第18章

メシを食わされ続け栄養がしっかり体に回ったのか、いつの間にか視界は高くなりアイツと同じくらいの高さになった。
しかし、背は対等になったとしても相変わらず何に対しても手は抜いてくれない。
料理に対してはよりそれらしい調理法を叩き込まれるも満点は出ず、何度も挑んでは負けるケンカも相手の手の内が読めてきて秒殺される事は少なくなったがそれでも負ける。
悔しい、勝ちたい…そう思い続けてもうかなりの年月、いまだにそれは叶えられていない。
だが、それに加えられた感情があった。

やたらと早い時間にいつもしっかり起き、調理場の掃除、料理の下準備、客の捌き方、食材の買い出し見極め方…ただメシを作って終わりじゃない、日々の繰り返し。
休みの時でさえ、仕事の事を忘れる事無くメシを作り続ける。
(何で、こんな島でまともに生き続けられているんだ。)
聞けば島の外から来たと言われて何となく理解出来た、でもうちの店でもただメシ狙いの奴は来るし暴れる奴も居るけれど、アイツは変わらない。
「どんな奴でも、飯食う権利はある。」
一本筋が通っている…そんな言葉はだいぶ後から知ったが、アイツに合っていると思う。
とにかく負の感情しか向けていなかったのが、いつしか尊敬の感情も加えられていった。

「おつかい、行って来いよ。」
その日、いつもと変わらない時間にそう言われた。
必要な金銭を貰い、業務用だから荷台を引いて市場へ赴くいつもの仕事。
「…いつもより多くねぇか?」
「なんか知り合いの農家が食いモンが取れなくて値上げするんだってさ、その前に多めに買っておきたいんだよ。」
理由を聞いて納得したので、そのまま行く事にした。
「わんちゃん、気を付けろよ。」
もう名前を訂正するのも面倒なので振り向かずそのまま歩き始める。

繰り返した日常、それはもう戻ってくる事は無い。
あの店を飲み込む大きな火が全てを飲み込んだのだから。
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