に、マツリは言葉通りに目を丸くさせた。
マツリが何も話せないでいるとガーナは居たたまれなくなったのか、早口で言葉を続ける。
「いっ、いやだったらいいよ、うん…あの、家族っていうのは、ガーナ、この船で育ったから家族って言える人がいないからっていうのがあるけど…えっと、でも、旅してるからともだちってできなくて…あ、でも植物のみんなとはともだちだよ、うん!だから……断っても……。」
「初めてだなぁ。」
ガーナの言葉が弱気になり始めたころ、マツリはやっと口を開く。
「え?」
「ともだち、なんて。」
マツリはガーナの視線に合わせて屈んでから笑った。
「…あたしはね、こんな目持っているから、同世代の子や自分より下の子とかにも敬遠されていて、いつも何もしてないのに怖がられたり、避けられたり、言いがかりをつけられたり、散々だったんだ。」
「………。」
「だから、話すのは大人が殆どだったけど、それでも皆がいい顔を向けてくれるとは限らなかった、成長するにつれて少なくなっていったけどね。」
「マツリ。」
そこできゅっとガーナがマツリの手を握った。
「ガーナちゃん、あのね。」
マツリもその手を握り返すと懇願した。
「あたしの、はじめてのともだちになってくれる?」
「…しっ、仕方ないな~、そうまで言われたら」
「そこは素直にありがとうだろうが。」
「ノイ、うるさいっ!」
「つうか、いい加減にお前ら飯食え。」
「もぅ、ノイちゃん台無し~。」
「るせぇ、冷めると不味くなる。」
「なら冷めても美味しいもの作ってよ、下級料理人。」
「おい…。」
「まぁまぁ、食ったら例の犯罪集団捕まえに行くんだから、ここで体力使うなよ~。」
「…騒がしい。」
「あはは…。」
様々な声が響く海賊たちの夕食に、穏やかにガーナが持ってきた植物が揺れた。
